米国では,電話番号のポータビリティ制度が11月24日に施行され,約2週間が経過した。番号ポータビリティ制度(LNP:local number portability)とは,利用者が今使っている電話番号を保持したまま,別の電話会社に乗り換えられる制度のこと。同一地域であれば,固定電話でも携帯電話でも,電話番号は変えずに電話事業者を切り替えられるようになったのである(関連記事1関連記事2関連記事3)。

 携帯電話事業者間の乗り換えについては,事前には「初日だけで100万人が乗り換えるのではないか」との声も聞かれたが,蓋を開けてみると初日は約10万人と一桁小さかった(切り替え作業を実際に担当したTSI Communicationsなどの発表による)。もっとも,その後もほぼ同じペースで乗り換えが進んでいるというから,ここまで140万人くらいに達したはずだ。

 米国の携帯電話利用者は約1億5000万人なので,2週間で利用者全体の約1%が電話会社を変更したことになる。新制度では携帯電話会社の乗り換えとともに,固定電話番号をそのまま携帯電話に移行することも可能になったが,こちらの数がどれくらいかはまだ不明である。

 事業者の乗り換えが「2週間で1%」というのは,速いのか遅いのかピンと来ない。ただ,考慮しなければならないのは,携帯電話利用者のほとんどが事業者と長期契約を結んでいるため,途中で切り替えると違約金を払わねばならないということだ。従ってポータビリティ制度が導入されても,利用者がすぐに乗り換えるとは考えにくい。米国では,利用者全体の2~3割が携帯電話会社の変更を望んでいると言われるから(関連記事),今の勢いでは半年から1年をかけて徐々に乗り換えが進むことになる。

携帯業界全体でシステム改造コストは約12億ドル,切り替え時にはトラブルも

 ポータビリティ制度の導入には,当然システム改造に伴うコストがかかる。携帯電話業界全体で約12億ドルかかったという。だが,これは事業者を変更した利用者に直接課金されなかったようだ。「ようだ」というのは,実際は携帯電話会社が今後,そのコストを利用者全体に薄く均して課金するかもしれないからだ。ただその金額は月に数十セントまで抑えられる見込みだから,そう大したことはない。むしろ乗り換えの障害になっているのは,携帯電話機の買い替えが必要だという点である。

 また予想通り,切り替えに伴うトラブルもかなり発生した。FCC(連邦通信委員会)の定めたルールでは,利用者が携帯電話会社の変更を申請してから2時間半以内に切り替えが完了するはずだった。ところが実際に始めてみると,初日に申請したのに2週間経った今でも切り替えてもらえない利用者もいる。問題なく切り替えられる確率は大体50%くらい。残りのケースでは,少なくとも数日は待たされているようだ。

 各社の中で,切り替えトラブルが最も多いのがAT&T Wirelessだ。切り替えがスムーズに進まないのは,客を引き止めるためではないかとのうがった見方もあり,FCCが調査を始めた(本当の理由は意図的な工作ではなく,単なる技術的な問題のようだ)。

 番号ポータビリティ制度によって,どの会社が利用者を増やし,どの会社が減らすか,も気になるところ。New York Times紙によると,今までのところAT&T Wirelessは利用者を失っているという。逆に客を奪っているのは,Verison WirelessとT-Mobile。これも予想通りの展開だ。どちらとも言えない事業者も何社か残っているが,いずれ勝ち組と負け組みに分かれてくるだろう。

米国に先行してポータビリティを実施した国・地域の状況は?

 以上が米国の状況だが,実は他の国・地域ではポータビリティ制度はもっと早くから始まっている。International Herald Tribune紙によれば,EU加盟国では今年7月25日から始まっているし,香港では1999年,シンガポールでは1997年に開始されている。実は米国でも,固定電話事業者間の番号ポータビリティ制度は97年に始まっている。

 しかし,どこの国でもポータビリティ制度が導入されたからといって,一気に切り替えが進むわけではないようだ。例えばフランスでは施行から2カ月間で4万人の利用者が切り替えを申請したが,そのうち1250人しか切り替えが完了していないという。米国以上にノンビリしている。香港では,ポータビリティ制度の施行後2,3年の間は,利用者による電話会社の乗り換え(churn)が,それ以前の2倍に膨らんだが,最近はぐっと落ち込んだという。

 さて問題は日本だが,今,総務省がポータビリティ制度の導入を検討している最中だ。携帯電話会社や消費者団体の代表,さらに学識関係者などを集って研究会を発足した。今のところ携帯電話業界では,ボーダフォンは導入賛成,他の2社が反対。学識関係者や消費者団体などは導入に賛成している。日本では固定電話と携帯電話で全く異なる番号体系を使っていることもあり,米国のように固定電話と携帯電話との間のポータビリティまで発展するかどうかは分からないが,今後の動きに要注目である。