誰でも自由にニュースを書いて投稿できる。誰かが書いた記事はいつでも修正/加筆できる――。そんなニュース・サイトがある。米Wikimedia Foundationの「Wikinews」だ。Wikimedia Foundationといえば,自由参加のオンライン百科事典「Wikipedia」の成功が有名だ。WikinewsはこのWikipediaの考え方を踏襲している。コンテンツはすべて無料で著作権フリー。もちろん利用しているのはオープンソースのコンテンツ管理システム「Wiki」である。今回はWikinewsについてレポートする。

■記事の“状態”はアイコンで表示

写真1●Wikinewsのトップ・ページ(Main Page)
左側に「最新のニュース」,右側に「執筆中/編集中のニュース」がある
写真2●記事原稿を編集できるテキスト・ボックス
誰でも簡単に編集できる。最後に「Save page」を押す
 Wikinewsが始まったのはこの11月末。まだ1カ月にも満たないことと,今はベータ版ということもあって,現在の記事数はわずか数百。提供されている言語も英語版とドイツ語版のみだ。百科事典の方は現在105の言語版があり,合計記事数は100万を突破している。これと比較すると,Wikinewsの規模はまだまだ小さいが,海外のメディアはさっそく注目している。いわく「市民ジャーナリズムは広がるのか」「匿名性が問題になるのではないか」といった具合(掲載記事)。世界中に広がるWikipediaのコミュニティがニュースの分野にも展開されるかもしれない。そのことのインパクトや可能性,また危険性についてさまざまな考察をしているのだ。

 Wikinewsとはどんなものなのか,具体的に見てみよう。まず,トップ・ページを見るとニュースの見出しがずらりと並んでいるのが分かる(写真1[拡大表示])。このうちの1つをクリックして記事ページを表示すると,「edit」というリンクがあるのに気付く。これをクリックして編集画面に行くと,記事原稿のあるテキスト・ボックスが出てくる(写真2[拡大表示])。ここで,文章を修正したり,必要なことを書き加えられる。そして最後に「Save page」を押す。編集は,変更点を明記することなど一定のルールに従って行う必要があるが,基本的な使い方はWikipediaと同じだ。

 またトップ・ページの右には,「現在書きかけの記事」と「審査中の記事」がある。前者は赤枠付きのアイコン,後者は黄枠付きアイコンで表示され,記事の状態がひと目で分かるようになっている。これらアイコンの色は,原稿の中で決まった文字列(タグ)を記入することで変化する。例えば,書きかけ記事の場合は,{{development}} ,審査中の記事は {{review|~~~~}}といった具合(「~~~~」の部分はユーザー名とタイムスタンプに置換される)。審査対象の記事はディスカッション・ページで協議され,3人以上の同意を得るなど一定の条件をクリアすれば,タグの変更が可能になり,正式な記事となる。このときアイコンの色は緑に変わる。Wikinewsではこうしたタグ付け作業も含めて,誰でも自由にアクセスできるようになっている。

■信ぴょう性や完成度が懸念されるが・・・

 ここまで見て,こんな仕組みをみんなに開放して支障はないのだろうかという疑問が浮かぶ。必要なソフトはWebブラウザのみで誰でも自由に参加できる。登録に必要なのは,ユーザー名,パスワード,メール・アドレスだけ。誰か悪意のある人が虚偽のニュースを書けば収拾がつかなくなる。

 実はそうした懸念に対する1つの答えが,先行プロジェクトの百科事典Wikipediaで示されている。Wikipediaサイトに掲載の説明によると,誰かが誤った記事を書く可能性は十分にあるという。しかし実際の参加者はそれよりも多くいて,間違いはすぐに修正されたり削除されたりする。記事のクオリティーが初めから完ぺきでないことは確かだが,Wikipediaには自浄作用があり,時間とともに完ぺきなものに近づいていく。それがWikipediaの仕組みという(掲載ページ1掲載ページ2

 この仕組みはWikinewsでも採用している。例えば,正式な記事として掲載された後でも,新たに異論が出たり,誰かが書き加えたことによって問題となった場合は,それに対応したタグを付けられる。「削除要請が出ています」「情報が誤っている可能性があり,現在協議中」などと表示され,読者に注意を促す。これと同時に議論も進行する。議論の指針となる原則は「中立的な立場」と,Wikipediaと同じである。こうして多くの人が参加することで,危険性が減少していくと同時に,個人ではできない大きなものが出来上がるという。

■ブログとは一線を画す,Wikiという考え方

 2つのプロジェクトは著作権ポリシーについても同じである。Wikinews/Wikipediaでは,すべてのコンテンツは「GNU Free Documentation License」と呼ぶライセンスのもと提供されている。パブリック・ドメインの考え方を採用しているのだ。したがって「ユーザーが自分の見解を記事にして広く一般に発表する」というよりは,「コミュニティに参加して,自分の文章をそこに寄与する」,そんな考え方である。寄与したものは著作権フリーとなり,誰かに改変/削除されたりしてもよいことになっている。逆に(当然だが)著作権のあるものをコピーして掲載することは禁止されている。

 この考え方はブログと大きく異なるもので,Wikipedia/Wikinewsがオープンソースの百科事典/ニュースと言われるゆえんでもある。そしてこれは,両プロジェクトの基盤となっているWikiの考え方とも似ている。

 WikiはWebコンテンツの管理システムで,もともとはWard Cunningham氏が「Wikiwiki web」というサイトで使っていたプログラムだった。同氏がこれを公開したことから,今ではPerlなどで実装された多くの“Wikiクローン”が無償で提供されている。

 その特徴はWebページの作成/編集作業がWebブラウザ1つで行なえること。また整形ルールを使って,ページ同士のリンク,見出し/小見出し/リストなどの作成が容易にできることなどである。複数の人が自由に編集することを想定しており,使い勝手のよいコラボレーション・ツール/グループウエアと言われている。そしてWikipediaはこのソフトの特徴を生かそうと考えた人たちによって生まれたプロジェクト,またWikinewsはその延長線上にある最新のプロジェクトという位置づけだ。Wikiの考え方をふんだんに受け継いでいる理由がよく理解できる。


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 現在,Wikipediaは,フロリダ州に設置した9つのLinuxサーバーで運営している。いずれのもOSは「Fedora Core」,コンテンツ管理はWikiクローンのひとつ「MediaWiki」,データベースは「MySQL」を利用しているという。運営しているWikimedia Foundationは非営利団体で,活動資金は団体幹部やその関連企業,また一般からの寄付によって賄っているという。

 提供しているコンテンツも,利用しているシステムも,そして活動母体も,何から何までオープンという一風変わった印象を受ける団体である。そのWikimedia Foundationの新たな試み「オープンソースのニュース」は,今後Wikipediaのように普及するのだろうか。正直言って筆者には予想が付かないのだが,今後も大いに注目していきたい。

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