世界に分散するスーパー・コンピュータの性能ランキング調査で,海洋科学技術センター横浜研究所の「地球シミュレータ」(関連記事)がトップに輝いた。米テネシー大学らが行う同調査(詳細はこちら)は毎年6月と11月の2回発表され,前回6月の調査でも「地球シミュレータ」が第1位にランクされた。同ランキング調査は今年で10年目を迎えるが,日本製(NEC)のスパコンが1位に上りつめたのは,この時が始めてだった。

 「地球シミュレータ」の演算速度は,理論的なピーク時性能が約40テラFLOPS(1秒間に40兆回の浮動小数点演算を実行)。これは2位のLos Alamos National Laboratoryにある「ASCI Q」(同約10テラFLOPS)の4倍になる。圧倒的な大差をつけてのトップである。理論的な最高値の代わりに実行速度を比較した場合,この差はさらに広がると言われる。

2つの技術方式が優位性を賭けて争う

 現在のスパコン業界では,異なる2つの技術方式が優位性を賭けて争っている。Cray社製のスパコンに源を発する伝統的なvector-processor方式(タイプC)と,90年代に勢力を拡大したMassively Parallel Processors(超並列プロセッサ方式:タイプT)の2種類である。

 ベクトル・プロセッサは,「地球規模の大気シミュレーション」などスパコン特有の演算に特化して開発した,いわばオーダー・メイドの高級商品である。これを「比較的」多数,並列に組み合わせて作ったのが,タイプCのスパコンだ。一方,タイプTでは,パソコンやその上のサーバー・マシンなどで採用される市販MPU(廉価商品)を,「ものすごく沢山」並列に組み合わせて使っている。
 
 1位の「地球シミュレーター」は,伝統的なタイプCに分類される。すなわちNEC製のベクトル・プロセッサ5120個を,640個のノードに分割して接続している。一方,2位の「ASCI Q」はタイプT。Compaq-HP製AlphaServerに使用されているMPUを,11968個も並列接続している。

 両者の性能を単純に比較した場合,伝統的なタイプCに軍配が上がった格好だが,スパコン全体の勢力図を見ると,タイプTが圧倒的に優勢である。今回トップ500にランクされたスパコンのうち,タイプCはわずか14台。しかもその数は年々減っている。さらにタイプTに分類されるスパコンの中でも,近年特に勢力を増しているのが,Intel製のMPU,つまりパソコン用のチップを並列接続したマシンだ。

冷戦終結からはコスト・パフォーマンス重視へ

 今回の調査ではトップ10の中に初めて,このPC型のスパコンがランク・インした。とにかく「出来合いの廉価商品を沢山並べて,スパコンに仕立て上げよう」というのが,最近のトレンドなのである。

 タイプTが優勢になったのは,90年代米国のITブームと期を同じくする。それ以前,巨大な軍需産業をスポンサーとする米スパコン業界では,「いくら大金をかけてもいいから,ソ連に勝てるスパコンを作れ」というのが至上命令だった。

 しかし,ソ連が崩壊して東西冷戦の緊張が緩むと,スパコンも「コスト・パフォーマンスの時代」に入った。「まあ平和になったんだから,あまりガツガツしないで,値段のことも考えてくれや」という,政府からのお達しである。こうした機運が,サン・マイクロシステムズらによる廉価なWS・サーバーの普及と相まって,これを大量に接続したタイプTが主流の座についたのである。

 しかし,タイプT(超並列型)が本当に,タイプC(ベクトル・プロセッサ型)よりコスト・パフォーマンスが優れているのか,まだ結論は下せないようだ。「地球シミュレータ」の開発・製造コストは約400億円。2位以下のスパコンのコストは明らかにされていないが,コスト・パフォーマンスで「地球シミュレータ」に勝るには,分母(コスト)の方を相当削らないといけない。

 というのは,「タイプTのスパコンは実行性能が格段に悪い」という評価が下されているからだ。一説によると,アプリケーションによっては,理論上のピーク時性能の3%にも達しないことがあるらしい。これに対し,タイプCの「地球シミュレータ」では,それが70%にも達するという。「スパコンの性能」はやはり,「オーダー・メイド恐るべし」の世界なのである。

ペンタゴンの予算増はスパコン業界にも影響を与える?

 日本製「地球シミュレーター」が米国製スパコンを追い抜いて世界トップの座に輝いた時,ランク付けを行った米テネシー大学のJack Dongarra博士は,「(1957年に打ち上げられたソ連の人工衛星)スプートニック・ショックにも匹敵する」と語ったという。ややオーバーな気もするが,しかし対テロ,対イラクを念頭にペンタゴンは今年,史上最高の予算を勝ち取った。

 こうなると潤沢な開発費が再びスパコン産業に注がれ,徹底的に性能を競う「タイプC」スパコンが勢力を盛り返す可能性も出てきた。