早稲田大学は2004年度から「OSS研究所」発足させ,産学連携のもとOSS(オープンソース・ソフトウエア)に関する研究開発を拡大している。背景には,大学自身が事務システムにオープンソースを大規模に活用していること,そしてそのシステムで発生したトラブルによりノウハウ蓄積の必要性を痛感したことがあった。OSS研究所所長で教務部長も兼務する理工学部教授 深澤良彰氏に,発足の経緯や活動内容について聞いた。(聞き手はIT Pro 高橋信頼)

――早稲田大学では,オープンソース・ソフトウエアを使った大学システムを開発し,他大学にも公開しています。

深澤良彰氏
早稲田大学の大学システム
 事務システムは財務,人事,給与,入試,学籍,履修,学費など大学事務のほとんどをカバーするシステムです。「WISDOM/U(ウィズダムフォーユー,Web-based Information Systems -- Development and Operation Model for Universities)」と呼んでいます。

 2003年4月に稼動し,これまで大学の事務を支えてきています。Linux,PostgreSQL,PHP,Apacheといったオープンソース・ソフトウエアを使用したことで,開発,運用コストを大幅に削減できました。

 他の大学にもソースコードを無償で公開していますが,これまでに全国50以上の大学から打診があり,各大学と協力企業によるカスタマイズ作業が現在進行中です。

 大学システムであるWaseda-netでは,Linux,PostgreSQL,PHP,Apacheのほか,OpenLDAP,namazuやSambaといったオープンソース・ソフトウエアも利用しています。

PHPとPostgreSQLによるシステムがトラブルで使用不能に

 しかし,成功ばかりではありませんでした。科目登録システムでは,アクセスの集中により,処理が極端に遅くなり応答しなくなる,といった苦い経験をしました。学生が帰省先などからもインターネットを使って履修申請ができるようにするためのシステムでしたが,いったん利用を中止し,元のマークシートによる申請に戻さざるを得なくなった。「動かないコンピュータ」となってしまいました。

 こうした経験を通じて,PHPやPostgreSQLといったオープンソース・ソフトウエアの特性に対する知識の不足を実感し、技術の蓄積が必要だと痛感しました。

 メーカー製のソフトウエアであれば,メーカーがノウハウを持っています。しかし,オープンソース・ソフトウエアでは,ノウハウが十分に習得されておらず,そのことがトラブルを招いたり,オープンソース・ソフトウエアの普及を妨げたりする原因になっています。

 また,早稲田大学だけでなく,オープンソース・ソフトウエアに関する必要なレベルのスキルを持つ技術者が大幅に不足しており,育成のための教育環境を整備する必要があるとも感じました。

 そこで,2004年4月に「早稲田大学OSS研究所」を発足させました。

――OSS研究所の活動内容は。

 OSS研究所は,早稲田大学の「プロジェクト研究所」という制度に基づいたプロジェクトです。

 副所長は,NPO法人 日本エンベデッド・リナックス・コンソーシアムの会長も務めておられる中島達夫教授です。後藤滋樹教授,白井克彦教授,村岡洋一教授,松嶋敏泰教授,筧捷彦教授が研究員となっており,客員研究員として東京大学や慶應義塾大学,NEC,NECソフト,NTTコムウェア,松下電器産業,中国の清華大学や北京大学,韓国のソウル大学や高麗大学,米国のMITなど海外の大学とも関係を構築しています。

 OSS研究所が目指すところは3つあります。