エンターキナー,韓 芝馨

 自動車などの移動体にリアルタイムで情報を提供する「テレマティックス・サービス」(用語解説)が韓国で注目を集めている。

 韓国のテレマティックス市場の特徴は「携帯電話会社がサービスを提供していること」。他の国では主に自動車メーカーがテレマティックス・サービスを提供しているのに対して,韓国では自動車メーカーだけではなく携帯電話会社も提供している。そして,携帯電話会社が提供するサービスのほうが人気が高く,市場をリードしている。携帯電話会社のサービスでは,同サービスに対応した携帯電話機(以下,「対応電話機」とする)を利用できるからだ。今回は,携帯電話会社がけん引する韓国のテレマティックス市場を解説する。

自動車メーカーと携帯電話会社が市場参入

 韓国で最初のテレマティックス・サービスが開始されたのは2002年4月のこと。最初にサービスを提供したのは自動車メーカーではなく,携帯電話会社のSKテレコムだった。その後,2003年9月に現代(ヒョンデ)・起亜(キア)自動車が「Mozen」というテレマティックス・サービスを開始した。

 現在,韓国で提供されている主要なテレマティックス・サービスは表1の通りである。表1にあるように,韓国のテレマティックス市場は,自動車メーカー中心の「Before Market」と携帯電話会社中心の「After Market」に二分されている。

表1 韓国の主要なテレマティックス・サービス
 Before MarketAfter Market
サービス提供会社現代(ヒョンデ)・起亜(キア)自動車ルノー三星自動車サンヨン自動車SKテレコムKTFLGテレコム
サービス名MozenINS-300Ever WayNate DriveK-WaysEZ Drive
使用する携帯電話網KTF(2005年5月まではLGテレコム)SKテレコムKTFSKテレコムKTFLGテレコム
サービス開始時期2003年9月2003年10月2005年2月2002年4月2004年5月2004年9月
加入者数3万-(実験サービス)-(実験サービス)30万2万20005000
加入費4万ウオンなし3万ウオンなしなしなし
基本料金(月額。通信量は含まない)2万8000ウオン/1万8000ウオン2万ウオン(Premium)/9000ウオン(Regular)/9000ウオン(Leisure)月額2万6000ウオン(データ500KバイトおよびSMS120件分の通信料を含む)1万8000ウオン(Premium)/9000ウオン(Regular)/6000ウオン(Save)9000ウオン/5000ウオン6000ウオン

SKテレコムの「Nate Drive」が大人気

図1 「Nate Drive」の利用方法
Nate Drive対応携帯電話だけではなく,周辺機器も設置する必要がある。携帯電話は「クレードル」に固定する。上図が「分離型」で,下図が「コンパクト型」。分離型のほうが場所を取らず,費用もかからない。
図2 「Nate Drive」のルート案内を利用した場合の画面例
対応携帯電話機の画面に,矢印や地図で最適ルートを表示する。

 注目を集めているテレマティックス・サービスではあるが,ほとんどのサービスでは加入者が伸び悩んでいる。その中で,SKテレコムの「Nate Drive」が人気を独占している。表1にあるように,4月末までに加入者を30万人集め,テレマティックス・サービスがビジネスになることを証明している。

 しかも,加入者数は年々増加傾向にある。加入者数が10万人に達したのは,サービス開始から2年後の2004年4月だった。ところが,2004年11月には20万人を突破。そして,2005年5月には30万人になった。加入者が10万人増加するのに必要な期間が短くなっている。SKテレコムでは,2005年末までに50万人の加入者を集められるだろうとしている。

 Nate Driveは対応携帯電話機だけでも利用できるが,ルノー三星自動車の純正カーナビと対応携帯電話機を接続して利用することもできる。SKテレコムとルノー三星自動車は2002年4月,テレマティックス・サービスの推進について提携を結んでいる。

 カーナビ装置を使わずに対応携帯電話機だけでNate Driveを利用する場合でも,周辺機器は必要になる。具体的には,「GPSアンテナ」「ハンズフリー・マイク」「専用クレードル」「Navigation Box(ナビキット)」――を車内に設置する必要がある(このタイプを,ここでは「分離型」と呼ぶ。図1上[拡大表示])。

 Navigation Boxは,音声でナビゲーションする装置。センサーが組み込まれており,GPSの受信状態が悪い場合には,自動車の位置を自動的に補正する。これらの周辺機器にかかる費用はおよそ20万ウオン。これらに加えて,当然対応電話機も必要である。

 2004年6月から販売されている「コンパクト型」(図1下[拡大表示])では,周辺機器にかかる費用は10万ウオン程度で済む。また,設置場所をそれほど取らず,容易に設置できる。

 Nate Driveでよく利用されるサービスの一つは,目的地までのルート案内,いわゆるカー・ナビゲーションである。ルート案内サービスを利用しているときの携帯電話の画面例を図2[拡大表示]に示す。ユーザーがマイクへ向かって目的地を告げる(あるいは,目的地を携帯電話に直接入力する)と,クレードルに固定した携帯電話の画面には,混雑状況などを考慮した最適ルートが矢印や地図で表示される。

 Nate Driveは,対応携帯電話を購入したSKテレコム・ユーザーだけが利用できるサービスである。表1に書いたように,Nate Driveを利用する際に加入費を払う必要はない。基本料金は,すべてのサービスを制限なく利用できる「Premiumサービス」が月額1万8000ウオン。利用回数などに制限のある「Regularサービス」および「Saveサービス」が,それぞれ月額9000ウオンおよび月額6000ウオン。なお,Nate Driveの料金には,通話料やデータ通信料は含まれない。