人間同士が殺し合う戦争に,兵士を必要としないハイテク戦争マシンが徐々に浸透しつつある。アフガニスタンにおける対テロ戦争では,本来は無人偵察機(Unmanned Aerial Vehicle: UAV)として開発されたPredatorが,今年2月に初めて無人爆撃機として使用された。

 アフガンの山岳地帯を行く男性グループを発見したPredatorは,その映像をCIA(米中央情報局)のエージェントに電送した。数マイル離れた地上からPredatorを無線操縦していたエージェントは,その映像の中に「背の高いアラブ人男性」がいることに気付き,これをフロリダのCIA支部に連絡。そこからの命令を受けて,アフガンのCIAエージェントはPredatorにミサイル発射指令を出した。

 ミサイルは命中し,「背の高い男性」を含めた3人が死亡したが,結局彼はビンラディンではなかったことが分かった。またCIAは,この男性グループが「アルカイダの一味だった」と主張したが,この点もいまだに確認されていない。

 このミッションに対する批判は当然聞かれるし,本来偵察用に開発された無人機を,攻撃に転用することへの懸念も残されている。

 しかしPredatorそのものに対する軍関係者の評価は極めて高い。今回のアフガン戦争でも偵察用に多用され,現場の兵士達から「もっと作ってくれ」という要求が,引きも切らないという。やはり命を危険にさらす恐れが減るというのは,兵士達にとって抗しがたい魅力となるようだ。

40種以上の戦場用ロボットの開発が進む

 Predatorは元々,ペンタゴン(米国防総省)の予算で開発された。ペンタゴンはこれ以外にも,様々なハイテク戦争マシン(ロボットと呼んでもいいだろう)を開発中で,実用化に近づいている物もある。

 2001年9月11日に破壊された世界貿易センター・ビルの瓦礫の下から,被害者の遺体を収容するためにロボットが使われたが,あれもペンタゴンが戦場用に開発したTMR(Tactical Mobile Robots)と呼ばれるロボットである。このロボットは結局7人の遺体を収容したが,元々は戦場で負傷した兵士を救出するために開発された。

 これ以外にも,敵の陣地に放り投げて使う手榴弾型のスパイ・ロボットや,囮(オトリ)として敵の銃撃を引きつける人間型ロボットなど,40種類以上の戦場用ロボットの開発が進んでいる。

 こうしたロボット開発プログラムは,RMA(Revolution in Military Affairs)と総称される,ペンタゴンの兵力改革計画の一環をなしている。この計画では,戦車や大型爆撃機,トマホーク巡航ミサイルなど従来型兵器に代わり,PredatorやPrecision-guided missileなど,新たなハイテク兵器の開発に力点を移すことを主眼としている。

発注先は新興ハイテク企業が増え,部品も既成品の応用が進む

 また「ネジ一本が数百ドル」という非常識な受注価格がまかり通った軍需産業を改革するため,兵器を発注する業者を,従来のRaytheonやBoeingといった伝統的な軍需企業から,シリコン・バレーなどの新興ハイテク企業へと転換することも推奨している。

 一例としては陸軍が発注した「Land Warrior」と呼ばれる新通信システムの設計を,Raytheonに代わってPacific Consultantという新興企業が受注したケースがある。Pacific Consultantの提示した受注価格は,Raytheonのわずか4分の1だったという(ただ,RMA全体で見ると新旧の転換があまり進んでいないのが実情で,いまだに大型プロジェクトの多くは伝統的な軍需企業が受注している)。

 戦争ロボットを開発しているのも,その多くが新興ハイテク企業だ。シリコン・バレーの企業に加え,マサチューセッツ州ケンブリッジにあるDraper Laboratory,同じ地域にあってMITから分離独立したiRobotなども参加している。

 彼らはロボットの部品としてパソコンなどに使われる既成品を採用しているので,従来の兵器に比べて各段にコストを節約できる。たとえばiRobot社が開発中のPackBotと呼ばれる戦場汎用ロボットは,700MHzのPentiumIII,256バイトのDRAM,さらにUSBポートやビデオ・カードなど既製部品を採用している。

 これを含め,ペンタゴンは現在40種類以上の戦争ロボットの開発を民間企業や大学に委託しているが,そのための初期投資はわずか5000万ドルだ。年間3000億ドルを軽く超える国防費全体から見れば,雀の涙である。米国のIT業界が全体としてスランプから脱し切れない中,こうしたハイテク軍需企業の業績は好調で,IPO(Initial Public Offering:株式公開)の準備をしているところもある。

戦争はどう変わるのか

 それにしても将来,こうした無人戦闘機やロボットが多用され始めたら,戦争はどう変るのだろうか。

 兵士が民間人を攻撃することは,現在の戦争では原則として禁じられている。従ってロボットが攻撃するとすれば敵方の兵力ということになるが,その敵もロボットを使ったとしたら,ロボット同士の戦いになる可能性すらある。

 血の流れない戦争は,もはやゲームあるいはシミュレーションに近くなる。もしかしたら,実際に戦闘を開始する前に,お互いの兵力を分析して勝負がついてしまう,ということさえ起きるかもしれない。

 一方,民間人を無差別に攻撃するテロへの対策として,テクノロジはどこまで力を発揮するのだろうか。この点については,複数の政府機関にまたがって個人情報を一元管理可能とするシステムの是非を巡る「National ID論争」が米国内で巻き起こったことが記憶に新しい(関連記事)。

 テクノロジが,人間同士が血を流しあう戦争を抑止する――というのはあまりにも甘い期待ではあろう。冒頭で示したアフガンでのPredatorを使った軍事行動やNation IDに対してそうであったように,テクノロジに依存することへの批判や懸念も多い。そしてもちろん,テクノロジは戦争という極めて複雑な問題のほんの一面でしかない。だが少なくとも,多くの人々がテクノロジと戦争の関係について注意深くウオッチし,考え,主張を述べることは重要なことだと思う。