この数週間にかけて欧米IT企業各社の今年最初の四半期決算が一斉に発表された。昨年は景気低迷による需要減速に泣き,そこから脱すべく,今年後半の景気回復に向けた目標を設定してきたIT企業だが,各社がこの3カ月間行ってきた施策は功を奏したのだろうか。

 各社の決算発表の記事には,「米IBM,世界的な減収とハードウエア部門の低迷で31%減益」「米コンパック,減収だが営業費用削減で利益を確保」「米マイクロソフト,前年同期比13%増収だが予測を下回る」などがあるが,これらだけでは業界の動向や全体像がなんとも掴みにくい。

 状況は悪化してしまったのだろうか? 今年後半と言われていた回復は先にずれ込むのだろうか? という不安が募る。そこで今回は一通り出揃った各社の決算発表を見ながら,業界の観測筋の受け止め方をレポートしたいと思う。果たして回復はいつ頃になると考えられているのだろうか?

■企業市場の低迷継続でIBMもよろける

 まずIT業界大手各社の決算をざっと見て,今回特に目立ったのが米IBMである。今回同社は186億ドルの売上高を確保したが,この額は前年同期の210億ドルを大幅に下回るものである。純利益の方は前年同期に比べ32%減益という結果になった。

 同社はこの決算発表前に1991年以来初めて業績警告を発し,業界を驚かせた。これまで同社は,他社をしり目に順調な業績報告を行っており,ウォール街では「セイフ・ヘイブン(投資資金の安全な避難場所)」と言われていたこともあったので,その驚きは小さくなかった(関連記事)。

 この業績警告で同社は「売上高が全体にわたって減退。ビジネス環境は依然とても厳しい」と説明していた(発表資料)のだが,この売上高の落ち込みはハードウエア部門がとりわけ大きかった(前年同期比25%減)。「第1四半期も顧客購買が鈍ったまま」(同社上級副社長兼CFOのJohn R. Joyce氏)というのがその理由で,企業市場で顧客の買い控えが続いていることが再認識される格好となった。

 米Compaq Computerも同様に,売上高が前年同期の92億ドルから77億ドルと大きく落ち込んだ。Compaq社は前年同期の赤字(1億3100万ドル)から黒字転換(純利益4400万ドル)を果たしたが,これは,営業費用を前年同期から3億5900万ドル減らしたことに大きな要因があったようだ。同社会長兼CEOのMichael Capellas氏も説明会の声明のなかで“設備投資の減少”について触れており,企業市場の低迷が続いていることを認めている。

■投資銀行は慎重な見方,「回復は2003年以降」

 売上高が芳しくなかった企業にはこのほか,米Sun Microsystems(関連記事),米Gateway(関連記事),米Lucent Technologies(関連記事)があるが,いずれの場合もビジネス・モデルの改善,販売戦略の変更,リストラ策といった自助努力でなんとか業績向上に結びつけた格好である。

 今回は「事前の予測と一致した」というコメントが多かったのだが,これについては,「事前予測がはじめから控えめ」だったり「中間予測などですでに下方修正していた」と考えるのが順当のようで,あまり鵜呑みにできない。米メディアの記事を拾い読みしていると,「予測範囲の下限にかろうじて達しただけ」(英Aegon Asset Managementファンド・マネージャのChris Ford氏)という厳しい見方を目にする。「今後もこの調子で予測範囲の上限を達成できない状態が続けば,やがて利益を圧迫することになる」という指摘もあるほどだ(掲載記事)。

 また,投資銀行のアナリストのあいだでは,「IT企業はまだ深刻な問題に直面している」という観測が広がっている。このため「売上高の顕著な伸びが明確になるのは2003年以降」(米Merrill Lynch,ITサービス・アナリストのLucy McFetrich氏)とする見方が大方のようである。「それまでのあいだの利益向上は,いかにしてリストラ策/コスト管理を成功させるかにかかっている」(同氏)とのことで,IT企業各社には今後もさらなる自助努力が必要になりそうだ。

