SiliconValley.comに最近掲載された記事によれば,ITバブル崩壊後のシリコン・バレーでは長期失業者があふれている。失業期間が半年以上に達した人の数は,昨年に比べて70%も増加している,という。

 米国全体の失業率は,現在5.5%で若干改善の兆しが見られる。米国の歴史上,この数字は決して悪いものではないが,バブル最盛時にはほぼ完全雇用に近づいたため,その揺り戻しもまた激しいのである。

 統計の取り方が違うから本当は単純に比較できないのだが,米国の5.5%という数字は,現在の日本の失業率とほぼ同じである。日本の就業モデルは今後,確実に米国型に近づくだろう。

 そこでは労働者が,自らの「スキル」あるいは「実力」を頼みにして,会社や組織を渡り歩いて行く。「同じ会社に定年まで籍を置いて,出世階段を一歩一歩上って行く」という形態から,「給与や待遇など,良いオファーがあれば,どんどん会社をかわる」という形態になる。「実力型社会」の到来である。

6カ月経つと時代遅れの“スキル”を“実力”と言ってよいのか

 よく「実力さえあれば,どんな会社に行っても大丈夫」とか「実力さえあれば,いつかは認めてもらえる」とか言われる。だが,この「実力」という概念は非常に曖昧である。

 SiliconValley.comに掲載された記事によれば,解雇されたIT労働者は「失業期間が6カ月以上になると,前の職場で養ったスキルが時代遅れになっている」という。その悩みはよく分かる。だが残念ながら,6カ月で時代遅れになるようなスキルは,「どこに行っても,何を任されても大丈夫」という「実力」とは呼べない。

 “大量生産”されるIT技術者の多くは,極めて限定的な知識を持っているに過ぎない。コンピュータや通信,集積回路の原理から基本ソフト,さらにアプリケーションまで,情報技術全般を網羅する,広範で深い知識を有する技術者は,全体のほんの数%に過ぎないだろう。

 それ以外の人は,ある種のアプリケーション・ソフトやプログラム言語の使い方を習得しただけの「にわか技術者」である。これは,すぐに「使い捨て」になる。しかし厳しい世の中では,そういう「使い捨て」になるスキルに専念しない限り,そもそも「職」がないのである。

 はっきり言って,いつでもどこの会社でも通用する「スキル」など,そもそも存在しないのだ。逆に言うと,最初からその程度の物なのだから,採用する会社も志願する労働者も,使い捨てのITスキルなどあまり気にしない方がいい。

 むしろ新しい職場の環境に早く適応して,自分が何を要求されているかを素早く感じ取る,そういう心構えや感受性の方が,実はよほど重要である。それに加えて,情報技術全般を網羅する広範で深い知識を兼ね備えていること,それこそが本当の「実力」なのだと思う。