みなさんはもう米Amazon.comの書籍全文検索サービス「Search Inside the Book」を利用されただろうか? 同社がオンライン販売する書籍のうち,12万冊以上,総ページ数3300万ページを対象とした検索サービスである。

 これまでAmazonでの書籍検索は題名や著者名くらいでしかできなかったのに対し,同サービスでは文字通り,本の中身の全テキストを対象に検索できる(関連記事)。

 その目的は書籍販売の促進。利用料は無料で,もちろん日本のユーザーでも利用できる。10月23日に始まったばかりだが米メディアなどを見ていると,すでに「書籍版Google」「真のリファレンス・ツール」といった言葉で賞賛されいる。

 その一方で,出版社や作家などの間では懸念が広がっている。同サービスでは検索結果の一節だけを表示するのではなく,該当するページとその前後数ページも閲覧できる。これで用が足りてしまう人がいるので,本が売れなくなるというのだ。

 日本では書店などで本の中身をカメラ付き携帯電話で撮影する,いわゆる“デジタル万引き”が問題となっているが,それと同様の懸念である。しかしAmazon.com社はそうは考えていない。逆に本が売れたと言っている。はたしてどちらが正しいのだろう? 今回はこの新サービスについて検証してみたい。

■特別な知識は一切不要

 サービスを利用するにはクレジットカード番号などの個人情報を登録する必要があるが,特別な知識はいらないし,難しいことは何もない。手順を表示画面ごとに見てみると,(1)Amazon.comのトップ・ページで,通常の検索ボックスに任意の単語を入力して,ポップアップ・メニューで「Books」を選択,「Go」ボタンを押す。(2)該当する単語を含む書籍のリストが表示される。その中で表紙の縮小画像の上に,「SEARCH INSIDE」アイコンが付いているものが中身を閲覧できる本である。

 次に,その本のところにある「See more references to xxx in this book」(xxxにはあなたが入力した検索語が入る)をクリックすると,(3)その本の中で検索語が入っているページがリスト表示される。ここではページ番号と検索語の前後の文章の一節が表示される。ページ番号はリンクになっているので,これをクリックする。

 (4)実際の本のページをスキャンした画像が表れる。本の中身そのものを閲覧できるのだ。さらに,画像の左右にある三角マークをクリックすると前後のページに移動できる。1つの該当ページに付き,該当ページとその前後2ページずつ,合計5ページを閲覧できる。

■Amazon.comは気前良過ぎ?

 実際にあれこれ検索してみるとすぐに分かるのだが,手順(3)の画面(検索語が入っているページのリスト表示)で該当ページがいくつも表示される。1つの該当ページに付き計5ページを表示できるのだから,例えば10の該当ページがあれば最大50ページを閲覧できてしまう。該当ページが多ければ多いほど当然ながら閲覧できるページも増えるのだ(SiliconValley.comの記事によれば1人のユーザーが1カ月以内に閲覧できるのは全ページの20%までという制限があるというが)。

 さらに(3)や(4)の画面には,「目次」や「索引」のページを閲覧できるリンクもある。これらをうまく利用すれば,目的のページが見つけやすくなる。「Amazon.comは気前が良過ぎ。これでは顧客の本を買う気持ちが薄れてしまう」という出版社/作家の文句がよく理解できる仕様である。

 New York Timesオンライン版の記事によると,米国の作家協会であるAuthors Guildのスタッフが,単語を変えながら検索を繰り返したところ,いくつかの書籍で,連続した100ページを閲覧・印刷できたという(掲載記事:閲覧には無料登録が必要)。

 実はこうした懸念に対し,Amazon.com社ではいくつかの対策を講じているのだが,それが有効かどうかについては少し疑問がある。

■対策は有効なのか?

 同サービスの最大の“功績”は,ユーザーに見せるページをスキャン画像にしたことといってよいだろう。検索サービスを提供していることから全文はテキスト化されているはず。しかし検索結果にはそれを表示しないで,あえてスキャン画像を提供している。こうすることで,ユーザーは安易にコピー&ぺーストできない。著作権侵害の手助けにならないよう配慮しているのだ。それにしても1枚1枚の画像をスキャンするのは大変な労力だったと思うが・・・。

 実はサービス開始の当初,Webブラウザ上で印刷が可能だったのだが,11月1日以降はできなくなった(MercuryNews.comの記事)。具体的には,Webブラウザから印刷を行った際,本のページ画像部分だけ表示されないようになった。ただしこれはスタイルシートでmedia規則を使ってそのように記述しているだけの話。何も特別な技術を使っているわけではない。

 ページ画像をユーザーのパソコンに保存されるのではないかという懸念にも対処した。画像の保存やコピーをできないようにしたのだ。Webページを「名前を付けて保存」(あるいは「別名で保存」)することはできるが、ファイルを開いてもスキャン画像の部分だけは表示されない。また画像上でマウスを右クリックしてもコンテクスト・メニューは表示されない。よってクリップボードへのコピーは不可。

 しかし,これについても特別な技術は使っていない。Windows版のIE(Internet Explorer)でそのようなことができないようなJavaScriptを記述しているだけだ。例えばOperaを使えばコピーは可能だ。MacintoshではIEでもSafariでもコピーやデスクトップへのドラッグなどができてしまう。つまり,ブラウザで直接印刷できなくてもダウンロードは可能,またパソコン画面のスクリーン・ショットを取ることもできる。ユーザーがパソコンで保存したり印刷することはいとも簡単なのだ。

■犠牲者は誰?

 Amazon.com社は今後どのようにしてこれらの問題に対処していくのか明らかにしていない。ただし,出版社などの要請を受けて,同サービスに適さない書籍を対象から外していくという。これには詩集,料理本,旅行本など,単ページあるいは数ページで1つの内容が完結してしまうものや,大学の参考図書などがあるという。

 その一方で対象書籍を増やしていく計画もある。同社の発表資料によれば,同サービスを開始して以来,新たに37の出版社がサービス参加の意向を示しているという。また同じ資料で,サービスを開始して以来,対象となっている書籍の売り上げの伸び率が,非対象のものに比べ9ポイント多くなったとも述べている(発表資料)。

 これは,あながちウソではないだろう。確かに利便性が向上したからだ。この新サービスは,実店舗に対抗する同社の策として,自然な流れとして出てきたものと思う。これまで実店舗で可能で,Amazon.comで不可能だったこと,それは好きなように本の中身を見ることである。そこで同社は,全文検索という離れ技を組み合わせてそれを可能にした。そうすることで実店舗をはるかにしのぐ利便性が生まれた。「探している本も見つかるが,探していなかった本も見つかる」(同社)というのは,すでに多くの人が体験していることと思う。

 ただし,Amazon.com社がいくら売上げが伸びたことを証明してみても,それで問題が解決したわけではない。前述のような技術的問題から,“デジタル万引き”と同様のことが依然可能だからである。このサービスによって本を買う人も増えるだろうが,本を買わない人も増えると筆者は考える。前者はAmazon.com社を潤す。後者はAmazon.com以外の米国の書店に損害を与える。そんな気がする。

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