Friendsterというコミュニティ・サイトが爆発的に流行している。今年3月にオープンした同サイトは,いまだ試運転(Beta)の段階ながら推定200万人の会員を獲得し,今も幾何級数的な成長を続けている。

 コミュニティに加わると,会員同士でメールを交換したり,顔写真,経歴,趣味など個人情報を互いに閲覧できるようになる。こうして交流を深めた後に・・・まあデートにでも誘うのであろう。実際,同サイトの設立趣旨書によれば,コミュニティに加わる目的は,デート相手や新しい友達,ビジネス・パートナなどを探すことだという。

 このサービス内容には,特に目新しさが感じられない。「この程度のサイトなら,どこにでもあるんじゃないの」と思われる方も多かろう。Friendsterがその他のコミュニティ・サイトと違うのは,会員の個人的な交友関係をたどって,新会員を集めてゆくことだ。従って「コミュニティ」というより,「ネットワーキング(人間関係の拡大)」と呼ぶ方が適切かもしれない。要するに,ある会員が友達を勧誘して,その友達がまた友達を勧誘して・・・という形で,芋づる式に会員を増やしてゆくコミュニティ・サイトである。

交友関係をサーバー上で管理

 このようにして形成されたFriendsterの特徴は,個人的な交友関係の外にある会員とは完全に切り離されることだ。つまり最初A氏から始まった人間関係のグループと,B氏から始まったグループは,もし偶然にも互いに接点が無い限り,別々のグループとして隔離されるのである。

 すなわち200万人の会員全員が,お互い分け隔てなく付き合えるのではなく,個人的な人間関係から増殖したクラスタ(サブ・コミュニティ)の内部でしか付き合えないのだ。Friendsterという巨大コミュニティの中に,こうしたクラスタがいくつも存在する,という複層構造になっている。こうしたシステムの何が良いかというと,要するに「同じクラスタ内の人間なら,ある程度信用できる」あるいは「趣味や嗜好などが一致する確率が高い」ということだ。

 これが,その他のコミュニティ・サイトだと,会員同士が互いに見ず知らずで,共通項も見当たらない。このため警戒感が解けず,お互いに尻込みしてしまって,付き合うきっかけがなかなかつかめない。Friendsterはこうした問題点を解消するための手段として考案された。つまり「Aさんの紹介で入った方なら,そんなに変な人ではないだろう」,あるいは「Bさんの友人なら,やはりゴルフ好きなのだろうか」といった形で,デート相手や遊び仲間を見つけるのが比較的容易になる,という狙いだ。

 同じクラスタに含まれるのは,ある人から見て最大4段階の人間関係までだ。すなわち「A氏の友達(B)の友達(C)の友達(D)の友達(E)」までは,同じクラスタに所属する。その先の友達(F)となると,今度はB氏を起点にしたクラスタに含まれることになる。4ステップ目で止めた理由は,それ以上先まで延ばすと,クラスタ内のコミュニケーションが制御不能になるからだという。

 クラスタ内の人間関係はサーバーに記録されており,仮にM男とN子が真剣な交際を考えた場合,二人の接続関係が誰を経由して形成されたか,それを示すネットワーク図がパソコン画面に表示される。

『友達君』の数を競い合って遊ぶ

 それにしても,このようにして形成された人間関係を何と呼べばいいのだろうか。そもそも,「友達の友達の友達の友達」とは,私の友達なのだろうか。必ずしも「友達」とは呼べないから,Friendsterという新語をコミュニティ名としてつけたのだろう。この言葉は正式な英単語ではないので,英和辞典で探しても載っていない。

 英語の「-ster」は非常に便利な語尾で,この前に形容詞や名詞をつけると,それにまつわる「人間」を意味する言葉になる。例えば「young-ster」なら「若い人間」つまり「青少年」である。この法則を当てはめると,Friendsterは「友達的人間」とでも呼ぼうか。しかし,これではまるで中国語なので,ここでは私の趣味に従い,勝手に「友達野郎」あるいは「友達君」とでも訳しておこう。「幾重もの人づてに知り合った」という距離感を語尾に含ませた,私なりの造語である。

 さて読者は「このようにネット上で間接的に知り合った『友達野郎』ないしは『友達君』と,本当にデートしたり商談をまとめたりする人がいるのだろうか」といぶかしく思うかもしれない。答えは「ほぼノー」である。もちろん200万人もの人が集まっているのだから,中には上手くデートまで持ち込む人もいるだろう。しかし会員の多くは,真剣に交際・仕事相手を探すというより,むしろ遊び半分で楽しんでいるようだ。

 Friendsterに次々と自らの知人・友人を勧誘する会員の動機は,もっぱら虚栄心である。各々の会員は,サイト上で自分のログイン名とパスワードを入力すると,自分のFriendsterが今,何人いるかカウントされて表示される。この数をみんなが競い合っているのだ。それは自分の人気度を示す指標だからである。「よう,彼女,俺には友達野郎が20万人もいるんだぜ」「あら,勝ったわ。あたしの友達君は40万人を超えたのよ」などと学校や職場で自慢し合うというわけだ。

 「20万人」,「40万人」とは法螺(ほら)ではない。誰か直接の知人を勧誘すると,そこから鼠算式に広がって行くので,物凄いスピードでクラスタが増殖するのだ。実際,ワシントン・ポスト誌は「21万185人の友達野郎」を持つ男性,「43万2475人の友達君」を持つ女性を紹介している。馬鹿馬鹿しさも,ここまで極めると立派なジョークの域に達している。

 改めて数字を出すまでもなく,これは単なるゲームなのである。何が「40万人」であろうか。互いに支え合って行ける本当の友人を,生涯で「4人」持つことができる方が,その人はずっと幸せだろう。

ビジネス化の動きに200万人の会員はどう反応する?

 驚くべきことに,ほとんどジョークとも思えるFriendsterに,Kleiner Perkins Caufieldなど,米国の一流ベンチャー・キャピタルが1000万ドルもの投資をする,との噂が流れている。最初は10人程のエンジニア仲間が細々と始めたFriendsterは,既に一部エンジェルから100万ドルの資金を調達し,じきに本格稼働に入る。

 試験運転の現段階ではサービスは無料だが,もうすぐ有料化されるのでは,という噂も広がっている。何しろわずか1ドル請求されただけでも,友達の縁を切ってしまうのが,「友達野郎」や「友達君」の常だ。ビジネス化の動きに,200万人の会員がどう反応するか楽しみである。