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急減速のPDA市場,“無線での常時接続”に復活賭ける

2002/02/08

 米PalmがOS開発に注力すべく分離独立させたPalm OS事業「PalmSource社」は,今月5日に「Palm OS 5」のベータ版をリリースした。「これまでと同じ小ささながら,性能やセキュリティ機能の向上を図った」(PalmSource社)という。「劇的に拡大するPDA/スマートフォン市場に向ける」と同社は鼻息が荒い。

 同ベータ版を発表した同社の開発者向け会議/展示会「PalmSource Conference and Expo」も活況を呈しているようだ。ところが,PDA(携帯情報端末)市場は昨年大きく落ち込んだという調査結果もあり,この業界に今何が起こっているのか気になるところである。

 US NEWS FLASHではこれまで多くのPDA関連ニュースを取りあげてきたのだが,今回はこうした一連のニュースをつなげて考えてみよう。業界のこれまでの動きを確認し,この先進もうとしている方向を探る。

■急ブレーキがかかったPDA市場

 米国のニュース・メディアCNET News.comによると,今年1月24日に米IDCが2001年第4四半期における世界の携帯情報端末(PDA)市場を調査した結果を発表した(掲載記事)。それによると,同四半期の出荷台数合計は383万台で,前期に比べ68%増となった。しかしこの数字は前年の同期と比べると4.2%減と落ち込んでいる。

 一方,『日経マーケット・アクセス』の調査によると,2000年におけるPDAの世界生産台数は1087万台で,前年比80%増と大きく伸びていた。また1999年には前年比100%増を記録しており,市場は2年連続して高い成長率を達成していたのである。このことと前述のIDCの調査結果を比べると,PDA市場は昨年1年間で急減速したと言わざるを得ない。

■米パームのシェアが大きく下がった2001年

 昨年のPDAの市場については,もう一つ例年になかった変化がある。それは,これまでPDA業界に君臨してきたPalm社の牙城が大きく脅かされたということ。同じIDCの調査によると,2000年第4四半期に53%あったPalm社のシェア(出荷台数ベース)は,2001年第2四半期には35%に,同年第3四半期には33%にまで下がっている。

 まず考えられる理由が他社製品の台頭である。例えば,米GartnerのDataquestが2001年第2四半期におけるPDA市場の調査結果を発表しており,そのなかで米Compaq Computerや米HP(Hewlett-Packard)の躍進ぶりを報告している。Dataquest社によれば,この四半期,Compaq社は前期の7.8%から16.1%へ,HP社は同3.7%から6.9%へとシェアを伸ばしたという。

 Plam社としては「製品の供給不足がシェア縮小を招いた」というのが理由だった。例えば,昨年5月17日の業績見通し下方修正の発表時に,当時のCEOだったCarl Yankowski氏は,「m500ファミリ製品の出荷が予定よりも遅れており,既存製品の売り上げも世界中で滞った」と説明している(なおYankowski氏は同年11月に辞任している。現在はPlam社会長のEric Benhamou氏が暫定CEOを兼務している)。

 出荷台数の回復を狙ってか,または他社製品への対抗からか,Palm社は昨年第4四半期に値下げ作戦に出た。前述のIDCの調査では「これが功を奏し『m100』『m105』『Palm Vx』は予想以上売れた」という。また「Palm社のシェアは前期の33%から42.6%にまで回復したのだが,同社製品の平均販売単価は164ドルとなり,前年同期の212ドル,前期の227ドルから大きく下がった」(IDC)。

 長期的にみれば,かつての活気を失っていることから,市場そのものの存続が危ぶまれるという可能性もある。ただしこの1年以内に業界に大きな進展があり,近い将来,再び勢いを取り戻す兆しがあることも事実である。今度はそれをみてみよう。

■共通プラットフォームで開発促進

 昨年の大きな出来事の一つには,Palm社が7月にPalm OSに最適化したマイクロ・コントローラの提供について英ARM,米Intel,米Motorola,米Texas Instrumentsと提携したことがある。ARM社とは,Palm OSをARMアーキテクチャに対応させることで提携した。これによりARM社は移植用のツール「Silicon Portring Kit」をマイクロ・コントローラ・メーカーに供給した。

 この移植用ツールの供給を受けたマイクロ・コントローラ・メーカーは自社のマイクロ・コントローラに対して,Palom OSへの最適化を行っている。Intel社は「StrongARM」「XScale」に,Motorola社は「DragonBall」に,TI社は「OMAP」に対して最適化を行うというわけだ。そして3社はこうしたソリューション「Palm OS Ready Solutions」をPDAメーカーに提供する。

