家電小売チェーン店のCircuit Cityが「VHS映画の販売を止めて,これからはDVD商品だけを売って行く」という計画を明らかにした。業界第2位のCircuit Cityでは,既にいくつかの店舗でVHS映画の販売を完全に中止しているが,いずれは全店舗の棚からVHS映画が消え去ることになる(はっきりとした時期は発表していない)。

 一方,業界1位のBest Buyは今のところ,「VHS映画の販売中止」は発表していないものの,VHS映画用の販売スペースはどんどん狭まっており,そこをDVDが占領している。さらに書籍販売を中心とする小売チェーン店のBordersも,VHS映画からDVDへの切り替えを明らかにした。これらの動きを受けて,業界では早くも「VHS(ビデオ・テープ)が消滅する」との見方さえ出ている。

消費者の反応は「いくらなんでも早過ぎる」

 しかし肝心の消費者の方は,こうしたニュースを聞いてギョッとしている。「いくら何でも早過ぎる」というのが,率直な感想だろう。

 確かにDVDの売上げは急速に伸びており,それがVHSの市場を侵食していることは間違いない。しかし米国の大半の消費者は,いまだにVTR(米国ではVCRと呼ばれる)を使っているのである。Video Software Dealers Association(VSDA)の調査によれば,VTRは9400万世帯に浸透しており,これは全米家庭(1億300万世帯)の92%に達する。

 一方DVDプレイヤーの普及率は,急増しているとはいえ3500万世帯,全米家庭の34%である。全米家庭の約6割は,いまだにDVDではなくVTRに頼っているのだ。こうした状況下で,ビデオ・テープ映画の販売を中止することは,消費者から相当の反発を受けるだろう。

 もちろん小売店側にも,それなりの反論はある。「消費者は絶対に(VHSより)DVDの方を欲しがっている」というのだ。ワシントン・ポスト紙によれば,小売/レンタル・ビデオ最大手のBlockbusterでは,扱う商品をVHSからDVDへとシフトすればするほど,売上げが増加しているという。同店の売上げに占めるDVDの比率は,昨年18.5%だったが,今年末には40%に達する見込みだ。

 また小売店側は,「VHSのレンタルは続けるつもりなので,消費者は文句を言わないはずだ」としている。同じくVSDAによれば,昨年前半にVHS映画は約10億本(72%)レンタルされたが,DVDは3億7000万本(28%)だ。レンタルの売上げベースではVHSの27億ドル(69%)に対し,DVDは12億ドル(31%)である。このようにレンタル市場では,いまだにビデオ・テープが主流である。

メーカー側は既にDVDへの移行を鮮明に打ち出す

 今回のように一部の小売店がVHS販売の中止に踏み切る以前に,メーカー側は既にDVDへの移行を鮮明にしている。最近発売されるビデオ映画のほとんどはDVDで提供され,VHSでの提供は「レンタル」目的に限定されている。「消費者はレンタルする時は安いビデオで済ませ,買って永久保存する時には,高画質が保証されるDVDを選ぶ」と見ているのだ。

 小売店にとってもメーカーにとっても,DVDはビデオ・テープに比べ,利益率が各段に高い。従ってCircuit Cityのような巨大チェーン店は,自らの圧倒的な販売シェアを活かして,ビデオ・テープからDVDへの切り替えを加速させたいのである。

 米国における,DVDプレイヤーの小売価格は,平均で155ドル。低所得者層にも手が届くところまで落ちてきている。VHSからDVDへの完全移行は時間の問題だが,家電業界では「時間の問題」が「最も重要な問題」なのだ。大手小売店の思惑通り,消費者が動いてくれるかどうか,もう少し様子を見る必要がある。