今日(2月22日),日本でもマイクロソフトのゲーム機「Xbox」が発売となる。そこで今回 は,先に販売が始まった米国市場の状況や各社の発表資料,海外メディア/調査会社 のレポートを参考にしてXboxの現状と可能性について考えたいと思う。

図1●2000年の家庭用ゲーム機
国内シェア

日本経済新聞社 2000年
「主要製品・サービス100品目シェア調査」の
結果より作成

 2000年における家庭用ゲーム機の国内シェアをみると,ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)が86.7%とダントツの人気を誇っていることが分かる(図1)。2位は当時まだ「ドリームキャスト」を生産していたセガ。3位は任天堂。そしてこの3社を合わせたシェアは99.9%である(日本経済新聞社 2000年「主要製品・サービス100品目シェア調査」より)。

 パソコン界の巨人Microsoftといえども,この日本市場を切り崩していけるのだろうか。Microsoft社はXboxのマーケティングに5億ドルの予算を費やしている。「勝ち目がなかったら最初から勝負しない」とも豪語するが,その自信はどこから来ているのだろうか。

■北米市場ではまずまずの出足だが

 Microsoft社が北米でXboxの販売を開始したのは昨年11月15日。このためXboxのシェアなどに関する詳しい調査結果はまだ出ていない。しかしMicrosoft社の発表によれば,Xboxは販売開始の3週間で110万台を出荷した。出荷はその後も順調に続けられ, 昨年12月末までに当初の目標である「年内150万台」を達成している。

 また同社は北米,日本に次いで今年3月には欧州でも出荷を始める予定で,3地域を合わせて今年6月末までに合計450万~600万台を販売するという目標である。

 ところで今後Xboxの最大のライバルとなるSCEIの「プレイステーション2(PS2)」が日本で発売されたのは2000年3月4日。市場が違うので単純な比較はできないが,PS2は販売開始後の3日間でほぼ100万台を売り上げている(SCEIの発表資料:PDFファイル)。また1年後の日本市場における出荷累計台数は465万台。SCEIはその後2000年10月に北米で,11月には欧州で出荷を始めており,これらの地域も含めた世界市場の出荷累計台数は2001年3月(日本での販売開始から1年後)で1000万台を超えている(SCEIの発表資料:PDFファイル)。

 前述のMicrosoft社の計画からすると,Xboxもほぼこれと同じペースで売れるという目論みなのだろう。この目標を達成するためにも,日本市場は重要である。

■ライバルはゲーム界の巨人。あまりにも大きい

 PS2は1000万台の大台突破後も着々とその出荷台数を伸ばし,2001年10月には遂に2000万台に達した。SCEIはその後11月に日本でのPS2の価格を3万5000円から2万9800円に下げし,12月13日には香港,シンガポール,マレーシア,タイといったアジア地域での販売を始めた。これらが手伝ってかPS2の2001年12月末における全世界の出荷累計台数は2500万台に達した。こうしてみてみると,PS2の勢力はあまりにも大きい。

■まずは“高性能”でヘビー・ユーザーを魅了

 現段階でのXboxの最大の“ウリ”は「高性能」である。733MHzのCPU,メモリーは64MB,記憶容量8Gバイトのハードディスク装置,Ethernetポート,DVD再生機能を標準で備えており,価格は3万4800円(表1)。より高性能のマシン,表現力の高いゲームを求めるヘビー・ユーザーを魅了するマシンといえる。

 ネットワーク機能がすでに組み込まれていることから,今後展開されるネットワーク・サービスに期待するユーザーにとっては割安感がある。その一方で「主な目的はDVDプレーヤー」という人には割高感がある。PS2は別売りDVDリモコンがなくてもDVD再生が可能なのに対し,Xboxの場合はリモコンと赤外線レシーバーで構成する「DVDビデオ再生キット」を購入しなければならないからである。このキットとXbox本体を合わせて購入すると合計3万8600円となり,PS2に比べて1万円高という印象である。

表1●XboxとPlayStation2の比較
機種名 Xbox PlayStation2(SCPH-30000)
価格(米国) 3万4800円(299.99ドル) 2万9800円(299.99ドル)
CPU動作速度 733MHz 294.912MHz
主記憶容量 64Mバイト 32Mバイト
グラフィックス性能 125Mポリゴン/秒 66Mポリゴン/秒
オーディオ音源数 256チャネル 48チャネル
標準装備 DVDドライブ
HDD(8Gバイト)
Ethernetポート
DVDドライブ
別売オプション DVDリモコン(3800円)
(再生に必須)
HDDユニット SCPH-10260(1万8000円)
(40GバイトのHDD,Ethernetポート)
BBユニット(ISPからレンタル/リース/販売)
(40GバイトのHDD,Ethernetポート)
DVDリモコン(3500円)
(なくても再生可能)

