ソルトレークシティー冬季五輪が始まり,連日選手の活躍ぶりをみるのが楽しみだ。ところが日本とソルトレークシティーとの時差は16時間。リアルタイムでテレビ観戦というわけにはなかなかいかない。例えば男子スケート500メートルの競技が行われたのは日本時間の朝5時~6時だった。朝の忙しい時間にゆっくりと時間をとるわけにもいかず,残念この上ない。

 そんな向きに嬉しいのがオリンピックのWebサイト。今大会の公式Webサイトである「saltlake2002.com」や「olympics.com」に行けば,各競技の結果やスケジュール,ニュース,選手のプロフィール,競技のルールや用語と,さまざまな情報が入手できる。

 放映権の関係で競技のビデオ映像をWebで見られないのが残念だが,その代わりに選手の表情を超望遠で捉えた美しい写真が掲載されている。私はテレビ代わりにこうしたサイトでオリンピックを満喫しているのだが,私としてはもう一つ興味深いことがある。それはこのオリンピックの舞台裏で“必死にがんばっている”IT企業の活躍ぶりである。

 今回は海外メディアや各企業の発表資料からこうした話題を集めてみた。

■IBMなしで舞台裏を支える

 前述のsaltlake2002.comはソルトレーク組織委員会のサイト。一方olympics.comは国際オリンピック委員会(IOC)のサイトだが,どちらのサイトもデザインとコンテンツは同じ。両者にNBCSPORTS.COMのニュースが掲載されている。

 なぜこうなっているのかと言うと,この二つの公式サイトは,どちらも米Microsoftのインターネット・サービス事業MSNとMSNBC(米NBCとMicrosoft社のジョイント・ベンチャー)が制作・運営しているからである(発表資料)。MSNBCはこのほか「NBCOlympics.com」も手がけているが,こちらは米国内向けとなっており,取り上げる記事などが少し異なっている。

 ところで,これまでこうしたIT関連の技術は,長年米IBMが中心となって提供していたのだが,今回はIBM社は参加していない。その代わりに前述のMicrosoft社や米AT&T,米Gateway,米Sun Microsystems,米Qwest Communications Internationalなどが連携してオリンピックの舞台裏を支えている。今大会ではこうした技術プロバイダ15社がコンソーシアムを結成しており,それをフランスSchlumberger傘下のITサービス大手米SchlumbergerSemaがとりまとめている。SchlumbergerSema社は同社を含めた15社の機材・技術を組み合わせて情報システムを構築しており,これにより,計時,得点,チーム順位,メダル順位,気象状況,選手のプロフィールといった情報を収集・集計・配信している。

 英BBC Newsが伝えるところによると,SchlumbergerSema社が構築したシステムは15の競技会場を結んでおり,これを「Information Technology Center」と呼ぶ中枢施設で管理している。このネットワークは3万2000マイル(約5万1000キロメートル)の光ファイバ網を介し,225台のサーバー,1850台のファクシミリ,1210台のプリンタ,4500台のワークステーション/ノートパソコンをつないでいるという。またシステム構築のためにSchlumbergerSema社が14社とともに書いたソフトウエア・コードは1000万行。これには3億ドルの費用がかかっているという(掲載記事)。

■サーバー,パソコンを提供するゲートウエイ

 コンピュータ・ハードウエアの提供は2000年のシドニー大会までIBM社が行っていたのだが,今大会ではGateway社に取って代わった。Gateway社は,米国オリンピック委員会とソルトレーク組織委員会の公式スポンサーとなっており,合計5500台以上のデスクトップ・パソコン,ノート・パソコン,サーバーを供給している。

 またGateway社は,ファンが選手に電子メールや,ビデオ電子メール送れるキオスクを選手村と全米の同社小売店に設置している(発表資料)。これは「CyberSpots Powered by AT&T」と呼ぶ無料のサービスで,同社製パソコンとAT&T社の広帯域インターネット接続サービスを使っている。

 ファンは全米325カ所に設置されたキオスクで自分の映像を録画して,好きな選手やチームにビデオ・ファンレターを送れるようになっている。選手がこのファンレターを見るには,選手村の50カ所に設置してあるキオスクを使う。キオスクでは,このほか電子メールの送受信,インターネット・アクセス,デジタル音楽,インタラクティブ・ゲームを楽しめるようになっている。

