カリスマ的な経営者としてフランスVivendi Universalに君臨してきた,Jean-Marie Messier氏が会長兼CEOの座から追われた。フランスのメディア・コングロマリットとして,米AOL Time Warnerの向こうを張ってきた同社だが,負債が35億ユーロ(34億ドル)にも上り,株価も最高値から90%近く下落するなど,経営危機に直面している。

 Messier氏はその責任を取らされた格好だが,関係者の間では「やむを得ない」と見る向きが強い。

伝統的な水道業者がわずか4年でメディア複合企業に

 Messier氏はアメリカ型ビジネス・モデルの信奉者として知られる。特に90年代後半には,米国から欧州に広がったインターネット・バブルに乗じて,次々と大胆な企業買収に乗り出し,伝統的な水道業者をわずか4年で世界的なメディア複合企業へと変身させた。

 そのM&Aのやり方は,株式交換(Stock Swapping)を主体とする強引なもので,株価が上昇曲線を描いているときには万事,うまく運んだが,バブルが弾けた後は,借金がかさむばかりの結果となった。

 Vivendiが名実共にメディア企業へと変貌を遂げたのは,2000年秋にカナダのSeagram社(当時,Universal PicturesとUniversal Music Groupを所有していた)を買収し,社名をVivendi Universalに変更した時点だ。しかしSeagramの買収に要した340億ドルは,当時から「払い過ぎ」との批判が聞かれた。

 Messier氏はこれ以外にも,ネット音楽配信の米MP3.com,衛星放送の米EchoStar,フランスのテレビ局Canal Plusなど,大型買収を次々と成功させたが,ITバブル崩壊後はいずれの会社も,数億から数十億ドルの赤字を垂れ流した。

アメリカ型の会計手法でバランス・シートの体裁を取り繕う

 それでも当座の経営危機を免れたのは,アメリカ型の会計手法を踏襲し,株主たちを説得できたからだ。いわゆるPro Forma IncomeやEBITDAなど,バランス・シートの体裁を取り繕う会計手法が,バブル期にはフランスでも容認されたのだ。

 しかし昨年秋に米Enronが大規模な粉飾決算で事実上破綻してからは,米国型のやり方が通用しなくなった。

 EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)を直訳すれば,「支払い利息,税金,および減価償却費控除前利益」だが,今時こんな複雑な呼び方を覚えている人は誰もいない。簡単に言えば「すべての悪い物を取り去る前の利益」といった理解で十分である。つまり事実上の「粉飾決算の手法」ということで,歴史的な評価が固まりつつある。これはPro Forma Incomeについても同じだ。

 インターネット・バブルが崩壊してしばらくすると,Vivendiの株主たちはようやく目が覚めたように,同社の経営状況を冷静な目で吟味するようになった。「借金が増えるばかりじゃないか!」という単純明快な理由で,株がどんどん売られ始めたのだ。

屋台骨を支えるUniversal Groupを手放す可能性も

 Messier氏は先週の役員会の投票によって,辞任に追い込まれたが,その理由の一つには,同氏の行き過ぎたアメリカ贔屓(ひいき)もある。Vivendiの事実上の本拠地をニューヨークに移すと同時に,Messier氏自身も昨年秋にニューヨークに引っ越している。

 フランス人は自国の文化やビジネス慣習に強い誇りを抱いているから,一連のMessier氏の行動は「売国奴」的な行為として,株主や役員達の反感を買ってしまった。この結果,経営危機が明らかになった時,Messier氏を助けてくれる人は誰もいなかったのである。

 Messier氏の後任には,巨大製薬会社の現副会長が決まっている。新たな経営者の下で,Vivendiはまず当座の利息を支払うために,銀行からさらに借金しなければならない。そのための条件としては,これまでせっかく大金を叩いて買い集めた企業の売却を要求されそうだ。最悪の場合,メディア複合体の屋台骨とも言える,Universal Groupを手放すことさえ考えられる。

 もともとMessier氏が様々なメディア企業を買い漁った理由は,「音楽から映画まであらゆるコンテンツを統合し,それらをワイヤレス・インターネットで消費者に配信する」ということだった。しかしネット・バブルが弾け,さらに通信業界が大スランプに陥った現在,彼の計画は水泡に帰した。グランド・デザインが砕け散った以上,多様なメディアを同じ傘下に納めておく必要性も無くなってしまった。

 仮にVivendiがUniversalを手放すことにでもなれば,AOL Time Warnerなど他のメディア・コングロマリットも,採算の悪い部門を売却する方向に進むかもしれない。