オンライン小売業の草分け,米Amazon.comが四半期ベースで初の純益を計上したことは,勢いをなくしたE-ビジネス業界の中で,久しぶりに明るいニュースとなった。インターネット小売業が成立し得ることを裏付ける材料,として好感されたのだ。特にPro-formaではなく,GAAPに従って500万ドルの純益を上げたことに,業界アナリストたちは驚きを隠せなかった。


GAAP:Generally Accepted Accounting Principles。最も一般的に採用される会計原則
Pro-forma:ここ数年の米国企業の決算報告に頻繁に登場する用語。一般的な会計原則とは違う「条件」や「仮定」を導入することによって算出した,様々な決算数字を意味する。たとえば一時的な買収費用や巨額の減価償却費を除外して算出された,いわゆるpro-forma incomeは,GAAPに従って厳格に算出されたincomeより,よく見えるのが当然である。「粉飾決算」とまではいかないが,「実情を歪めて伝える方法」として批判する声も強い。

 2000年にITバブルがはじけて以来,Amazonに対する評価は急降下した。中でもLehman Brothersの債権アナリストRavi Suriaが,「Amazonの運営資金が2001年第1四半期の終りまでに枯渇する」という詳細なレポートを発表して以来,同社の経営危機説さえ流れた。結局,そういう事態には至らなかったが,それでも最近まで同社の経営状況には非常に厳しい目が向けられていたのだ。

 こうした中での黒字達成だけに,「Amazonのビジネス,ひいてはEコマース全体の将来を保証する快挙」と評価する声が多数聞かれる。

 しかし,その一方で「今回の黒字達成は一時的,部分的な成功に過ぎない」という慎重論も根強く残っている。たとえばABN AMROやWR HambrechtなどがAmazon株の格付けを上げる一方で,Lehman BrothersやMerrill Lynchは,その格付けを据え置いている。みんなが手放しで評価している,という状況ではないのだ。

「極端な安売り戦略」で収支が改善したが・・・

 Amazonの収支状況が大幅に改善したのは,「極端な安売り戦略」の成果である。2001年の第3四半期に,主力商品である書籍やCDの売上げが減少に転じたAmazonは,これらの商品を平均で20~30%も値引きした。このディスカウント率はAmazonが営業を開始したころの数字に近い。

 同社はバブル崩壊後,書籍やCDの価格を徐々に上げて,2001年に入るころにはディスカウント率を10%程度にしていた。しかし,この事実上の値上げによって売上げが落ち込んだことを悟ると,すぐさま昔の値引き率に戻したのである。主力商品の値下げによって売上げは急速に回復し,2001年第4四半期には11億2000万ドルという史上最高額を記録した。

 もちろん黒字化達成の背景には,「在庫回転率の向上」や「1300人の従業員解雇」などによる業務体質の改善もあるのだが,やはり最大の要因は「大幅ディスカウント」にある,と見られている。この点は,CEOのJeff Bazos自身も「我々は値下げによって事業を成功させる道を選んだ」というコメントによって,事実上認めている。

 しかし「ディスカウントに頼るビジネスは,必ず茨(イバラ)の道をたどる」というのが小売業界の常識である。こう書くと結果論に聞こえるかもしれないが,Amazonの主力商品である書籍やCDは,本来,大幅な値下げが可能な商品なのである。

 逆に,同社が今後力を注いで行こうとしている,エレクトロニクスなど高付加価値商品の多くは,意外なまでに利益マージンが少ない。「平均20~30%の大幅ディスカウント」は絶対不可能だから,書籍・CDの安売りによる成功を,他の商品にまで拡大できる公算は低いのだ。

株価維持のためには「高成長路線」を取らざるをえない

 それなら「コア商品である書籍などにビジネスを限定して,とりあえず黒字態勢を固めればよいではないか」という見方もある。しかしドットコム企業の体質を引きずるAmazonにとって,それはできない相談なのだ。

 Amazonの株価は,現在13ドル前後をウロウロしているが,大分下がったとは言え,実は同社の現在の売上げに比較すれば,まだまだ高過ぎるのである。この株価を少なくとも維持するためには,Amazonは引き続き「高成長路線」を取らざるを得ないのだ。それはすなわち業務の拡大を意味する。

 Jeff Bazosは「GAAPベースでの純益は幸運の賜物」と認め,「今期からは,それを目標とすることはない」と断っている。むしろ2002年は「通年のキャッシュ・フローをプラスに転ずる」ことを目指すという。GAAPベースの厳格な会計処理を適用するまでの中間ステップという位置付けだが,そこに到達するための具体策はいまだ見えていない。