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コンピュータが選ぶ「世界のトップ・ニュース」

2002/11/11

 「これが,どうしてトップ・ニュースになるのかな?」「また今日も同じニュースか・・・」「どこを見ても同じニュースだな」「こんな無意味なこと,公共の電波に乗せる価値があるのだろうか」「他にもっと大切なことあるんじゃないの?」―――テレビや新聞で報道されるニュースの選択基準に,日ごろから疑問を抱いている人は結構多いのではないかと思う。

 当たり前の話だが,ニュースは報道機関の編集者が選ぶ。複数の人たちが頭を寄せ合って選ぶとはいえ,しょせんは人間の「主観」に依存している。つまり,ある人にとってはつまらないことが,別の人にとっては重要な意味を持つのだ。

 また,ニュースの報道プロセスに,政界や企業スポンサーから暗黙の圧力がかかることもある。あれやこれやの理由から,「客観的・中立的に」ニュースを選んで報道するのは極めて難しいのだが,それでもできるだけ「客観的・中立的な」選択基準に則っているのが望ましい。

ニュースの選考をコンピュータが行うGoogle Newsが登場

 そこで登場したのが,Google Newsである。これはニュースの選考プロセスに人間を介在させない。その代わりにコンピュータ,すなわちソフトウエアのアルゴリズムによって,その日の重要なニュースを選び出し,ランク付けしてホーム・ページ上に掲載している。「人間の代わりにコンピュータに任せれば,客観的・中立的にニュースを選んでくれるはず」というアイディアに基づいている。

 Googleはご存知の通り,サーチ・エンジンで最先端を走る企業だ。今度はその技術を,ニュースの選択プロセスに応用したのである。

 とはいえ,そのアルゴリズムは極めて単純な発想に基づいている。世界中から約4000社の報道機関を選び出し,彼らのWebサイトに掲載されるニュースを常時ウォッチする。そして各ニュースに対し,他サイトから接続される「リンク」の数を計測して,最もリンク数の多い順から,1位,2位と順位をつけてゆくのである(ランキングは15分毎に更新される)。ちなみに本稿を書いている現時点では,「国連がイラク査察を決議したニュース(英BBC)」が1位,米ニューヨーク・タイムズの関連記事が2位となっている。

 ここまで読んで,「ちょっと腑に落ちないなあ」という感想をお持ちの読者もおられるだろう。というのも,このアルゴリズムは出発点から矛盾を抱えているからだ。つまり各報道機関のホームページに掲載されるニュースは,やはり人間の編集者が決めているのだ。

 「ちっとも客観的じゃない!」という反論もあろうが,「元々は主観による選択から始まっても,それらを寄せ集めて平均処理すれば,客観的になる」という基本思想に基づいているのだ。

「ヤンキース敗退」が世界のトップ・ニュース?

 しかし私は時々,Google Newsをウォッチしているが,そのランキングには,やはり納得できないケースが多い。すなわちいつ見ても,欧米,特に米国のニュースが上位を占めている。「(大リーグの)ヤンキース,プレイオフで敗退」などというニュースが,堂々,世界1位になったりする。

 これに対しアジアのニュース,たとえば最近では拉致被害者のニュースなども時々登場するが,ランキングは低い。しかもニュースの発信者は日本のメディア(英語版のホームページ)ではなく,ほとんどがAP通信やBBC,CNNなど欧米のメディアである。原理的には「世界のニュース」なのだが,事実上は欧米主体のニュースなのである。

 これはもちろん,コンピュータ・プログラムが欧米諸国をえこひいきしているわけではなく,統計処理上,当然の結果なのだ。すなわち現時点でも,インターネット・ユーザーは欧米人が圧倒的に多いから,単純にリンク数の世界統計を取った場合,欧米のニュース感覚が最も強く反映されるのである。

 「巨大な人口を抱える中国があるじゃないか」などのご意見もあろうが,中国のネット利用者の数は,2001年末の時点で推定2200万人と,米国(1億5400万人)の足元にも及ばない。また,共産圏のインターネット・ユーザーは,政府が管理するプロバイダを通してしかアクセスできないので,西側のWebサイトは検閲に引っかかって利用できないこともある(ハッカーはミラー・サイトを使って西側にアクセスしているが)。そういう事情で,ますます少数派になってしまう。

 日本を含めアジア全体のネット・ユーザーは1億500万人。これに対し欧米は合わせて3億人近くもいる。ちなみにラテン・アメリカ諸国は全体でも1700万人,中東諸国は240万人しかいない。従って,単純に多数決に頼った場合,サイバー・スペース上のニュース感覚はどうしても欧米の視点になってしまうのだ。

「世界の実態」をある意味で“正直に”伝えている

 インターネットの普及率は,その国の政治・経済的パワーと,民主主義の進展の度合いを反映している。この3つの要素は,現代世界における国力を測るための指標となっている。それらに勝る国が,それらに劣る国を抑えて,国際世論を形成してしまうのは,ごく自然な成り行きである。

 こう見てくると,Google Newsは「世界のあるべき姿」ではなくて,「世界の実態」をある意味で“正直に”伝えていると言えるだろう。

 広い世界には,「国際犯罪」やら「不良債権」やら「難民」やら「AIDS蔓延」やら,とにかく重大な事件があふれているが,それらを抑えて「ヤンキース敗退」が世界のトップ・ニュースになるのは,どう見てもおかしい。おかしいことは間違いないが,世界はこれをトップ・ニュースに選んだ国を中心に回っている。「良い」とか「悪い」とかの問題ではなく,事実はそういうものだ,ということだ。Google Newsのアルゴリズムは,実は冷徹なまでに正確なのかもしれない。

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