鹿児島県 奄美群島の1つ,トライアスロン大会闘牛などで知られる徳之島。徳之島の3つの町は,いずれもLinuxなどのオープンソース・ソフトウエアを,庁舎内のイントラネットやインターネットのサーバーとして使用している。3町のうち,2001年の9月に先駆けてLinuxを導入したのが,人口約7200人の天城町だ。「これしかない,と思い町長を説得して導入した」という総務部電算係長 基田雅美氏に,オープンソースによる地域振興にかける思いを聞いた。(聞き手はIT Pro編集 高橋 信頼)

--オープンソース・ソフトウエアを導入したきっかけは。

天城町 電算係長
基田雅美氏
 きっかけは,総務省の「地域インターネット導入促進事業」に採択されたことです。実は,導入の検討を始めて初めてLinuxやオープンソースというものを知りました。それまではWindowsしか使用していませんでしたので。

 しかし,オープンソースを知るにつれ「これしかない」と思いました。まず魅力を感じたのは拡張性です。オープンソースならクライアントを増やしてもメールやサーバーの追加ライセンス料は必要ない。商用ソフトウエアだと追加ライセンスが必要だし,バージョン・アップ,バージョン・アップで費用がかかる。自治体では予算面で機動的に支出できないので,無償で使用できるオープンソースは助かります。

 何よりオープンソース・ソフトウエアは,自分たちが自由に使い,カスタマイズできる。”自分たちのもの”のように思えます。

 提案にはインテグレータ3社が参加して,2社はWindowsサーバーを提案,1社はLinuxサーバーを提案してきました。Linuxサーバーが最も安いわけではなかったのですが,クライアントが増えても追加料金のいらないオープンソースが,長期的には最も経済的と判断しました。

--無償ソフトウエアを導入することに不安はありませんでしたか。

 インターネットで実績があると聞いていたので不安はありませんでした。町役場内に不安視する声がないわけではありませんでしたが,私が「大丈夫です」と説得して回りました。町長にも「入れましょうと」と談判して口説き落としました。

天城町のホームページ
 Webサーバーのほかメール・サーバー,DNSサーバー,ファイル・サーバーとして数台のLinuxサーバーを使っていますが,実際にLinuxの安定性は高いですね。一度も停止したことはありません。管理の面では大きなプラスです。

 Linux以外のオープンソース・ソフトウエアも多数利用しています。コンテンツ管理システムはPHP,PostgreSQLと,オープンソースのグループウエアSkyboardを組み合わせています。グループウエアに登録したスケジュールや施設予約のデータを,情報公開用の外向けのホームページに表示する仕組みです。SkyboadがPHPとPostgreSQLで開発されていて,ソースコードが公開されているのでこういったカスタマイズができます。

 システムの管理にはWebminMRTGNetSaintといったオープンソース・ソフトウエアを使っています。無料のソフトウエアでここまでシステムの状態がわかる。メニューやメッセージは英語ですが…

--ITを地域振興にどう役立てていきますか。

徳之島の特産品を販売する
ゆいショップ
 地元の特産品を販売するサイト「ゆいショップ」を,2003年7月に開設しました。ある農家が「ホームページを作ったのだけれどあまり人が来てくれない」というのを聞いて,何か手伝えることはないかと思ったのがきっかけです。

 このゆいショップは,オープンソースのECサイト構築ツールosCommerceを採用しました。

 特産品を販売する農家などに向けて販売管理ソフトウエアを作っているんですが,オープンソースのオフィス・ソフトOpenOffice.orgと,CD1枚で起動できるLinuxのKnoppixを組み合わせようと思っています。販売管理はOpenOfiice.orgの表計算ソフトCalcの上に開発して,Knoppixを収めたCD-Rに収録して配る。こうすればCDで起動すればすぐ使え,インストールする手間はありません。ライセンス料が不要なので,いろんなアイデアを試して見ることができます。

 ゆいショップは2002年度総務省の地域情報化モデル事業に採択され,この事業をきっかけに念願のADSLが開通も決定しました。3月にはようやくブロードバンドが島にやってきます。

 今後の情報発信の飛躍が期待できるし,町民はもちろん学校でのインターネットの活用にも大きな効果があると思います。

 離島だからこそ,距離を克服できるインターネットの価値は大きい。今後は町全世帯への高速ブロードバンドの整備を進め,IT人材の育成や地域産業の発展ににつなげたいと考えています。