今年のCOMDEX Fallも例年同様,さまざまな製品・技術が発表された。もちろん米Microsoftも多くの発表を行った。ざっと振り返ってみても,「『Windows XP Media Center Edition』(Freestyle)の新たなハードウエア・パートナの発表」(発表資料),「米Dell Computer初のPDAとなる『Axim』」(関連記事),「『Windows CE for Smart Displays』(Mira)搭載機の出荷日発表」(関連記事)といった具合。

 技術者には「『Windows .NET Server 2003』の出荷時期の発表」(発表資料)」「開発ツール『Visual Studio .NET 2003』の最終ベータ版のリリース」(関連記事)が記憶に新しいだろう。

 このほかにもBill Gates氏のビジョンである「コンピューティング革命」の話や,このビジョンをベースにしたプロトタイプの披露など,実にいろいろあった。

 Bill Gates氏は基調講演の中で,「OneNote」と呼ぶ電子ノート・ソフトのデモを行っていた。COMDEX閉幕後からしばらくたった今,このソフトが米メディアでどのようにとらえられているかをチェックしてみた。

 各メディアの記事を見ていると,「パワフルなアイディア・プロセッサ」「Tablet PCのキラー・アプリになる」(InfoWorld),「当初思われていたよりもはるかに重要な意味を持つ」(Windows & .NET Magazin)と,今のところ好意的な論調が目立つ。米メディアの辛らつな論調を読み慣れている筆者としては,これは意外だった。

 もちろん,OneNoteはまだ適切な評価を下せる段階ではないが,Microsoftの今後の戦略,特にOfficeとTablet PCの次の一手を占う上で重要なソフトであることは間違いないだろう。今回は,このOneNoteについてレポートしてみたい。

■デスクトップPCやノートPCでも使える

 まずOneNoteの概要を説明しよう。とは言っても現時点で手に入る資料はまだ少なく,“分かり得る範囲の詳細”になることをご容赦いただきたい。

 OneNoteは,手書き入力とタイプ入力のどちらにも対応するノート・ソフトである。タイプ入力ができることで,通常のデスクトップPC/ノートPCでも使えるところが「Windows Journal」(Tablet PCに付属する手書き入力ソフト)とは異なる。

 OneNoteはノート・ソフトと言っても,ちょうど学生が持つバインダ・ノートのようなもので,記録するメモはインデックスで科目ごとに整理できる(写真)。OneNoteはその開発コード名が「scribbler」(“scribble”は“走り書き”“殴り書き”という意味)ということもあって,さまざまな情報を容易にメモできるし,また横断的な検索も行える。この検索は特定の単語を入力して,OneNote内にある無数のメモの中から必要なものを探すといったもの。ちょうど辞書ソフトのようである。またTablet PCで使う場合は手書き文字の検索も可能になるという。

 OneNoteは音声入力も可能で,これにはタイム・スタンプの機能が付く。例えば会議などでテキストでメモを取りながら音声を録音しておけば,その音声とテキスト・メモの関連づけがされる。「ノート・パソコンの内蔵マイクの性能から,まだ音声認識とまではいかないのだが,この機能だけでも非常に便利」(Microsoft社OneNote開発チーム・リーダーのChris Pratley氏)としている。

■「Office新戦略の第二弾」という位置づけ

 OneNoteでは,手書き・タイプ入力,音声入力ができるほか,WWWページの情報をドラッグ・アンド・ドロップで貼り付けたり,書き溜めたメモを文章やパラグラフ単位で移動し整理できる。優先順位の変更や仲間との情報共有も行える。

 つまりワープロ・ソフトが,文書作成の最終工程を支援するツールなのに対し,OneNoteはそれ以前の工程を支援することを狙ったツールと言える。「紙では,ページ全体を使って文字,図,絵をなどを自由自在に書ける。その半面,情報を探したり,組み替えたりするには不便。電子的なノートは,考えを仲間と共有できて大変便利だが,紙のような自由度はない。OneNoteは両方のよいところだけをとってきて組み合わせており,考え,調査資料,メモをすべて一個所で管理できる」(Microsoft)

 OneNoteはMicrosoft社にとって,これまでの手書き入力ソフトとは異なる存在になる。それは同製品の位置づけを見ることでも分かる。Microsoft社はOneNoteを「Office」製品系列の一つと位置づけているのだ。またその出荷時期は来年の半ばを予定している。つまりOffice XPの次期版「Office 11」の出荷時期と同じである。さらにOneNoteは,同時期にリリース予定の「XDocs」(関連記事)に次ぐ製品となる。つまりOffice新戦略の第二弾となるソフトなのだ(注1)

注1:OneNoteがOffice 11にバンドルされるのか,単体で販売されるのかについては未定。Microsoft社ではまだ価格も決めておらず,「後日明らかにする」(プロダクト・マネージャのRoan Kong氏)とコメントしている。

 米InfoWorld誌Test CenterディレクタのSteve Gillmor氏は,「現在のOfficeは将来的にOneNoteのレンダリング・エンジンのような役割を担うことになる」という。つまりユーザーは,OneNoteの情報をもとに,「Word」で清書し,「Excel」で計算を行う。また「PowerPoint」でプレゼンテーションし,「Outlook」で情報をやりとりするようになるというわけである。

 またOneNoteはXMLを考慮して開発が行われているという。「初版となる『OneNote Version 1.0』ではXMLを直接的にサポートしないが,将来的にユーザーに必要と考えれば対応する。すでにそのような設計で開発が進められており,対応にかかる作業は大したものにならない」(Microsoft社のChris Pratley氏)

■“コンピュータ革命”を語るよりもOneNoteを分かりやすく語ってほしい

 Microsoft社は今回のCOMDEXで少し風変わりなものも披露している。いずれもプロトタイプなのだが,例えば,「スポーツ・ニュースや家族のスケジュールを表示する“冷蔵庫のマグネット”」「リアルタイムでニュース,メッセージ,株価情報などを表示する腕時計」なんてものがある。

 「タッチ・スクリーンを備えた小型の置き時計」は,ユーザーが時間帯の異なる地域に移動しても,時計が時差を考慮して時刻を自動修正するという。またユーザーのスケジュールに合わせてアラームを設定したり,天気予報,交通情報を表示する機能も備える。

 同社ではこれらを「Object」と呼んでおり(「Smart Personal Object」を短くしてそう呼んでいるらしい),Gates氏は,こうしたObjectとOneNote,そしてTablet PCが,「PCから真のパーソナル・コンピューティングへと移行するコンピューティング革命を支援する」と説いている。

 同氏としては当初期待していたほどは評判が芳しくないTablet PC(関連記事)をなんとかを盛り上げたいところ。こうしたビジョンを掲げて新しいコンピューティング像を示したい気持ちも分かる気がする。

 しかし,筆者としてはここは,そうした漠然としたものとOneNoteを切り離して,より分かりやすく説明するよう勧めたい心境だ(せっかくOneNoteの評判がよいのだから)。

 前述のSteve Gillmor氏も次のように語っている。「OneNoteがもっと薄く小さい機器に搭載されたら,私は今使っている小型携帯機器とさよならする」――(同氏)

 これがユーザーが本当に求めているOneNoteの利用法なのかもしれない。おそらく同社が注目すべきものは「冷蔵庫のマグネット」なのではなく,OneNoteを搭載した“Object”なのだろう。

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