消費者はWeb上のコンテンツには金を払わない――。インターネットが普及し始めて以来,揺らぐことの無かったこの法則が急速に崩壊しつつあるようだ。

図1 米国のオンライン出版団体Online Publishers Association(OPA)などの調査によれば,Web上の有料コンテンツの売上げは,このところ少なくとも4期連続で増加している。特に今年の第1四半期は,前年同期比で3倍近くまで急増した(図1)。この調査は,実際に110万人のネット・ユーザーの動きを追跡した結果を基に算出したものだ。サンプル数が大きいから,信頼度はかなり高いと見てよい。

 調査対象となった有料コンテンツは,「ビジネス・ニュース」,「一般ニュース」,「調査レポート」など11種類。「ポルノ」や「ギャンブル」,「詐欺的な売り込み情報」など,いかがわしいコンテンツは含まれていない。また「有料ソフトウエア」や「ISP(ネット接続サービス)」なども除外されている。

表1 全体を一言でまとめれば「Web上の有料情報」と呼ぶべきもので,従来,消費者が最もお金を出したがらなかった領域だ(表1)。

バブル崩壊とともに,コンテンツ課金が進む

 読者もよくご存知の通り,初期のWeb上の情報はほとんどすべてが無料だった。ところがネット・バブルがはじけ,VC(ベンチャー・キャピタル)からの投資金が一挙に引揚げられてしまうと,情報サイトの経営者たちはコンテンツに課金せざるを得なくなった。

 しかし今までタダで見せていた物をいきなり有料にすれば,ユーザーが逃げるのは目に見えている。そこで彼らは同業他者の出方をうかがいながら,「あそこもやったから,うちも・・・」という形で,慎重にことを進めて来た。こうして徐々に徐々に,有料サイトが増えていったのである。

 ネット・ユーザーの中には,「あれ,ここの情報は先日まで無料だったのに,いきなり課金されてる」という失望感を味わった人が増えているはずだ。「まあいいや,他に行こう」と同業他社のサイトを覗いてみたら,そこもいつの間にか有料になっていた。今まで便利な上にタダだったから重宝して使ってきた。すっかり,その習慣がついているので,今さらこれらの情報無しには仕事ができない。「仕方ないな・・・。払うか」ということになってきたのだろう。

 コンテンツの料金だが,今回の調査では,一般ニュースの72%は記事一本あたり5ドル未満である。調査レポートのような「時間と労力をかけたドキュメント」でも,全体の66%は一本あたり50ドル未満である。

「コンテンツ収入は,まだまだ成長する余地がある」

 バブル崩壊は確実に,有料化への追い風となっている。力のあるライバルの数が減り,寡占化が進んだ。今回の調査では,有料コンテンツ売上げ全体の85%が上位50社によって占められている。つまりユニークなサービスを提供できる業者だけが,生き残ったのである。ユーザーとしては,他に選択肢が無いから金を出さざるを得ない。

 これを逆に見れば,今こそがネット・ビジネスに進出する好機なのかもしれない。だが,バブル崩壊による大火傷の記憶が生々しいだけに,今から始める度胸を持った起業家が何人いるだろうか。

 問題は今後どこまで,ユーザーがコンテンツに金を出してくれるのか,ということだ。現在,Web情報サイトの売り上げに占める「広告収入」と「コンテンツ収入(購読料)」の比率は11対1。コンテンツ収入が急増しているとはいっても,いまだに広告収入が圧倒的に多い。

 OPAでは,最終的にこの差が4対1にまで縮むと予想する。ちなみに米国の(紙の)新聞業界では,両者の比率が3対1であるという。現在のところ,コンテンツにお金を払っているのはネット利用者全体の9.2%。「コンテンツ収入は,まだまだ成長する余地がある」とレポートは結論付けている。