「比較ショッピング(Comparison Shopping)」がブレーク間近だ。これは「ある商品に関して,多数のオンライン・ショップの小売価格を比較し,最も安い店を紹介する」というWebサイトだ。

 先行するShopping.comBizRate.com,PriceGrabber.comなど,これ専門の業者を追って,先週にはポータル大手のYahoo!が同ビジネスに参入。またAmazon.comも同様のサービス「A9.com」(子会社化する)を構築中だ。さらにGoogleも「比較ショッピング」用のサーチ・エンジン「Froogle」のベータ版を稼動させている。有望ビジネスの匂いを嗅ぎつけて,オンライン業界の各方面から覇者たちが群がって来た。

機能は概ね同じ,ビジネス・モデルには違いもある

 新旧取り混ぜ,各業者の比較ショッピングにはそれぞれ特徴があるが,基本は同じ。試しにShopping.comのホーム・ページを覗いてみると,パソコンなどIT商品,机などの事務機器,あるいはスポーツ用品から衣類,化粧品,宝石まで,多種多様な商品カテゴリが表示される。こうしたカテゴリを検索して欲しい商品を見つけるか,あるいはキーワード欄に直接,具体的な商品名・型番等を入力すると,全く同一の商品,あるいは同種の商品がずらりと表示される。

 これらの商品は,Shopping.comと提携している各種オンライン小売業者が販売している。当然ながら,同じ商品でも業者によって価格は異なる。たとえば私が今,パソコン画面で見ているのは「Creative Labs Nomad Jukebox Zen 20GB MP3 Player」という商品だが,全くの同一商品なのに,小売業者によって値段は何と189ドルから409ドルまで大きな開きがある。なるほど「比較ショッピング」への需要があるはずだ,と納得させられる。

 ユーザーは普通,最も安い小売業者から買いたくなるが,価格以外にも,「期日に配達するか」あるいは「アフター・サービスはどうか」といった業者の評判も気になるところだ。商品価格以外にこうした店の評価も記載されており,消費者は全ての情報を考え合わせた上で,ある小売業者を選んでクリックする。すると,この業者のホームページに飛び,ここで消費者はもう一度,商品情報を確認してから,ようやく「ご購入」に至る――というプロセスである。

 一方,Shopping.com側の収入は,オンライン小売業者からのコミッションという形で入る。通常,ある小売業者が画面でクリックされたら,「1クリック当たりいくら」という形でShopping.comに支払う。1クリック当たりのコミッション・レートは商品によって異なり,たとえば極めて安い日用品なら1セント,自動車のような高額商品なら4ドルと大きな幅がある。またコミッションの徴収システムは,「比較ショッピング」業者によって異なる。例えばBizRate.comでは「1クリック当たりいくら」ではなく,本当に販売が成立した時点で,販売価格の5~15%という形で小売業者に請求している。

ブームの背景にはオンライン・ショップの利用者拡大がある

 この「比較ショッピング」というビジネス・モデルは,90年代のITバブル時代に生まれた。バブル崩壊と共に多くの業者が倒産したが,現存する「比較ショッピング」サイトのいくつかは,そこをしぶとく生き残った業者だ。彼らは当初,パソコンなどIT商品に限定してサービスを開始した。その理由は,IT商品なら仕様・価格の比較が簡単だからだ。「CPU1GHz,メモリ500MB,HD80GB・・・」というように,商品仕様に応じて比較的クリアに切り分けできるから,あとは「これが業者Aではいくら」「業者Bではいくら」と値段を提示すればいい。

 彼らがIT商品からスタートした理由としては他に,当時のインターネット利用者,特にオンラインで商品を買う人は,平均よりもハイテク嗜好の強い男性に偏っていたという点もある。従って「比較ショッピング」業者が最初に扱う商品として,こうした消費者層を狙ったIT機器は自然な選択だった。

 ところが,ここに来てネット利用者の人口動態が大きく変化している。オンライン・ショップで物を購入する人は,男性よりむしろ女性の方が多くなり,また老若男女を問わず,特にハイテク嗜好という傾向もなくなった。要するにオンライン・ショッピングの裾野が,ぐっと広がったのである。これに対応して,「比較ショッピング」業者側でも,多種多様な商品の導入を迫られた。

 これは彼らにとって,業務拡大のチャンスであると同時に,ビジネス・モデルの再考を迫られるピンチでもある。現在,Shopping.comやBizRate.comのような先行業者はいずれも,数万店のオンライン・ショップに軒先を貸し,彼らが売り出す数百万点に及ぶ商品の比較情報を,消費者に提供している。彼らがオンラインで買うのは,今や「ジャケットやブラウス」であり,「有名ブランドのバッグ」であり,「高級家具」であり,「流行の腕時計」であり「花」であり,時には「下着」や「おむつ」でもある。

 こうした商品は,パソコンのような単純比較ができない。衣類に対する評価は,消費者個人の嗜好に大きく左右されるし,ブランド礼賛はむしろ高額商品を好むという不可思議な現象を招くし,家具などのデザインに対する評価は数値化できないし,流行品の価値はあっという間に変わるし,「花」に至っては種類,本数,コンビネーションから鮮度まで,全部足したらクリアな比較はほぼ不可能である。

 これら主観的な評価項目を巧みに取り込み,最終的に「価格」という単純明快な指標に,どのように落とし込むか。この点に「比較」業者の新たな手腕が問われている。

早くも淘汰の時代に突入

 この一方でまた,現在の業務拡大は「過当競争」という別のピンチも招きつつある。オンライン・ショッピングの裾野が広がり,社会を構成する多様な人々が,ありとあらゆる商品を買い求めるようになった。実社会を襲った不況にもかかわらず,オンライン・ショッピングの売上げは,ここ数年でウナギ上りである。しかし,これに連れてサイバー・スペースもオンライン小売業者であふれ,消費者はお買い得な商品を求めて右往左往している。

 ここに新たなチャンスを見出したからこそ,Yahoo!やAmazon.comのような大手企業が「比較ショッピング」事業に乗り出したのだ。巨額の資本と豊かなビジネス・ノウハウを備えた彼らの参入を受けて,芽が出たばかりの「比較」業界は,早くも淘汰の時代に突入する。