米MicrosoftがCalifornia州との独禁法訴訟で和解した(米国時間1月10日付けの発表資料へ )。サンフランシスコ地方裁判所が和解案を受理すれば,1995年から2001年にかけてMicrosoftの商品を購入した企業や消費者に対し,同社は最高11億ドル(約1300億円)を「商品券」という形で還元する。

 これは同期間にMicrosoftがCaliforniaで売り上げた商品総額の約3割に当たる。一般消費者の立場から見た場合,「Windows」や「Word」など購入した商品に応じて,1件当たり5~29ドルを還元されるという。商品券はパソコンやソフトなどIT製品に限って購入することができるが,Microsoft製品でなくても構わない。

 ユーザーがMicrosoftから商品券をもらうには自己申告が必要。1995~2001年にかけてMicrosoft商品を買った,一般消費者や企業内ユーザーの数は約1300万人と推定されるが,このうち何%が自己申告するかは予想できない。従って和解金11億ドルのすべてが,商品券として支払われるかどうかは分からない。

 仮に余った場合,その3分の2はCalifornia州の低所得地域にある学校に寄付され,残りの3分の1はMicrosoftに戻る。全額を寄付しない理由についてMicrosoftは「そもそも我々は違法行為を働いていない。従って申告されなかった和解金のある部分は,我々が手にする権利がある」とコメントした。

仮に他の州に賠償金を払ったとしても,その総額は1.5倍程度

 2002年11月に司法省との和解を成立させたMicrosoftだが,この他にCaliforniaやArizonaなど17州,そしてEU(欧州連合),さらにSun Microsystemsなどライバル企業との個別訴訟まで含め,大小60件あまりの訴訟を抱えていた(関連記事)。今回のCalifornia州での和解が裁判所から承認されれば,数え切れないほどの肩の荷が一つ下りることになる。総額11億ドルの和解金は常識的な感覚では巨額に見えるが,Microsoftの年商284億ドル(そのうち営業利益は119億ドル)に比べれば大したことはない。

 「残りの16州に対し,それぞれ同じくらいの賠償金を払うのは大変ではないか」と思われるかもしれないが,実はそういう計算にはならない。

 なぜならCalifornia州はMicrosoft商品を最も多く買った地域にあたり,全体の40%(商品5000万個/ライセンス)はこの州で購入しているからだ。従って単純に販売個数をベースに和解金を算出した場合,残りの16州には総額で,11億ドルの1・5倍に当たる16億ドルあまりを支払えばいい。これで「手打ち」にできれば,同社としては安いものであろう。

2003年前半の焦点はEUとの係争に

 今回,California州が和解に応じたのは,米国の不況が深刻化し,同州が財政難にあえいでいるからだ。企業や一般消費者への商品券は,一種の「減税」として地域経済を刺激するし,残りの数億ドルが公立学校に寄付されるなら,かなりの教育予算を節約できる。Microsoftは,いわば「第二国庫」のようなものだ。California以外の16州も当然ながら台所事情は苦しく,この機に乗じてMicrosoftは,矢継ぎ早に和解に持ち込む公算が高い。

 他にSun Microsystemsらと争っている,いわゆる「ミドルウエア」訴訟があるが,これは今のところMicrosoft有利に形勢が傾いている。2002年11月に連邦地裁の判事によって,「Javaを代表とするミドルウエアの売り上げと,Windowsの市場占有率の相関性は薄い」という裁定が下されたからだ。

 Microsoftが最も懸念しているのは,EUとの係争だろう。欧州の独禁法は米国以上に強く,消費者やライバル企業を保護する。既にEU Competition Commission(競争委員会)の委員らは,「アメリカと我々のケースは全く別物(=2002年11月の「Microsoft分割回避」裁定の影響は受けない)」と釘を刺している。EUの裁定は,2003年前半には下る見通しだ。