今年は約13万人の来場者を集め,COMDEXをしのぐ活況を呈したCES(Consumer Electronics Show)で,最も大きな注目を集めたのは,Moxi Media Center(MC)とマイクロソフトのFreestyleだった。ともに,様々な情報家電商品を操作するための,いわばハブの役割を果たす商品である。
Moxi MCは「超多機能のセットトップ・ボックス」
Moxi MCを一言で表現すると,「超多機能のセットトップ・ボックス」だ。従来のVTRに似たきょう体の中に,DVR(Digital Video Recorder),DVDプレイヤー,デジタル・ジュークボックス,Webブラウザ,Eメール,さらにインスタント・メッセージ(IM)まで,ありとあらゆる機能が詰め込まれている。従来のテレビ/ビデオ系の機能とパソコン系の機能が,統合されているのも特徴の一つだ。基本ソフトにはLinuxを採用。ディスプレイには従来のテレビ受像機が使われる。
Moxi MCは,「Rearden Steel」という名前の新興企業が開発したもので,同社は今回の発表に合わせて社名を「Moxi Digital」に変更した。同社はMoxi MCの技術をライセンス供与するだけで,商品製造は行わない。実際に商品を提供するのは,ケーブルTV会社やDBS(衛星放送)業者だ。既に全米最大のDBS業者,EchoStarが次世代の放送サービスにMoxi MCを組み入れることを決めている。
EchoStarは現在,約600万人の契約視聴者を抱えているが,業界2位のDirecTVの買収が規制当局から認可されれば,一挙に1000万人に膨れ上がる(ただし認可は難しいと言われている)。いずれにしても,ここが採用を決めたことは,Moxi MCには強い追い風となっている。
1999年に設立されたMoxi Digital(Rearden Steel)は,以前からシリコン・バレーではかなりの話題となっていた。創業者のSteve Perlmanは,かつて数人の仲間と共に,テレビでウエブを閲覧するための装置であるWebTVを開発し,これを5億ドルでマイクロソフトに売却したことによって一躍有名になった。WebTVは結局全然売れず,大金をはたいたマイクロソフトが損をし,高値で売り抜けたPerlmanはやがて始まるインターネット・ブームのポスター・ボーイになった。
「まとまりのなさ」と価格がネック
冒頭の記述からお分かりの通り,今回のMoxi MCは,意地の悪い見方をすれば,「WebTVの基本コンセプトを拡張し,そこにDVRやDVDプレイヤーなど新たな機能を追加したもの」に過ぎない。ありとあらゆる機能をやみ雲に詰めこむというアイディアには,優雅さのかけらもない。WebTVの当時と現在とで何が違うかというと,それは当時に比べて,こうした商品が受け入れやすい環境が整ってきた,という点だ。
たとえばブロードバンドの普及が遅れているとはいえ,現在では既に全米家庭の10%近くには行きわたった。また人々の間でも,家電商品と情報機器の一体化に対する受容度が高まっている。こうした新たな環境下で,基本的には同じ趣向の商品を若干衣替えして,もう1回試してみよう,と送り出したのがMoxi MCである。
これを売るために,ケーブルTVやDBS業者と提携するという道を選んだのは,非常に賢明な戦略である。しかし商品事体があまりにも「まとまりがない」上,恐らく相当高価な物になるのは間違いない。大きな期待を集めてはいるものの,今回も成功は難しいと筆者は見ている。
FreestyleはXPの拡張機能,普及の可能性は高い
Moxi MCに対抗した,というわけでもあるまいが,マイクロソフトのFreestyleも似たようなアイデアである。といっても,こちらはハードウエアではなく,パソコンに情報家電の操作機能を持たせるために開発された,Windows XPの拡張機能である。
Windows XPは無断コピーの防止機能を装備したこともあり,過去最高の販売個数を記録するのは間違いない。またFreestyle機能が追加されたからといって,XPの価格が極端に高くなることはあるまい。パソコンでどんな家電商品を操作するか,その選択は消費者に任されている。
こうした点から見て,Freestyleは今のところ,Moxi MCよりもずっと成功する確率が高い。マイクロソフトだけでなく,アップルやインテルなど他の主要なIT業者も軒並み,テレビの情報機器化を目指した商品開発を進めている。成功するしないに関わらず,これが業界最大のトレンドとなっている。