■ネットワーク戦略はPS2が先行

 Microsoft社は「ネットワーク・ゲームの提供を2002年夏に始める」(発表資料)「現在27社のソフト・メーカーがネットワーク対応ゲームの開発にあたっており,Microsoft社のスタッフもサービス開始に向けて作業中」(発表資料)と説明しているが,そのサービスの具体的な方法や対応ソフトについてはまだ明らかにしていない。この状態では,ネットワーク・ゲームがオプション製品を購入することなく行えるという“次世代ゲーム機”をアピールするのは時期尚早。ネットワーク・ゲームは「高性能」に次ぐ第2弾のマーケティング戦略として打ち出してくるのだろう。

 一方のSCEIは,すでにソニーコミュニケーションネットワーク(So-net)やNTTコミュニケーションズ(OCN),NEC(BIGLOBE),ソフトバンクグループ有線ブロードネットワークス(usen),エー・アイ・アイ(AII)など国内大手のISP/コンテンツ配信会社と提携している。これら企業と協力体制を敷き,PS2を利用したオンライン・サービス「PlayStation BB」を今年4月に始める予定である。

 このサービスではユーザーにブロードバンド(BB)ユニットを提供してネットワーク・ゲームや動画・音楽・ゲームのインターネット配信を行う。ちなみにこうした技術開発についてSCEIは,2001年5月に米RealNetworksや米Macromediaと提携していた。また,同月に米America Online Time Warnerとの戦略提携も発表,北米のPS2ユーザー向けてAOLのコンテンツを提供するという計画を明らかにしていた(発表資料)。

■ソフトのタイトル数にも圧倒的な差がある

 「ゲーム機を生かすも殺すのもソフト次第」と言われるが,Xbox向けソフトのタイトル数はどうなのだろうか。

 Microsoft社では,日本でのXbox発売時に12本を提供し,3月末までに22本,年内に100本を投入するという計画があるようだ。

 米国で今後リリースされるタイトル数については,今回はっきりとつかめなかった。ただ昨年11月21日の同社発表資料によれば,その時点で19タイトルが販売されており,2001年中にさらに30タイトルが発売されるとのことだった。ちなみにXboxサイトに掲載されているタイトル・リストには,今後リリース予定の作品も含めて56本が紹介されている(2002年2月20日現在)。

 一方PS2の2001年10月10日時点の国内タイトル数は296タイトル。SCEIでは今年3月までに少なくとも570タイトルに増えると見込んでいる。北米は292タイトルで,今年3月までに82タイトルが追加される予定。欧州では111タイトル,今年3月までに250タイトルが追加されるという(SCEIの発表資料:PDFファイル)。

 なおロイターが報じるところによると,PS2でも動作可能な,第1世代「Playstation」向けソフトのタイトル数は国内で3929タイトル,米国で1203タイトルにのぼるという。「Microsoft社はソフトの開発環境を整備しており,『PS2向けソフトに比べXbox向けソフトは安く容易に開発できる』と強調している。しかしPS2の莫大なソフト資産に追いつくには,まだまだ時間がかかる」(ロイター:ZD Net UKの掲載記事

■米国ゲーム市場が急成長

 これらの現状を鑑みると, Xboxが短期間でPS2をしのぐことは難しいだろう。しかし最近,Microsoft社にとって吉報と言えるレポートがあった。米NPDFunworldが2001年の米国家庭用ゲーム市場の調査結果を発表したのだが,それによると米国の市場規模は過去最高の94億ドルに達し,昨年の66億ドルを43%上回ったのだという(米CNET News.comの掲載サイト)。これまでの最高である1999年の69億ドルをも大きく上回る結果になったとNPDFunworld社は報告している。

 米国のゲーム市場が2000年から2001年にかけて急成長したというこの調査結果を素直に受け取るならば,「XboxはPS2の既存ユーザーを奪い取るのでもなく,PS2に潰されるのでもない。今後拡大するゲーム市場とともに成長し,PS2と共存していく」と考えるのが順当ではないだろうか。