米国の光ファイバ通信業者,Global Crossingに対し,SEC(証券取引委員会)とFBI(連邦捜査局)が,粉飾決算の疑いで捜査に入った。Global Crossingは先月末にChapter 11(米連邦破産法11条)を申請し,経営再建に踏み出したばかりだ。しかし解雇された元社員の内部告発で,売上げを水増し申告していた疑いが強まっていた。

 こうした場合にSECが捜査することは珍しくないが,FBIが介入するのは異例の事態である。FBIは通常,犯罪が立件されるまで捜査に入ったことを公表しないが,New York TimesやWashington Postなどの主要紙が断定的に報道していることから見て,FBIの介入は間違いない。事態の深刻さがうかがえる。

Enron,K-Mart・・・,巨大企業の“突然死”が相次ぐ

 つい最近まで順調な経営を維持していた(と傍目には見えた)米国の巨大企業が,「突然死」する事態が相次いでいる。エネルギーなどのオンライン取引業者Enron,米国を代表するディスカウント小売業者K-Mart,そして今回のGlobal Crossingである。
 いずれも2000年に株価が最高値,あるいはそれに近い値を付けていたのに,2001年の後半から急速に経営が悪化し,株価が1ドルを切って証券市場の売買リストから外された。経営悪化の端緒はバブル崩壊だが,トドメを刺したのは,粉飾決算が明るみに出て市場の信用を失ったことである。

 ダウ工業平均やNASDAQが上昇しかけては下落を繰り返す,いわば「微熱状態の長期疾患」に陥ったのは,個人投資家の信用をすっかり失ってしまったからだ。EnronやGlobal Crossingのように,陰でコソコソ何をやってるのか分からない企業ばかりでは,腰を据えて株を買う気になれないのは当然である。これからも大企業の突然死が続く恐れが残っているのだ。

理想に燃えて出発した企業がバブル企業に堕していく

 1997年に設立されたGlobal Crossingは欧米からアジアまで,全長2万4000マイル(3万8000キロ)の光ファイバ網を敷設して,超高速の通信網を世界に張り巡らすことを目指していた。

 これは「エネルギーのオンライン先物取引」という未踏の事業に挑戦したEnronにも共通することだが,いずれも素晴らしい理想に燃えて出発したのに,ある時点から金儲けしか頭にないバブル企業に堕してしまった。人材の移動が激しい米国では,ある時期を境にして,以前の会社がまるっきり別の会社になってしまうことがあるのだ。

 たとえば天然ガスのパイプライン会社が合併して生まれたEnronだが,設立当時の倫理観に満ちた優秀な社員達は,経営がおかしな方向に走り始めると,次々と会社を去って行った。彼らに代わって入って来たのは,豊かな大企業の財布にタカることしか念頭に無い社員ばかりである。

 「類は類を呼ぶ」の諺通り,経営が崩壊する直前のEnron上層部は,そういう人達ばかりになってしまった。彼らは持ち株を高値で売り抜け,数億ドルの資産を手に入れて,大邸宅や牧場を買っている。

 米国のテレビ局が彼らを追いかけるが,テレビ・カメラの前でもEnronの重役達は臆したりしない。日本人だったら顔を隠したり,カメラを追い払ったりするものだが,彼らは「合法的に手に入れた金だから,(401Kで年金をすっかり失った平社員達に)返還するつもりは毛頭ない」と堂々とコメントしている。ものすごいズブとさである。ちなみにEnronは日本にも進出しているが,そこの重役達の豪遊ぶりは赤坂の高級料亭でも有名だった,という話である。

レーガン政権以来の「野放し型経済モデル」が破綻

 インターネットに端を発した,90年代米国の経済ブームは,レーガン政権時代に始まった規制緩和の延長線上にある。政府の介入を極力少なくして,企業の自主性に任せ,伸び伸びと経営させる。そこに新しいビジネスの芽が次々と生まれ,史上空前のブームへと結びついたのだ。

 しかし21世紀に入ると,「野放し型の経済モデル」に綻び(ほころび)が目立ち始めた。相次ぐ粉飾決算や企業の不祥事は,行き過ぎた米国型ビジネスの欠陥を露呈しており,その点で米国民全体の自信を揺るがす深刻な事件となっている。FBIがGlobal Crossingの捜査に乗り出した背景には,こうした事情があるのだ。緩んだタガを再度引き締めることができるかどうかは,予断を許さない。