先々週から今週にかけて,米大手IT関連企業の決算発表が相次いだ。2002年第3四半期の業績報告である。実は今年始め,これら大手の幹部やアナリストのあいだでは「業界の景気は今年後半に緩やかに回復する」という見方が多く,「US NEWS FLASH」でもそうした観測を伝えてきた。

 しかし1年の4分の3が過ぎた今,これら大手IT企業の業績を見ると,それが当初の予想通りに進んでいないことがよく分かる。「米Sun Microsystemsが再び赤字に転落」「米Apple Computerが4500万ドルの赤字」といった不振を伝えるニュースが実に多いのである。中には好決算を発表した企業もあるのだが,それとて注意して見てみれば完全な回復には至っていないことが透けて見えてくる。

 今回はこうした米IT企業の業績を整理してみるとともに,新たに発表された企業首脳陣/アナリストの見解も集めてみた。今後の業界の動向について彼らがどう考えているのか探ってみたい。

■軒並み不振の2002年Q3決算報告

 一連の業績発表を見て,まず驚くのは不振企業の多さである。例えば,米AMD,米Transmetaがともに前年同期からの減収と赤字幅の拡大を発表,米Oracle,英ARM Holdingsも減収・減益を報告した。ハイエンドのストレージ製品を手がける米EMCは,第3四半期終盤で企業のIT支出状況が悪化したことに強く影響されて減収となった。また米AOL Time Warnerは,AOL事業の不振を理由に業績の下方修正を発表している(関連記事)。

 前述のApple社の場合,赤字転落の主な要因は投資先企業の株価が下落したことにある。これにより4900万ドルの評価損を計上し,一時的な費用が膨らんだ。しかしこうした一時的な費用を除いた場合でも,同社の純利益は700万ドルにしかならず,前年同期の純利益6600万ドルには遠く及ばないことが分かる。また売上高が伸びなかったことも響いている。同社の第3四半期におけるパソコンの出荷台数は73万4000台。米同時多発テロがあった前年同期と比べても14%減っている。

 Sun社の場合は,売上高が前年同期比で4%減にとどまった。しかしこれで減収が1年半連続したことになるのだ。最終損益は1億1100万ドルの赤字で,黒字転換した前期から再び赤字に戻ってしまった。またこれに伴い同社は大規模な人員削減策を発表している(関連記事)。

■米IBM,米Intel,米Microsoftは好調に見えるが・・・

 こうした不振企業をよそに,好業績と思われる決算を報告した企業もある。米IBM,米Intel,米Microsoftである。しかしこの3社とて決して安閑としてはいられない状況にあるようだ。

 例えば,IBM社では17億ドルの黒字を報告し,これまで大幅に減らしていた純利益を横ばい(前年同期比)にまでに回復させた(関連記事)。しかしこれは日立製作所に売却することを決めたハード・ディスク装置(HDD)事業の業績を除いた「継続事業ベース」の数字なのである。HDD事業を入れた正規の純利益は13億1300万ドルとなり,その前年同期比は18%減となる。

 米Intelの売上高は65億ドルで前年同期比横這いだった。純利益は6億8600万ドルで,その前年同期比変化はなんと547%増となる(関連記事)。しかし,これには前年同期の純利益が異常に少なかったという落ちがある。

 米Microsoftの売上高は前年同期比26%増の77億5000万ドルで,四半期ベースで過去最高を記録した(関連記事)。ところがこれは,同社が長期ライセンス契約を本格導入したことによるところが大きい。多くの顧客が年間のライセンス契約に移行したことで,売上高が一気に増加したのだ。当然,今後の数四半期はこの分の売上が得られないことになる。また「新規の長期ライセンス契約は今のところ好調だが,やがては当初ほどの勢いがなくなる」(同社)

■PC市場はホリデー・シーズンでも振るわず

 パソコン市場ではどうだろうか。米国ではホリデー・シーズン(注1)があることから,第4四半期は少しは活気づくのではないかとも考えられる。しかし米Gartnerのアナリストによれば,今年の第4四半期におけるパソコンの出荷台数は,前期比7~11%程度の伸びにとどまるという。過去5年間の平均的な前期比伸び率は16%なので,この数字はかなり低いことになる。大手パソコン関連企業の観測(表1)を見ても,先行きに不透明感が漂っているのが分かる。

