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1年ですっかり様変わりしたデジタル音楽市場,競争はさらに激しく

2004/01/16

 年明け早々,米国ではCES(Consumer Electronics Show,家電製品の展示会)をはじめとする大きな展示会が相次いで開催され,家電メーカー,IT企業といった業界の垣根を越えた製品や技術,サービスが数多く紹介された。中でも筆者が興味深かったのがデジタル音楽だ。

 例えば,ソニー米国法人のオンライン音楽サービス(関連記事),米Apple Computerの「iPod mini」(関連記事),米RealNetworksのメディア・プレーヤ新版「RealPlayer 10」(発表資料)がある。

 ちょうど1年前の今ごろ,本コラムに「MS vs ソニー,デジタル・メディアを巡り新たな戦い始まる」という記事を掲載した。米Microsoftとソニーがそれぞれ自社のプラットフォーム拡大を目指し,デジタル・メディア市場で競争を繰り広げている,という内容だ。あれから1年がたった今,デジタル・メディアの市場,とりわけデジタル音楽の市場は当時の予想をはるかに超えて様変わりした。その最大の要因は,Apple社が昨年始めた音楽ダウンロード販売サービスである。

 今回は,業界の最新動向をレポートするとともに,このわずか1年で変容してしまった同市場について見てみたい。

■2004年,競争は本格化

 まずは,現在のデジタル音楽の市場がどうなっているのか確認しておこう。Apple社が,音楽ダウンロード販売サービス「iTunes Music Store」を始めたのは昨年の4月末だった(関連記事)。その後,10月に米Roxioが「Napster 2.0」の正式サービスを開始(関連記事)。時を同じくして米Dellが携帯音楽プレーヤ「Dell Digital Jukebox(Dell DJ)」を発表し,米Musicmatch音楽ダウンロード・サービスを利用できるようにした(関連記事)。

 Microsoft社はというと,昨年8月に同社と組む英On Demand Distribution(OD2)が欧州向けのサービスを開始した(関連記事)。12月には,オーストラリアの合弁会社Ninemsnで,オンライン音楽ストア「ninemsn Music」を2004年初めに始めると発表した(関連記事)。

 この12月には米Wal-Martも市場参入を発表。こちらは米Liquid Digital Media(旧社名:Liquid Audio)の資産を利用した楽曲の提供を予定している(関連記事)。

 今年に入ってからは,RealNetworks社がメディア・プレーヤの新版とともにダウンロード販売の開始を発表した。ソニーの米国法人もこの春にサービスを開始する予定である。

企業名 サービス名 楽曲数 エンコード形式
Apple Computer iTunes Music Store 50万曲 AAC
RealNetworks RealPlayer Music Store 30万曲 AAC,WMAなど
Roxio Napster 2.0 50万曲 WMA
Microsoft/英OD2 MSN Music Club 100万曲 WMA
Microsoft/豪Ninemsn ninemsn Music 25万曲 WMA
ソニー(米SCA) Connect 50万曲 ATRAC3
Musicmatch Musicmatch Downloads 25万曲 WMA
Wal-Mart Walmart.com 10万曲 WMA

 こうしてみるとデジタル音楽市場がいかに多くの企業でひしめき合っているかがよく分かる。2004年は,市場に本格的な競争時代が到来する。そう言って間違いないだろう。

■デジタル音楽業界はどう変わったか

 こうした流れの起爆剤となったのが,ほかならぬApple社である。同社は10月にWindows対応ソフトをリリースし,同市場に本格参入した(関連記事)。米New York Timesに掲載の記事によると,同社のシェアは現在70%。サービスを開始して以来販売した楽曲数はすでに3000万曲を超えた。Apple社ではこれが,今年4月までに1億曲になると見込んでいるという。

 同社がこうして成功を収めている要因はいろいろあるが,最も顕著なのが,1曲99セントという単曲販売にあると言われている。Apple社がiTunes Music Storeを始めるまでは,業界ではサブスクリプション(会費制)が主流だった。10〜20ドルの月額利用料金を支払ってサービスを受け続けるという形式だ。ユーザーがダウンロードした楽曲をずっと聞き続けるには,会員契約を継続する必要があった。またCD-Rなどに書き込むにも追加料金かかるなど,制約が多かった。

 これに対して,iTunes Music Store開始以降,各社が発表したサービスの内容はおおむね次のようなものである。

・Apple社と同じく単曲販売の導入
・1曲の価格がApple社と同じ99セント
・Apple社と同じく何十万曲という楽曲を提供
・Apple社と同様の携帯型再生環境を用意

 こうしたApple社をモデルとした競合各社の追随は,Apple社の成功を物語っていよう。

■デジタル音楽の販売だけでは儲けが出ない

 今年は,Apple社の手法をまねた各社が競争を激化させていく。やがては競争に負ける企業も出てくるだろう。実はデジタル音楽の販売では,それほど多くの利益が望めないからだ。

 米Forrester ResearchアナリストのJosh Bernoff氏によれば,Apple社の場合,1曲70セントをレコード会社に支払っている。つまり同社の1曲当たりの粗利は29セント。同社が今年の4月までに1億曲を販売するとして,その粗利合計は3000万ドルに満たない。これはもちろん宣伝費用やオンライン・ストアの運営費を差し引く前の金額である。

 Apple社アプリケーション/サービス・マーケティング部門ディレクタのPeter Lowe氏によれば,同社サービスの収支はほぼトントンとのことである(New York Timesの掲載記事)。シェア70%を誇るトップ企業でこの程度なのだ。

■自社のプラットフォームで囲い込む

 ただしApple社の場合はそれでも十分なメリットがある。Apple社はこれによって携帯音楽プレーヤ「iPod」の売上げを伸ばしているからだ。同社が1月14日に発表した2003年10〜12月期の業績報告によれば,同期間のパソコン出荷台数は前年同期比12%増。これに対しiPodは同235%増となっている(関連記事)。iPodの累計販売台数はすでに200万台を超えており,そのシェアは31%だが,iPodは他社製品に比べ高額なため,売上げベースのシェアにすると55%になるという。

 この夏には,米Hewlett-Packard(HP)ブランドのiPodも登場する予定だ(関連記事)。また米国で2月に発売される小型版iPodでは,携帯電話のように首からぶら下げたり,腕に取り付けてジョギングするなど,新しい使い方で新規ユーザーの獲得を狙っている。

 こうしたApple社と同様の戦略は,その形態こそ異なるものの,他社も目指している。例えばソニーはMDの新規格「Hi-MD」を用意しており,ユーザーが購入した楽曲を,同規格に対応した新型「Walkman」で聴けるようにする(関連記事)。ソニーの場合は,著作権管理技術に加え,ファイルのエンコード形式に自前のものを使う。Microsoft社もしかりである。Microsoft社の場合は,著作権管理技術,エンコード技術に加え,機器に組み込むOSも用意する(関連記事)。これらをライセンス供与することで利益を得るのだ。

 つまり,デジタル音楽の小売りだけでは利益が生み出せない。サービスそのものや,エンコード技術,著作権管理技術といった自社のプラットフォームをうまく使って,市場を囲い込む。今後はそうした企業だけが生き残っていくのだろう。

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