■サンはUNIXサーバーで競技結果を伝えるITシステムを支援

 Sun Microsystems社は,米国オリンピック委員会とソルトレーク組織委員会に機材・技術を供給する公式サプライヤである。同社はUNIXサーバーのサプライヤとして,Solaris搭載のエンタープライズ・サーバーやデータ・ストレージ・システムを提供している。これらは競技結果を競技役員やメディア,選手に伝えるために利用されている。また同社は技術サービスも提供している(発表資料)。

■アウトプットはゼロックスが担う

 サーバーに集められた競技結果をスコア・ボードや紙などにアウトプットする部分を担当しているのは米Xeroxである。同社はカラー/モノクロ・プリンタや,ファクス機,デジタル機器を提供している。また同社はソルトレークシティーの会場全域で大規模なプリント・サービスを行っている。「Info2002」と呼ぶ情報端末を設置しており,選手や関係者が競技日程,競技結果,メダル集計結果,選手のプロフィールといった情報を印刷できるようにしている。

 さらに同社は,これらの情報を印刷しソフト・カバー付きの本「Results Book」にしてメディア・センターや競技役員の手元に届けるというサービスも行う。合計2万8000冊を印刷する予定という(発表資料)。

■セイコーは通算6回目の公式計時を担当

 計時の機器/システムを提供するのはセイコーである。セイコーがオリンピックの公式計時を担当するのはこれが6回目となる。同社は1964年の東京大会,1972年の札幌,1992年バルセロナ,1994年リレハンメル,1998年長野で公式計時を担当してきた。

 今回は,すべての会場の時刻を自動的に同期させる「オリンピック共通時刻」を導入している。これは冬季五輪としては初めてのことだという。誤差が2万年に1秒という高精度GPSシステムを使い,組織委員会本部に設置したレシーバーで時刻信号を受信する。これをネットワークを介して各会場の約5000台のパソコンに配信している(発表資料)。

 このほか同社は,新開発のトランスポンダ・システムを提供している。これは,クロスカントリーやバイアスロンの選手の両足首に二つのトランスポンダ(送信器)を装着しておき,選手が計測ポイントを通過した瞬間を雪中に埋めたアンテナが1/100秒単位で捉えるというもの。このデータは選手のID情報とともに計時ルームのサーバーに送信される。

■通信ネットワークはクエスト,ルーセント,AT&Tで

 Qwest Communications社,米Lucent Technologies,AT&T社は,通信ネットワークを担当している。Qwest社は今大会のために1社で650マイル(約1000キロメートル)の光ファイバ網を敷設しており,これにより毎秒388兆ビットのデータを転送しているという(資料掲載サイト)。またLucent社は,光ネットワークとDSLの機器をQwest社に提供している(発表資料)。

 AT&T社は,音声/データ/ビデオ回線を8000回線設置したほか,79の携帯電話基地局も設けている。また同社のデータ・センターを使って米国選手団の公式サイトのホスティングも行っている。(発表資料

■アトランタ大会の教訓を生かす

 1996年のアトランタ大会は,IBM社の記録/集計/報告システムにトラブルがあったことから「Glitch(不具合な) Games」と呼ばれた。今大会では今のところそのような報告もなく,無事17日間を終えてくれそうだ。前述のBBC Newsによると,これには秘訣がありそうである。それによると,SchlumbergerSema社は今大会で「革新的な技術を少しだけ使った保守的なアプローチ」をとったという。このため無線技術などの比較的新しい技術は使っていない。

 同社では,「無線技術をいつ使うのか」とよく聞かれるという。しかし「現時点では(無線)は十分に信頼性があると考えていない」(SchlumbergerSema社チーフ・インテグレータのRobert Cottam氏)とのこと。

 なおSchlumbergerSema社は2004年のアテネ大会,2006年のトリノ大会,2008年の北京大会でもコンソーシアムのとりまとめ役を担当する。

◎オリンピック関連記事
冬季オリンピックの問い合わせが自然な言葉で
韓国サムスンが冬季オリンピックで携帯電話機や技術サポートを提供
米ベライゾン,3Gネットワーク「Express Network」の商用サービスを開始
米NBC,冬季オリンピック放送のビデオ転送でグローバル・クロッシングと提携