■「半導体業界は今年終盤に向けて回復が見込める」

 このようにIT業界の先行きは不透明で,どうなるのか良く分からない。そこで,IT業界の先行指標と言われている半導体業界はどうなっているのか見てみよう。結論から言うと,昨年は業界全体の売上高が前年比30%減となり,かつてない落ち込みを経験した半導体業界だが,今年はその“悪夢”から解き放たれると言われている。

 SIA(Semiconductor Industry Association:半導体工業会)の予測によると,今年の業界全体の売上高は前年比6%増を見込めるという。SIAでは「市場が本格的に回復するのは来年。その売上高成長率は20%を超える」とみており,今年がその前段階の年という位置づけのようである(掲載記事)。

 業界最大手の米Intelの見方も気になるところである。同社は今回の決算発表時に「2002年第2四半期の売上高は64億ドル~70億ドルの範囲になる」と予測していたのだが,これは“前期比6%減~3%増を若干上回る”ことを意味している。

 過去5年間を振り返ってみると,同社の第2四半期の売上高は,季節的な要因から第1四半期に比べて3%程度減少するのが普通となっている。このことから“前期比6%減~3%増”は「さほど悪いものでない」というのがアナリストの見方となっている。例えば米Lehman BrothersアナリストのDan Niles氏はこれについて次のような見解を示している。

 「Intel社の考える“景気回復”はまだ限定的なものにとどまっている。しかし少なくとも同社は今年後半,通常の季節的パターンで推移すると予測している。(このことからも)我々はこれまで通り,半導体業界の回復は今年終盤に向けて進むものと考えている」(同氏)

■半導体製造装置は回復か,BBレシオが2年4カ月ぶりに“1.0”超える

 こうした半導体業界の見方は確かなものなのか。ちょうど今週,半導体製造装置業界の動向を示すBBレシオがSEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)から発表された。SEMIは半導体製造装置・材料に関する業界団体で,北米を拠点とする半導体製造装置メーカーの受注・出荷に関する調査結果を毎月,発表している。半導体業界とIT業界の関係と同様に,製造装置の動向を見れば,その装置を用いる半導体業界の動向が推測できるというわけである。

 その調査結果はBBレシオと呼ばれる数字で表される。BBレシオは,出荷額(Billings)に対する受注額(Bookings)の割合のことで,この値が1.0以上なら受注が出荷を上回ることになる。つまり数カ月先の出荷となる受注額が現時点での出荷額を上回ったことを意味するわけである。

 今回発表した2002年3月の速報値では,そのBBレシオが2年4カ月ぶりに1.0を超え“1.04”となった(発表資料)。

 半導体はさまざまな製品に使われているため,その出荷状況自体が景気の先行指標とされているが,それを製造する装置は,それよりもさらに早く現れる先行指標と考えられている。ただしBBレシオはあくまでも,出荷額に対する受注額の比率に過ぎないので,出荷額が少なければ,受注額がそこそこでも1.0を超えてしまう。1.0を超えたからといって必ずしも拡大傾向とは言えない点があることに注意が必要だ。

 表●半導体製造装置の受注額,出荷額,BBレシオ 出典:SEMI

 今回の状況を見てみると,その受注額は8億3900万ドルで前年同月に比べると30%減となる。しかしこれはその翌月である2001年4月以降のどの月の移動平均よりも高い。

 こうした判断にはさまざまな見解があると思うが,今回BBレシオが1.0を超えたということ,そして受注額の移動平均が過去11カ月で最高となったということは,“数カ月先の売上高が向上する見込みであること”を示している。

 半導体製造装置市場の回復時期についてはさらに詳しく検証する必要があるが,このことで「業界が元気づけられる」(SEMIプレジデント兼CEOのStanley Myers氏)のは確かのようである。

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