ITバブル崩壊後,すっかり表舞台から姿を消してしまった感のあるインターネット企業(Eコマース業者)だが,水面下では着々と力を蓄えているようだ。米Business Week誌の調査によれば,1994年以降,IPO(Initial Public Offering:株式公開)したインターネット企業456社のうち,いまだに生き残っているのは208社。さらに,そのうちの25%に当たる52社が,昨年末までに純益を出すことに成功したという。

 今回は,純益を上げている企業の成功要因や,いまだに苦戦を強いられている企業の課題を分析しよう。

業種別ではオンライン旅行代理業が好調

 業種別に見ると,最も成功しているのがオンライン航空券販売のExpediaやHotels.comなどのオンライン旅行代理業だ。Expediaは今年第1四半期に,売り上げが前年同期比で倍増し,わずかながら純益を出すことにも成功した。株価もうなぎ上りの上昇を続けており,5月3日(金曜日)には84ドルをつけた。

 オンライン・ホテル代理業のHotels.comも,同期売上げが50%増と急成長を続けており,株価も60ドル台の高値を維持している。しかしExpediaのP/Eレシオ()が現在2772倍にも達していることから分かる通り,この業界はかつてのインターネット・バブルを再現しているかのような印象も与える。

【注】P/Eレシオ(株価収益率):一株当たりの株価(Price of Stock / Share)を,一株当たりの企業収益(Earning / Share)で割り算した値。「株価が企業の将来性を先取りしている」という仮定の下に,それが現在の企業収益に比して割高だとすれば,この企業は将来に渡って高成長を維持する必要がある。逆に言えば,売上げや収益が頭打ちの傾向を見せ始めると,バブルが弾けて株価が急落する恐れがある。

 現在の高成長路線はいずれ変更を迫られるだろうが,旅行代理店業が最もオンライン化に適していることは間違いないようだ。かつて倒産スレスレにまで追い込まれたPriceline.comも,経営陣を一新してコストの圧縮に力を入れ始めてから,見事に再生。今年第1四半期には再び,わずかながらの純益を上げることに成功した。

 同社ウエブ・サイトの月間利用者数(Unique Visitors)は,380万人に達した。アメリカンやデルタなど大手航空5社が中心になって始めた,オンライン・チケット販売のOrbitzも月間利用者数が330万人と,先発のPricelineに肉薄している。

 Pricelineは売上げが2億6190万ドルと,昨年同期よりもわずかながら減少したため,現在の株価は約4ドルと今一つぱっとしない。このためOrbitzを始めとした大手ライバル業者に買収される可能性もがある。

 一方,伝統的な航空業界が始めたオンライン事業Orbitzに対しては,独禁法の疑いでSEC(証券取引委員会)が調査を進めている。これらの結果としてオンライン旅行業界は再編成される可能性があるが,ビジネス事体の展望は非常に明るい。National Leisure Travel Monitor Surveyによれば,米国の旅行者全体の33%が,昨年オンラインで航空券を購入したことがある。これは2000年に比べて25%も増加しているという。

実在する「物品」を販売する企業は苦戦が続く

 オンライン旅行業界に次ぐ成功を納めているのが,オンライン証券・金融業だ。オンライン証券販売のCharles ShcwabやE*Tradeは,四半期毎の変動が激しいものの純益を維持している。不動産ローンのMortgageなど,金融サービスを提供するIndyMacが始めたオンライン事業も成功している。

 旅行業界や証券・金融業界のオンライン事業が成功しているのは,実在する「物品」ではなく,「サービス」や「情報」を商品として提供しているからだ。逆に言えば,在庫管理や配送など,「物」とのかかわりが深くなる業界ほど,Eコマースの導入にはてこずっている。つまりオンライン事業を成功させるには,この問題に対する,より一層の工夫が必要となるのだ。

 たとえばオンライン小売最大手Amazon.comの場合,昨年第4四半期にわずかながらも営業利益を出したが,その反動で今年第1四半期には再び赤字に転じた。同社は2002年通年でプラスのキャッシュ・フローを目標としており,コスト削減の努力を継続している。

 最大の鍵を握るのは,やはり商品の在庫・配送管理である。同社は7カ所あった商品管理センターを5ヶ所に集約し,同時に注文されることの多い商品類を,同じ商品センターに集めるなどして,過去2年間で在庫管理のコストを25%減らした。

 Amazonはまた,玩具販売のToys”R”UsやTargetなど,伝統的な大手小売業者と提携し,注文をオンラインで取った後,在庫・配送管理は伝統的業者に委託するという手法を多用し始めた。しかしAmazon自身による在庫管理のコスト削減は,限界に近づいているという説がある。また伝統的業者側にも「Amazonとの提携には旨味が少ない」との不満が囁かれており,先行きは甘くない。

 おそらく「物」との接点という点では,生鮮品を中心とする食料や日用雑貨を販売するスーパー・マーケット業(Grocery)が,最もオンライン化の難しい業種になるだろう。インターネット・ブームの最盛期には,WebvanやShoplink,HomeRunなど数多くのドットコム企業がOnline Groceryビジネスに挑戦したが,ことごとく失敗した。

 最近はむしろ店舗を持つ伝統的なスーパー・マーケットが,オンライン販売事業に進出するケースが目立つ。かつてのドットコム・スーパーでは,オンラインで注文を取った後,巨大配送センターから各地域の消費者に品物を配送していた。これだと在庫・配送コストが極めて高くついてしまい,最大の失敗要因となっていた。

伝統的なスーパー・マーケットのオンライン事業に注目

 伝統的なスーパー・マーケットが始めたオンライン事業では,巨大配送センターを設けない。その代わりに,各地域に分散した店舗のうち,注文主に最も近い店舗から商品を配送する。各店舗にはオンライン担当の店員がいて,彼らが店の棚から注文商品を集めて梱包・配送する。このサービス料金として消費者に請求する金額は,どこも10ドル位である。現在,全米スーパー・マーケットの顧客全体の1~3%位が,オンラインで買い物をしている。

 伝統的なスーパー・マーケットに向けて,こうしたオンライン販売用のソフト開発を受注しているのが,MyWebGrocer.comである。彼らが開発・提供するのは,商品やその価格を提示したり,各地域の消費者から注文を取った後,それを最も近い店舗に振り分けるソフトである。

 「注文商品が品切れになった時どう対応するか」,あるいは「生鮮品を始めとした食料品の品質をどう消費者に伝えるか」など,Online Groceryには課題が多い。しかし最も難しい業態だけに,これが成功すればオンライン小売業,ひいてはEコマース全体の一里塚となるだろう。

 またMyWebGrocer.comのように,店舗を構える伝統的業者にオンライン用のソフトやノウハウを提供するコンサルタント事業は,Amazonなど主力業者も力を入れ始めており,オンライン小売業界全体のトレンドとなりつつある。