 これまでは,Palm社とPDAメーカーの各社がそれぞれにライセンス契約を結んでおり,PDAメーカーは,利用するマイクロ・コントローラ用のデバイス・ドライバを自社開発していた。しかし今では,PDAメーカーは,マイクロ・コントローラ・メーカーが提供する開発者キットを使うようになった。

 これによりPDAメーカーは共通のプラットフォームを使えるようになり,開発負担を軽減できる。またPDAは,これまでのような“パソコン・コンパニオン”といったアプリケーションだけではやがて訴求力がなくなると言われている。メーカーにとっては,新たな機能を提供し,これまでにない使い方を提案することが急務となっているのだ。

 しかも今は市場競争の激化や需要の変化から,開発期間の短縮が求められているという状況下にある。Palm社の動きはこうした時代の流れに沿ったものと言えるだろう。またはこうした開発環境が提供されることで,数多くの魅力的な製品が登場すると期待されている。

■これからは無線の時代!

 PDA業界のもう一つの大きな動きには無線の取り込みがある。これには無線LANのIEEE802.11b,近距離無線のBluetooth,そして携帯電話がある。

 OSごとでみてみると,米Microsoftが昨年9月に発表した「Pocket PC 2002」が802.11b,Bluetooth,CDPD (Cellular Digital Packet Data),GSMに対応可能な仕組みを用意している(なお同社は今年1月に「Windows CE .NET」(開発コード名:Talisker)も発表している)。

 Palm社もPalm OS 5で802.11bをサポートした。また1月28日に発表した「i705」では,同社の無線データ通信サービス「Palm.Net」を介した電子メール・サービスを提供する。このサービスは常時接続のプッシュ型で,メール着信の際にはユーザーにLED,アラーム,バイブレータで通知する。

 米Handspringが昨年10月15日に発表した「Treo」は携帯電話一体型のPDAである。音声/データ通信用のデュアルバンドGSMラジオ・モジュール組み込んでおり,電子メール,ショート・メッセージング・サービス(SMS),インスタント・メッセージング(IM),Web閲覧機能を提供する。このTreoは,今年1月29日に香港で出荷を開始(発表資料),シンガポールでも31日に出荷を始めている。

 これまでも無線/通信モジュールを使ったデータ通信はすでに実現していたのだが,今後はこうした通信機能を複数搭載するPDA,あるいは通信モジュールが普及すると考えられる。1台のPDAあるいは通信モジュールで複数の通信機能に対応していれば,ユーザーは自分のいる状況に合わせてこれらを切り替えて使えるようになる。

 これまでPDAは,自宅あるいは勤め先でパソコンとデータ同期させてから,持ち運んで使うPIM(personal information manager)という位置づけから完全に脱しきれなかった。しかしこうした動きをみてみると「PDAでも常時接続が当たり前」という時代がもう目の前に来ているようだ。会社や自宅,街角ホット・スポットでは高速なデータ/インターネット通信を行い,屋外では携帯電話網を使ったデータ通信を行うといった「いつでも,どこでも」通信が可能になる。さらにこれらをシームレスに切り替えて通信を続けられる「ハンドオーバー」機能が今後,出てくれば,ユーザーは通信手段を意識することなくPDAを利用できるようになる。また大容量の記憶媒体,あるいは高速で利用できるオンライン・ストレージ環境が整えばその用途はさらに広がるだろう。

■デメリットがメリットに変わる

 PDAの用途については,これまでのスケジュール帳,住所録,電子メール,ビジネス文書作成・閲覧,電子ブックなどに加え,インスタント・メッセージング,チャット,ゲームといった利用が広がりつつある。将来的には,デジタル家電とのデータ通信,音楽や動画などの広帯域コンテンツ,常時接続を前提としたWebサービスといった利用法も期待できるだろう。

 PDAはこれまで,「携帯電話に比べると持ち運びにくい。ノート・パソコンに比べると用途が狭い」と言われてきた。しかしネット接続が前提の時代が来れば,「携帯電話より用途が広い。ノート・パソコンより持ち運びやすい」に変わるだろう。PDAは表示画面は携帯電話より大きく,電池作動時間はノート・パソコンよりも長い。これまでのデメリットをメリットに変えた真の次世代機器「携帯コンピュータ」へと変貌を遂げるに違いない。

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