ラスベガスで先週開催されたCOMDEX Fall 2002で,Linux業界にとって大きな発表があった。「UnitedLinux」の初版がついに完成したのだ。

 UnitedLinuxとは,企業向けLinuxディストリビューションの普及を目指す企業連合の名前であり,それによって作られたOSである。ドイツのSuSE Linux AG,米SCO Group(旧社名:Caldera International),ブラジルのConectiva S.A.,米Turbolinux(現在はターボリナックス)の4社が今年の5月31日に結成(関連記事)し,これまで共同で開発を進めてきた。

 そして,先週のCOMDEXでその初版となる「UnitedLinux Version 1.0」を発表したのだ(関連記事)。同時にSuSE社とSCO社の2社は,これをベースとしたそれぞれのディストリビューション(「SuSE Enterprise Server 8」と「SCO Linux 4.0」)も発表している(関連記事)。

 UnitedLinuxの最大の目的は,その名が示す通り「統一したLinux」の提供である。これにより,各社の開発コストを削減することを狙っている。さらに,「ハードウエアとソフトウエア・プラットフォームで動作確認したLinuxを提供することで,ハードウエア・メーカー,ソフトウエア・ベンダーの動作検証にかかるコストも削減する」(UnitedLinux)。つまり,4社は互いに協力し合うことで,自らにも,顧客企業にもメリットをもたらすことを狙っているのだ。

 ところが,このUnitedLinuxには気がかりなことが2つある。1つはLinuxディストリビューション最大手の米Red Hatが参加していないこと。そしてLinuxの標準化団体としてはFSG(Free Standards Group)が存在しており,これがすでに広く認知されていることである。

 「UnitedLinuxは“統一”を掲げているものの,決して業界を代表する存在にはなっていないではないか」――。こういった声さえ聞こえてくるのである。

 果たして,このUnitedLinuxは今,業界でどんな存在なのだろうか? また今後業界に何らかの影響を与えるとしたら,それはどういうものなのだろうか? 今回はこのUnitedLinuxについてまとめてみた。

■Red Hat社が参加しない訳

 まず,前述の「気がかりなこと」の1つ目について考えてみたい。実は,UnitedLinuxの結成からすでに半年が経つが,Red Hat社がUnitedLinuxに参加するという話はまだ一度もない。さらに,「Red Hat社が参加するとは誰も考えていない」というのが業界関係者の一致した考えのようである。

 UnitedLinuxにとって,Red Hat社が参加していないことの意味は大きい。それはシェアの圧倒的な差にある。米IDCの調査では,2001年におけるRed Hat社のシェアはほぼ75%だったという(図1)。これに次ぐのがSuSE社で残り25%の大半を占めている。「それ以外のディストリビュータは,ほんの数パーセント,あるいは,それにも満たない状態」(IDCアナリストのAl Gillen氏)という。(掲載記事

●図1 Linuxディストリビューション・シェアのイメージ 参考:米IDC

 このことをRed Hat社の立場で考えると,「すでにシェアの大半を握っているので,特にUnitedLinuxに加入する必要性はない」ということになる。また,シェアの圧倒的な開きはUnitedLinux各社の業績にも響いている。例えば,SuSE社もSCO社も,これまで人員削減や組織再編を余儀なくされている。米Turbolinuxに至ってはSRAにLinux事業を売却しているが,その理由は経営難にあった(関連記事)。つまり,UnitedLinuxは,その掲げた名称とは大きく異なる状況に置かれており,4社は企業連合を結成することにより,それぞれの生き残りを図ったとも言えるのだ。

■UnitedLinuxはマーケティングのための企業連合

 つぎに,FSGについて考えてみたい。実はUnitedLinuxの結成当時,このFSGの存在が一部の人を混乱させていた。標準化団体FSGとUnitedLinuxは別の動きをするのではないか,と考えられたからだ。しかし,両者の違いは前述のUnitedLinuxの成り立ちを考えれば明らかである。

 つまり,UnitedLinuxが販売戦略上結成された製品開発組織なのに対し,FSGは,れっきとしたオープン・ソース・ソフトの標準化団体。活動の目的も内容もまったく異なるのである。

 ちなみに,FSGは2000年5月に,「LSB(Linux Standard Base)」と「LI18NUX(Linux Internationalisation Initiative)」が合併して設立された。LSBは,Linuxの互換性向上のための標準策定団体。LI18NUXは,Linuxの国際化についての標準化団体だった。

 現在,このLSBとLI18NUXは,FSGのワーキング・グループとして活動している(関連記事)。ここにはRed Hat社をはじめ,UnitedLinuxの4社,そして米IBM,米Sun Microsystems,米Dell Computer,米Oracleといった大手ハードウエア・メーカー/ソフトウエア・ベンダーが参加している。そしてUnitedLinuxが今回発表したUnitedLinux Version 1.0も「LSB 1.2」などのFSG仕様に準拠しているのだ。

■大手が積極的に支援,対するは米Microsoftか

 さて,これでUnitedLinuxの活動意図は分かった。現状では4社が束になってかかってもLinuxディストリビューション界の巨人,Red Hat社にかなわないことも分かった。このことからUnitedLinuxの存在は,「ただちに業界に大きな影響力はもたらすことはない」と言われている。しかし,その取り組みはLinuxの普及に貢献すると期待されていることも確かなのである。

 その理由の1つに大手の支援がある。UnitedLinuxはIBM社,米HP(Hewlett-Packard),Oracle社,ドイツSAP AG,米Computer Associates,Borland Softwareからの支持も取り付けている。事実,今回のVersion 1.0の発表イベントもスポンサとしてIBM社とHP社が参加している。(発表資料

 もちろんRed Hat社も,Dell社やIBM社をはじめとする大手とパートナー契約を結んでいるのだが,こうしてRed Hat社とUnitedLinuxの活動が盛んになることで,業界全体としてよい方向に向かうと言われている。Linuxがますます普及し,ひいては米Microsoftに対抗する力になると言われているのだ(注1)。「だからこそIBM社などが積極的に動いているのだ」という観測も多く流れているのである。

注1:ちなみにSuSE社とRed Hat社はすでにデスクトップ版を手がけている(関連記事)。Sun社によるLinuxデスクトップ・パソコン戦略についての発表も記憶に新しい(関連記事)。UnitedLinuxについては,現在のところデスクトップ版の開発の予定はないそうだが,「(デスクトップ版は)UnitedLinuxの技術委員会の議題に挙がっており,技術委員会はその評価を始める」(SCO社CEOのDarl McBridge氏)という(掲載記事

■統一ブランドだからこそ差異化が必要

 UnitedLinuxには,IBM社,HP社をはじめとする大手企業の支援がある。Red Hat社という巨大なライバルがあるものの,Linuxを普及させていこうという業界全体のムードは極めてよい状態にある。それぞれが1社だけで戦うよりは,はるかによい環境が整ったといえるだろう。

 とはいっても,当面の課題がいろいろあるのも事実である。例えば,UnitedLinuxという統一したブランドでありながら,4社はそれぞれの色を出していかなければならない。各社の製品の違いを明確に示して,これまで以上に独自の製品を見せないと,企業顧客にはアピールできない。

 同時に,Red Hat社との差異化も図らなければならない。さらに,今後デスクトップ分野にも進出するのならば,LindowsやSun社の製品も考慮した製品戦略を展開しなければならない。UnitedLinuxは今後,あらゆる方面で模索を続けることになるだろう。

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