音楽レコード産業のビジネス・モデルが限界に達している。主な収入源であるCDの売り上げは4年連続で減少し,2002年は前年比でおそらく10%以上の減少が見込まれている。4年連続の減少となると,これは一時的なスランプというより,構造的な問題が発生していると見るのが自然であろう。つまり今までのやり方では通用しなくなっているのだ。UniversalやWarnerなど五大レコード会社は,いれも赤字か,かろうじて収支均衡の状態にまで追い込まれていると言われる。

 その主な原因は,デジタル化に伴うコピーの急増である。必ずしもインターネット上の不法コピーだけではないが,それが大きな部分を占めていることは間違いない。レコード産業の歴史を振り返ると,この業界は常に新しい技術を新たな収入源として活用してきたのに,インターネットに限っては,足を引っ張られるばかりで,うまく利用できない。メジャー・レーベルが2陣営に分かれて開始したオンライン・ビジネスは,これまでほとんど客がついていない。

 現在のところRIAA(米レコード産業協会)をはじめとした音楽業界は,ネット上の不法コピーを,法的手段によってたたき潰すことに力を注いでいる。しかし,違法サイトをしらみ潰しにたたいても,売り上げが年々落ちているということは,こうした対処の仕方が賢明ではないことを示している。

 この現状を打開するため,いくつかの方法が考案されている。最も現実的と見られるのが,インターネット接続事業者(ISP)を介して,一般利用者全体から広く薄く著作権料を徴収してしまう,というやり方だ。すなわちネット上で音楽がコピーされることを前提にして,ISPがその著作権料を月額の接続料金に上乗せして契約利用者に課金する。こうして徴収した著作権料が,間接的にレコード業界に支払われるという仕組みである。つまり利用者はハッキリと意識せずに,著作権料を払う形になる。

 このやり方は,これまで私たちがCD-Rやミニ・ディスクを買った時に,自動的にその代金の2~3%が音楽業界に支払われていたのと似たシステムである。つまり,最初から著作権付き音楽がコピーされることを前提に,それらの媒体を売っていたのだ。音楽業界には,このやり方をインターネットにも応用するオプションが残されている。これは試してみる価値があるはずだ。

 様々なメディア産業の中で,音楽レコード業界は最初にビジネス・モデルの変革を迫られた業界である。新聞を中心にしたプリント・メディアや映画産業は,まだ音楽業界ほどには追い詰められていない。

 すなわち現在,新聞にお金を払って読んでいる読者は,中年から高年齢層に偏っている。従って「活字にも金を払わないのが当たり前」という現在の若者が中年の域に達するまで,何とか現在のビジネス・モデルを維持できるだろう。また映画産業の場合,クリアな動画像を実現する大型ファイルを,インターネットで交換するのが,大多数の利用者にはまだ難しいということ,さらにはDVDに効果的なプロテクションをかけるのに成功した,というのが救いとなっている。

 ただいずれの業界も時間の問題で,音楽産業のように現在のビジネス・モデルが限界に達するだろう。今年から来年にかけて,音楽レコード産業がどのように構造改革をするかは,今後のメディア産業全体の試金石となるだろう。