●表1 パソコン関連企業各社の観測
米Microsoft
(CEOのSteve Ballmer氏)
「第3四半期の売上高は例外的なもの。今後も継続できるものではない。今後のビジネス環境には厳しいものがある」
米Apple Computer
(CEOのSteve Jobs氏)
「パソコン市場が回復するとは当面思えない」
米Intel 「第4四半期の売上高は65億ドル~69億ドルの範囲となる」
※前年同期の70億ドルを下回り,減収となることを意味する。
米AMD 「第4四半期の売上高は前期に比べて伸びそうだ。しかしこれは前期の落ち込みが予想以上に大きかったため」
米IBM 「第4四半期の利益は前期に比べ12%増となる見込み」
※同社の第3四半期~第4四半期における利益伸び率は通常12~18%。つまりIBM社はこの範囲の下限になると言っている。
米Motorola 「第4四半期の1株当たり利益は前期の14セントから10セントに下がる。原因は広帯域,インフラ,半導体分野の重要低迷にある」
米Gateway
(CFOのRod Sherwood氏)
「我々がシェアを伸ばしていること,ホリデー・シーズンがあることで,第4四半期の売上高は前期に比べて“いくらか”伸びる」

注1:ホリデー・シーズン。米国の感謝祭(11月の第4木曜日)からクリスマスにかけての期間のこと。長期休暇や贈り物の時期なので,これらが要因となって小売販売が1年の中で最も活況を呈す。

■期待は2003年半ばに

 明るいニュースは米Dell Computerのパソコン出荷台数増大の話(注2)なのだが,これもパソコン市場全体でみると,そう芳しい状態とは言えない。

 米IDCによると,第3四半期における世界のパソコン出荷台数は,前年同期比3.8%増の3257万台となり,過去5・四半期続いた減少に歯止めがかかった。しかしこの前年同期というのは,同時テロによる極端な需要低迷にあった時期である。このことから「これが業界の回復を示すことにはならない」とする意見が多いのだ。例えば米Gartnerは「本来であれば前年同期比で横這い程度であったはず」と指摘している。

注2:米Gartnerが今月発表した調査結果によれば,Dell社は2002年第3四半期,世界市場で出荷台数を前年同期比で20.7%増大させ,そのシェアは業界トップの15.8%となった。シェア2位は米Hewlett-Packardの15.7%

 企業や消費者によるIT資産の買い換え周期を考えた場合,本来なら(景気が良かった場合),その時期はこの第3四半期だった。しかし各社の業績結果を見ても,それが起こらなかったことが分かる。また,大手IT企業やアナリストの観測を見てみても,彼らが業界の回復が年内には起こらないと考えていることがよく分かる。

 頼みの綱である消費者のホリデー・シーズン需要もあまり期待できない。思えば「Windows XP」はちょうど昨年のこの時期に発売された。昨年のホリデー・シーズンはWindows XPによって救われたと言えるのではないだろうか。しかし今年はそれに当たるものが見あたらない。今年はMicrosoft社の「Tablet PC」や「Media Center PC」搭載製品への期待もあるのだが,これらが年内に爆発的に売れるとは考えられない,というのがアナリストの見解のようだ。

 米NPD TechworldアナリストのSteve Baker氏は,「今年のホリデー・シーズンは,良くて昨年並み,最悪は“極端な”落ち込みがみられる。おそらくは,この中間あたりが現実的なのではないか」と予測する。

 また業界の回復については,米Gartnerが次のように予測している。「景気が回復するのはどんなに早くても2003年第1四半期以降。パソコンの買い換えが始まるのはそれ以降の2003年半ばということになる」(同社)

 ではIT企業各社は今,何をすべきなのだろうか? 米企業の経営幹部のコメントには次のようなもがよくある。「コスト削減策を継続して行うとともに,来るべき景気回復に備え重要部分への投資も怠らない」――まだまだ舵取りが難しい状態が続きそうである。

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◎市場調査・予測
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