米Amazon.comが,10月4日に発表した「E-Commerce Service 4.0(ECS 4.0)」が興味深い(関連記事)。ECS 4.0はこれまで「Amazon Web Services」と呼んでいたXML Webサービス(以下Webサービス)の最新版。これを利用することで,同社のWebサイトで販売されているすべての商品情報にアクセスし,自分のWebサイトやアプリケーションに取り込めるようになる。

 大変人気があるようで,同社によるとSDK(開発者キット)をダウンロードした人の数はすでに6万5000人(発表資料)。多くの開発者が参加し,Amazon社の売上げ増に貢献しているという。今回はこのAmazon社のWebサービスについてレポートする。

■アフィリエイト・プログラムとは

 まず,Amazon社が提供するWebサービスとはどんなものかという説明の前に,アフィリエイト・プログラム(同社は「Amazon Associates」と呼んでいる)について触れておく。Amazon社のWebサービスは同プログラム参加者を想定したものだからだ。

 アフィリエイト・プログラムとは次のようなものだ。例えばあなたが誰かに購入を勧めたい商品があったとする。あなたは自分のWebサイトにその商品のリンクを張っておく。サイトを訪れたユーザーがそれをクリックすると,Amazon.comの該当商品ページに飛ぶ。その人がそのまま購入すれば,あなたにその分のコミッション(販売価格の最大10.5%)が支払われる。リンクにはあなたを識別できる番号が埋め込まれており,誰のサイトを仲介して購入されたのかが分かるようになっている。

 またAmazon.comでは,これより凝ったリンクも提供している。例えば,複数キーワードによる検索結果の一覧を表示するリンクや,指定したジャンルの中で異なる商品画像を切り替えて表示するリンク,検索ボックス付きのリンクなども用意している。これらのリンクはWeb上のツールで,ポップアップ・メニューを選択したり,コピー&ペーストしたりといった簡単な操作で作成できる。

■Webサービスはさらに高度

写真1●PDA製品を扱っているサイト「www.palmables.com」
Amazon.com商品の検索機能が組み込まれている
 これらアフィリエイト・プログラムのリンクとWebサービスの大きな違いはというと,前者はあくまでAmazon.comにジャンプするためのURLリンクであるということに対し,後者は,自分のサイトやアプリケーション内で各種の機能を提供できるという点。例えば,Amazon.comと同様のショッピング・カート,ウィッシュリスト検索,検索機能を自分のサイト内に自由なレイアウトで作り込める。

 百聞は一見にしかず。最もシンプルな例を挙げると,「www.palmables.com」「musickidswant.com」といったサイトがある。これらはショッピング・カートを備えておらず,検索機能だけを利用しているものだが,検索結果の表示を自社サイト内で行っている(写真1[拡大表示])。

 この2つのサイトは,カナダCusimano.comが作ったPerlスクリプトを利用している。同社はAmazon社のWebサービスに対応したスクリプト製品を販売している会社。同社サイト内では簡単なサンプル・スクリプトを公開しているので,興味のある方は参照されたい(Webサイト)。

写真2●アパレル商品のサイト「www.coolcatclothing.com」
Amazon社のWebサービスを利用して,検索,サイズや色の選択,ショッピング・カートといった機能を提供している
 もう1つの例は,MrRat氏のサイトで無料で提供しているperlスクリプト「Amazon Products Feed」。Amazon社の提供するXMLをパースして,Webサイトにリアルタイムに表示できるようにするというもの。同氏の作成したスクリプトを利用したアパレル商品のサイト「www.coolcatclothing.com」がある。アパレル商品はサイズや色など商品種が多くて複雑と思うが,それらをうまくやっているサイトだ(写真2[拡大表示])。同サイトではショッピング・カート機能も用意している。購入の最終段階に表れる「Buy from Amazon.com」というボタンを見るまでは誰もがAmazon.comの商品とは気付かない。

■利用は無料だが,報酬はアフィリエイトで

 Amazon社のWebサービスは無料で利用できる。SDKも無料でダウンロードでき,同社Webサービスのページで開発者登録を行えばよい。現在のところ,登録やSDKを含め、すべてが英語のみでしかサポートしない。ただし,おもしろいのは,ここで登録すれば,世界のAmazonグループ・サイトでWebサービスを利用できるということ。現在Webサービスを提供しているのは,Amazon.comのほか,Amazon.co.uk、Amazon.co.jp、Amazon.de。日本のサイトでも利用可能だ。

 なお,スクリプトやアプリケーションを開発したからといって,それによって報酬が支払われるわけではない。あくまでも開発者がアフィリエイト・プログラム(Amazon.co.jpでの名称は「アソシエイト・プログラム」)に参加し,自分のサイトやアプリケーション経由で販売が成立したときに,コミッションが支払われるという形である。また開発者登録はAmazon.comで1回だけ行えばよいが,アフィリエイト・プログラムは各国それぞれのサイトで申し込む必要がある。アフィリエイトの方は各国で運営が異なるためだ。

 今回刷新したECS 4.0では機能を大幅に強化している。例えば,100万点以上ある取り扱い商品のすべての画像にアクセスできるようにしたほか,カスタマ・レビューもすべて利用できる。検索の機能も強化しており,例えば,パソコンのバッテリ種類,CPUスピード,Firewireのポート数といった詳細な属性で検索が行える。Amazon.comで新たに始めた商品カテゴリ「貴金属/時計」「食品」「スポーツ/アウトドア」「楽器」にも対応した。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 Amazon社は,2001年まで赤字が続いていた。同年の第4四半期に初めて四半期ベースの黒字化を達成,その2年後の2003年になると通年でも黒字化し,その後増収増益を維持している。昨年10億ドル程度で推移していた売上高は,感謝祭から年末にかけてのクリスマス商戦がある第4四半期に19億ドルを突破した。そして今年もクリスマス商戦が始まった。今年の第4四半期の売上高は過去最高の22億9500万~25億4500万ドルを見込んでいるという(関連記事)。

 そんな同社の一貫した施策は,コスト削減。宣伝にかかるコストを抑え,その分を送料無料などの顧客サービスに充てる。そうした顧客第一主義が競争力につながるという(関連記事)。その戦略上にあるのがWebサービスというわけである。同社は今後も機能強化を図るほか,対応する国も増やしていきたい考えだ。

 こうして,Amazon社は世界中のサイトを着々と自社の支店にしている。例えばGoogleである商品を検索すると,一番上に表示されるサイトはAmazonだが,その下にずらりと続くのはAmazonのアフィリエイト・サイトで,すべて元は同じAmazon社の商品。今やそんな光景も珍しくない。同社の戦略通り,ネットワークは世界中で拡大しているようだ。自動的にお金が入る仕組みやその技術には興味があるが,自分が参加するとなるとその手助けをしているようで少し癪な気がする。そう感じるのは筆者だけだろうか?


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