昨年まで急激な価格破壊が進んだパソコンだが,ここに来て上昇に転じようとしている。IT業界の“トレンド・セッター”,Apple Computerが新型iMacを全機種に渡って約100ドル値上げすると発表したのに続き,NEC,富士通,さらには日本IBMも値上げに踏み切る見込みだ。

 直接の理由は,メモリーと液晶パネル・ディスプレイの値上がりである。今年に入ってメモリーの価格は約3倍にはね上がり,液晶パネルの価格も25%上昇した。根本の理由を突き詰めて行くときりが無くなるが,メモリー価格が急上昇した主な要因は,富士通や東芝などの巨大メーカー,さらには台湾の中小メーカーらがメモリー市場から撤退したことである。

「ノートPCの価格は年末までに15%以上の上昇」,との予測も

 パソコン価格が本格的な上昇トレンドに乗るかどうかは,“安売り王”Dell Computerの出方にかかっている。同社は今のところ,主力商品の部品を一段と安い物に入替えることによって,システム価格の上昇を抑え込んでいるが,事実上は既に値上げ路線に入ったと見られている。

 Dellはオンライン通販によるジャスト・イン・タイム方式で在庫を抱えないから,部品価格の上昇が最も早くパソコンの製造コストに反映される。同社の値上げ傾向がはっきりすれば,CompaqやGateway,HPなど他の米国メーカーも値上げしやすくなる。

 またCompaqとHPの合併が仮に成立すれば,競合他社が少なくなって,これも市場全体の価格底上げをうながすだろう。それやこれやの要因から,調査会社Gartner Groupでは,今年末までにパソコン価格は最低10%上昇し,なかでもノートPCは15%以上も上昇すると予想する。

長期的には中国への製造ラインのシフトに注目

 それでは長らく続いたパソコンの価格破壊が完全に終り,これから長期的な上昇トレンドに乗るかというと,そんなことはあるまい。

 まずメモリーの価格は今後とも不安定に変動することは間違いなく,いつ値崩れしてもおかしくない。また日本のパソコン・メーカーが値上げに踏み切った主な理由は,円安によって台湾での部品調達や組み立てコストが上昇したことである。為替も不安定に変動するから,この点から見てもパソコン価格の先は読めない。

 さらに,もっと長期的に見た場合,パソコン価格はやはり下降すると見てよいのではなかろうか。現在,日米のパソコンは事実上,台湾で製造されている。たとえばGatewayやCompaqなど米国ブランドのパソコンのほとんどは,台湾のQuanta社が製造している。

 そのQuantaは現在,製造ラインを中国にシフトしており,2003年までには製品全体の3分の2を中国で製造する予定だ。他の台湾メーカーも,後を追うのは間違いない。設備や人件費が猛烈に安い中国での製造が進めば,パソコンのもう一段の価格破壊さえ有り得るだろう。