スウェーデンMySQL ABの動きが活発だ。この1月も,米JBoss Groupとの技術/販売提携(関連記事),米Zend Technologiesとの技術提携などを明らかにしたばかり(発表資料)。

 同社が手掛ける同名の「MySQL」は,オープン・ソースのデータベース管理システム(DBMS)。オープン・ソースのDBMSには日本で定着している「PostgreSQL」がある。Webアプリケーション構築環境「LAPP(Linux,Apache,PostgreSQL,PHP)」の1つとして有名だ。しかし米国では,このPostgreSQLに代わってMySQLを加えた「LAMP」が定着している。

 そして今,MySQLの利用が急増しているという。米Evans Dataの調査結果によると,「Microsoft SQL Server」と「Access」の利用は昨年で6%増加したのに対し,MySQLのそれは30%以上増えた(発表資料)。MySQLは日本でも人気が高まっており,今後はPostgreSQLを凌ぐほどに普及するのではないかと言われている。今回はこのMySQLについてレポートする。

■ライセンスは,GPLと商用の「デュアル」形式

 米国でMySQLが人気を博している理由の1つは,無料もしくは低価格で導入できるという点だ。

 MySQLは,2つのライセンス形態のどちらかを選択できる「デュアル・ライセンス」で提供されている。1つは,GPL(GNU General Public License)ライセンス規約の下に,無料で利用できるというもの。もう1つは,商用ライセンスである。

 前者は,誰でも自由に改変・再配布できるが,改変を行った場合,それを公開しなければならないという決まりがある。例えば,MySQLを使うアプリケーションを販売したいが,その際ソース・コードの改変・再配布を禁じたい場合は,GPLに適合しなくなるので,商用ライセンスを購入することになる。

 ただし,この商用ライセンスは安価である(「Classic」版で購入ライセンス数が9個までの場合249ドル,100個になると105ドルにまで下がる)。また接続するユーザー数や,CPU/メモリーの数などに制限はない。1台のマシンに複数のMySQLサーバーを走らせる場合でも,1個の商用ライセンスがあればよい (MySQL社のライセンス料金ページ)。

■大規模向け機能の実装を進めるMySQL

 こうしたライセンス体系とともに,企業を引きつけているのが,MySQLの処理速度の速さであると言われている。もともとMySQLは,処理性能を追求して開発されたDBMSだからだ。MySQLで標準となっているデータ・ストア・エンジン(注1)は「MyISAM」で,これは,データの追加/更新/削除を行うトランザクション機能を持たない。機能をデータの入出力(検索/閲覧)だけに絞ることで,速度の向上を実現しているのだ。

注1:MySQLでは,テーブルごとに異なるデータ・ストア・エンジンを選べるようになっており,これがPostgreSQLなどの他のDBMSとは異なる特徴となっている。

 しかしこのことが,これまで「処理速度には定評があるが,大規模システム向け機能は備えていない」と言われてきたゆえんでもある。そこで,MySQLはここ最近,さまざまな機能の実装を進めている。

 例えばMySQL 4.0以降では,標準でトランザクション機能を用意している。フィンランドInnoBase Oyが開発したデータ・ストア・エンジン「InnoDB」を標準で組み込んでおり,これがトランザクションをサポートするのだ。

 同社は,InnoDBでオンライン・バックアップを可能にする「InnoDB Hot Backup」も開発している。同製品は,商用ソフトで,日本ではソフトエイジェンシーが販売している(ソフトエイジェンシーの発表資料)。

 また,MySQL社がこの1月に発表した「MySQL 5.0」(関連記事)では,ストアド・プロシジャに完全対応している。ストアド・プロシジャとは,一連のトランザクション処理(プロシジャ)をあらかじめコンパイルし,DBMSサーバーに保存(ストアド)したもの。クライアント側からはプロシジャの名前を呼ぶだけで,処理をサーバーに依頼でき,またサーバーはSQL文を逐一コンパイルして実行しなくて済む。サーバーの負荷とトラフィックが軽減でき,処理性能が向上するというメリットがある。

■SAPなどとの連携で普及に拍車

 こうして,MySQLは小規模システム向けから大規模システム向けへとその利用範囲を広げつつある。そして,その進化を支えているのが,ドイツSAP AGをはじめとする各社との協力体制である。

