米Apple Computerは米国時間7月7日,iPodの新モデル「iPod mini」の米国外での発売日を決定・発表した(関連記事)。同社は先ごろ,米国に次ぎ,欧州でもオンライン音楽販売サービスを始めた。また,まもなく販売楽曲数の累計が1億に達するとも発表しており,音楽関連事業の好調ぶりがうかがえる。

 そんなApple社だが,ここに来てアナリストなどから懸念の声が広がっている。それは,本業であるパソコン事業の伸び悩みを指摘するもの。その一方でiPodの売れ行きは絶好調で,前四半期では出荷台数が過去最高の80万7000台を記録している(関連記事)。同社はまもなく4~6月期の決算を発表する予定だが,その内容に今,注目が集まっている。

■iMacが在庫切れ,移行のタイミングに失敗

 折しも,Apple社は一体型パソコン「iMac」の在庫切れについて明らかにしたばかり。米メディアによると,理由は「品質管理面の問題」(米InfoWorldの記事)。これにより新型iMacの販売開始時期を9月まで延期せざるを得なくなった。その結果,現行モデルの在庫が切れ,7~9月期の1カ月ほど,iMacを販売しない。その影響は売り上げ全体の数パーセントに過ぎず,比較的軽微なものという見方もあるが,同社のパソコン事業に不信感が出ているこの時期であり,タイミングは悪かった。これを受けて当日の同社株価は5.2%下落,30.62ドルをつけた。

 不信感を持たれるのには,ほかにも理由がある。Apple社がiMacをリニューアルして,現行の液晶ディスプレイ型にしたのは,2002年1月。同社製品のフル・モデル・チェンジのサイクルはおよそ1年半~2年。つまりその時期はもうとっくに過ぎている。先日開催された開発者会議で新型iMacの発表があるかと期待されていたが,それもなかった。

■iPodは絶好調だが,iMacの落ち込みは止まらず

 同社の製品カテゴリには,iMacやiPodのほかに,ノート・パソコンの「PowerBook」「iBook」,ハイエンド・マシンの「PowerMac」(サーバー製品もこれに含む)などがある。このうちかつての稼ぎ頭はiMacだった。iMacは手ごろな価格や,液晶搭載のスタイリッシュな外観がうけて,発売当初の2002年1~3月期に4億4800万ドルを売り上げた。ところがその後,落ち込みが続いている(昨年10~12月期には2億5100万ドルにまで下がった)。PowerBookやPowerMacは,単価が高いことから貢献度は高いものの,昨年の後半をピークに下降中だ。その一方で,唯一iPodが急成長しているというのが現状である(グラフ)。

グラフ●Apple社のカテゴリ別売り上げ 単位:100万ドル。iPodの02年1-6月の数値は販売台数などから推定

 実はiPodが出た当初には「iPod」という製品カテゴリはなかった。販売開始から半年余りのあいだ,同製品は「周辺機器その他」に区分され,個別売り上げも公表されないほど小さな存在だった。しかしその後iPodは2つの出来事をきっかけにして,飛躍的に伸びることになる。

■売り上げ貢献度はナンバー3,コンシューマ製品ではトップ

 ●iPod関連年表
01年
11月
iPod初代モデル,5GBモデルで販売開始(399ドル)
02年3月 iPod初代モデルに10GBモデル(499ドル)追加
8月 2代目iPod,10GBモデル(399ドル),20GBモデル(499ドル)発売
ボディー薄くし,タッチ・ホイール・スイッチを採用
同時にiPodをWindowsに対応,ソフトは米Musicmatch製を採用
03年4月 1曲99セントでオンライン音楽販売を開始
5月 3代目iPod,15GBモデル(399ドル)と30GBモデル(499ドル)発売
オーディオ出力付き「iPod Dock」を採用
9月 3代目iPodのHDD容量を変更,20GBモデル(399ドル)と40GBモデル(499ドル)
10月 iTunesのWindows対応版リリース,Windowsユーザーにも音楽販売
累計販売楽曲数が1500万曲を突破
12月 オンライン音楽販売累計楽曲数が2500万曲突破
04年1月 iPodの累計販売台数が200万台突破
2月 米国でiPod miniを249ドルで発売
4月 オンライン音楽販売1周年,累計販売楽曲数が7000万曲突破
5月 中国Founder(方正)の全PCにデジタル音楽ソフトiTunes Windows版をプリインストールすると発表
6月 英・仏・独でオンライン音楽販売開始,1週間で80万曲を販売
7月 米国外でもiPod mini(4GB)を発売
オンライン音楽販売の累計販売数がまもなく1億曲になると発表

 1番目のきっかけは,2003年4月末に始めた音楽ダウンロード販売サービス「iTunes Music Store」。iPodはその前年最後の四半期,Windowsに対応したことで8100万ドルを売り上げていた。しかし年末の活気がなくなった2003年初め,3100万ドルまで低減。そこに登場したのが同音楽販売サービスである。これにより,4~6月期の売上高は回復,一気に1億1000万ドルにまで増大した。

 2度目のきっかけは昨年10月,Windows向けソフト「iTunes for Windows」のリリースである。それまでWindowsユーザーにはサード・パーティーのソフトで対応していたが,初めて自前で対応ソフトを提供。これにより,MacとWindowsの両プラットフォームで音楽サービスを利用できるようにした。

 その効果は1度目のそれより大きかった。同四半期のiPodの売り上げは前期から倍増し,2億5600万ドルとなった。この金額は,iBookやiMacのそれを超えており,iPodは同社の売り上げ貢献度ナンバー3にまで上り詰めた。次の四半期(今年1~3月期)も2億6400万ドルを売り上げ,年末の勢いを維持した。

 パソコンに比べて,ぐっと安価なiPodが台数ベースではなく,売り上げベースでここまで伸びたということには驚くばかりである。Apple社は,iBookとiMacを「コンシューマ」製品分野に分類して製品戦略を展開しているが,iPodはその分野でこの2つを抜いてしまった。今や同分野の押すに押されぬトップ製品。脅威の「周辺機器」である。

■過去の不安がふとよぎる

 ところが,今,このことがアナリストの懸念材料となっている。まもなく発表される4~6月期決算で,たとえiPodの売り上げが伸びていても,パソコンが振るわないのであれば,不安感は高まることになる。

 同社CEOのSteve Jobs氏には苦い経験がある。2000年9月末に,株価が急落したのだ。1日で52%下落し,時価総額にして約100億ドルが消えた(関連記事)。その要因は,売り上げ予測の大幅な下方修正,鳴り物入りで投入した「Power Mac G4 Cube」の不振(注1),次期OSであった「Mac OS X」への不信感など。いくつかの不安材料が重なって,期待感が一気に消えた。

注1:Power Mac G4 Cubeの発売は2000年7月。独創的なパソコンだったが,電源部分の不具合などいくつかの問題が重なり、その1年後に発売中止となった。

 音楽販売が好調で,過去1年数カ月間の累計販売数が1億曲になったとしても,1曲はわずか99セント。合計額は1億ドルに満たない。同社の売り上げ規模を考えると,これは大した貢献にならないことは明らかである。

 一方で,オンライン音楽販売と,ハードディスク搭載型携帯音楽プレーヤの両市場には,ソニーをはじめとする大手が本格参入している。もはやApple社といえども安閑とはしてはいられない状況だ。そうした中,同社が取り組むのは,周辺機器ではなく,本業のパソコンであるべき。そんな声が広がっているのだ。iPodの伸びが目覚ましいことを強調した決算報告では,この不安感はぬぐえない。今度の決算,この点に注意して見てみたいと思う。

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