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生死を分ける? ネット上の医学情報はどう使われているか

2002/06/03

 昨年の夏,私の身内が肺癌の疑いで入院した際,切った(手術した)方がいいか,それとも切らない方がいいか,親族内でかなり揉めた。私の家系には,それまで癌にかかった者が見当たらず,そもそも彼が本当に癌なのかも,ハッキリ確認できたわけではない。

 確認のためには,気管を通して肺まで内視鏡を突っ込んで検査しなければならない。しかし,これが患者には拷問に近い苦しみを与えるらしい。医師が何とか内視鏡を入れようとするのだが,彼(患者)の方は,ほぼ反射的にこれを拒絶してしまい,結局確認できなかった。

 私は医学の知識に乏しいので,その時は色々な雑誌を読み漁ったり,インターネットの医学サイトを調べ回ったりして,できる限りの情報を得ようとした。最近は「無理に切らない方がいい」との説も有力らしく,そうした趣旨の記事を雑誌で読んだりすると,「それだったら,このまま様子を見た方がいいのかな」と思ったりもするのだが,今度はインターネットで調べると,全く正反対の見解が載っていたりして,かなり混乱した。

「行き当たりばったり」の情報収集では役に立たない

 調査を始めるにあたって,必ずしも,ちゃんとした雑誌に載っている記事だから信用できる,逆にインターネット上の情報だから信用できない,という先入観は捨てようと思った。しかし,結果的にWebサイトの記事では,医学情報の出所や,「それがいつごろの情報なのか」など,重要な事柄が明記されていないケースが多く,「一体どこまで信用して良いものやら」と頼りない気持ちになった。

 結局,私の身内は思い切って手術を受けたが,肺を開いてみると初期癌であることが判明し,その場で切除して手術は成功した。身内は全快し,今やピンピンしている。

 私がインターネットを中心に漁った情報は結局,何の役にも立たなかった。そもそも,それを使おうという気にもなれなかった。まず情報収集のやり方が,我ながら「行き当たりばったり」という印象を否めなかったし,集めた情報を取捨選択する見識も,私には無かったからだ。

 人の命がかかっている状況下では,「素人がインターネットに頼って医学情報を漁るのは,むしろ危険だ」というのが,私の下した結論だった。

ネット上の医学情報を活用する人は多いが,「合理的な利用」は少ない

 「これは私だけの感想かな」と思っていたが,先月(5月)下旬にPew Research Centerが発表した世論調査にも,それを裏付けるような結果が掲載されていた。医学Webサイトの活用状況に関する電話聞き取り調査だが,必ずしもネガティブな結果ばかりではないので,以下にその概要を紹介しておこう。

 まず米国ではインターネット利用者全体の62%,推定7300万人がネット上の医学情報を活用したことがある。私が「なるほどな」と感心したのは,そのうちの81%の人たちが,自分のためではなく,家族や親戚,友人など「自分以外の人」のために,医学情報を漁っている,という調査結果だ。

 今回,私の近親者が病気になって感じたのだが,患者,特に重い病気と診断された人は,それだけで精神的・肉体的にガクリときてしまうらしく,とても自分で医学情報を漁ってみる気力は持てないようだ。患者本人に代わって,周りの人たちがあれこれ世話を焼いて調べ回るという姿が,調査結果から目に浮かんでくる。

 ただ問題は,その調べ方なのである。全体の86%が,「サーチ・エンジンのキーワード欄に病名をタイプし,そこで検索されたWebサイトを手当たり次第に見てみる」という方法に頼っている。逆に「医師や専門家から推薦された医学サイトを見る」といった,多少なりとも合理的な調べ方をしている人は,全体の14%に過ぎない。結局,ほとんどの人は「行き当たりばったり」なのである。

 事実確認の姿勢も,おろそかになりがちだ。「(Web上の)医学情報の出所や時期を確認している」と回答したのは,全体の25%に過ぎない。家族や愛する者など,自分にとって本当に大切な人でなければ,ひょっとして所詮(しょせん)は他人事に過ぎないのではなかろうか。

混沌とした情報の中から正しい知識を獲得する人がいるのも事実

 こういう見方はあまりに厳し過ぎるかもしれないが,この調査結果を見る限り,生半可な心構えでネット上の医学情報を漁って,誰かにアドバイスするのは,むしろ悪い結果を生むような気がする。

 しかし,逆に熱意を持って調べる人には,インターネットは素晴らしい成果をもたらしてくれる。Pewの調査レポートの中には,末期の肺癌と診断された38歳の女性が,インターネットを駆使して最新の医学情報を集め,それを生かして見事に癌を克服したエピソードが紹介されている。

 私は最近,ある記事の取材の過程で,脊髄損傷の患者にインタビューする機会があったが,彼もインターネットを使って最新の医学情報を集めている。専門医が論文の中で,この患者の意見を紹介するほどだから,その見識は相当なものだ。

 混沌とした情報が渦巻くインターネットの中から,こうした人たちが一体どのようにして,正確で系統だった知識を獲得しているのか,第三者には知る由もない。しかし強固な決意をもって臨めば,インターネットは患者にとって強力なツールとなることは間違いないようだ。

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