 以下にMySQL社のここ最近の動きを見てみよう。

 まずは,SAP社との提携である(関連記事)。その内容は,SAP社がGPLで公開していたオープン・ソースDBMS「SAP DB」とMySQLを統合するというものだった。

 SAP DBは,大企業クラス向けの高機能DBMS(米Intel,独DaimlerChrysler,独Braunなど全世界5000社に利用されているという)。SAP社はこの提携のもと,SAP DBの商用利用権(開発と販売)をMySQL社に与えた。これを受けMySQL社は,SAP DBの名称を「MaxDB」(正式には「MaxDB by MySQL」)に変更。そして,MySQL社はその成果物である「MaxDB 7.5」を昨年11月にリリース,MySQLと同様のデュアル・ライセンス形式で提供を始めた(発表資料関連記事)。またこれと同時に,MySQL社はSAP DBの技術をMySQLにも取り入れている。

 MySQL社は昨年10月に,クラスタリング技術を手掛けるスウェーデンAlzatoを買収している。同社の技術を使って,可用性の高いデータ管理エンジンをMySQLに組み込む計画である(発表資料)。また今年に入っては,Itanium 2搭載HP-UX環境への対応も発表している(関連記事)。

 冒頭で述べた,JBoss社との提携では,Javaベース・アプリケーション・サーバー「JBoss」をMySQLやMaxDB向けに最適化し,これらをユーザーが容易にインストールできるようにする。JBoss社とは,マーケティングとサービス提供に関しても協力体制を敷いている。またZend社とは,MySQLとZend社のPHP製品の互換性を高め,企業がオープン・ソース・ソリューションを利用しやすくする。ちょうどLAMPのような形で両社の製品を合わせたソリューションを提供していきたいという。

■低くなったオープン・ソースの垣根

 前述のEvans Data社の調査結果に戻るが,企業はTCOのほかに,「信頼性(安定性)」「既存環境への統合」についても重視している。

 これまでは,オープン・ソース・データベースを使いたいと考えていても,懸念材料が多くあった。しかし,ここに来てかつて言われていたような問題はなくなりつつある。例えば,導入サービスやサポート・サービスの提供会社が増えたり,そのサービス内容も充実してきている。また技術者も増えているので,人員確保がしやすくなっている。今回見てきたようなMySQL社の活動も企業を安心させている。

 つまり,これまで企業を躊躇(ちゅうちょ)させてきた理由がなくなりつつあるのだ。Evans Data社の調査では,企業のデータベース開発者の62%が,「Linuxをはじめとするオープン・ソース環境を導入することで,なんらかのコスト削減ができると期待している」という。また同社では今後もこのような傾向が続くとみている。このことは,企業にとって,オープン・ソースを導入する環境が十分に整ってきたと言えるのではないだろうか。その代表格がMySQLを含むLAMPなのだと思う。

◎関連記事
スウェーデンのMySQL,GUIベースのデータベース管理ツール「MySQL Administrator」
スウェーデンのMySQL,オープンソース・データベースの新版「MySQL 5.0」
スウェーデンのMySQL,オープンソース・データベースにItanium 2搭載HP-UX環境のサポート
「MySQLの利用が過去6カ月で30%以上増加」,米Evans Dataがデータベース開発の調査結果
SAP R/3などに対応したオープンソースDBMS,ゼンドが販売へ
ゼンドがオープンソースDBMSのMySQLを販売へ
スウェーデンのMySQL AB,高可用性クラスタリングのAlzatoを買収
PHPは100台近く,MySQLは1億レコードのDBで使用---楽天 開発推進部長 安武弘晃氏に聞く
オープンソースで利益を上げるには?
新機能をどんどん実装しR/3も動かす---MySQLの“生みの親”Widenius氏に聞く
ホストを捨て基幹をLinuxで再構築,保守料金3億円を6500万円に-有線ブロードネットワークス
ゼンドがオープンソースDBMSのMySQLを販売へ
スウェーデンMySQLと独SAP,企業向けオープン・ソースDB開発で提携

【オープンソースでどこまでできる】第3回 オープンソースDBMSのMySQL(1)

【オープンソースでどこまでできる】第3回 オープンソースDBMSのMySQL(2)

【オープンソースでどこまでできる】第3回 オープンソースDBMSのMySQL(3)