エンターキナー,韓 芝馨

 韓国では,高速のインターネット・アクセスだけを提供するブロードバンド・サービス市場は飽和している。そこで有線通信事業者は,複数のサービスを組み合わせた「バンドル・サービス」を2004年から提供し始めた。例えば,「固定電話+携帯電話」や「ブロードバンド・サービス+衛星放送」,「ブロードバンド・サービス+IP電話」といったバンドル・サービスが提供されている。複数のサービスを比較的低料金で提供するバンドル・サービスにより,差異化を図って活路を見出そうとしている。

 それだけではない。バンドル・サービスは,次世代ネットワーク「BcN(ブロードバンド統合網:broadband convergence network)」で提供するサービスの布石でもある。しかしながら,現在までのところ,ユーザーの反応は今ひとつ。本稿では,韓国におけるバンドル・サービスの現状を解説する。

成長止まる有線通信市場,「バンドル・サービス」に期待

 2004年,韓国の有線通信市場は,固定電話とブロードバンド・サービスの両方で低迷した。特に固定電話市場のおいては,事業者間の競争が激しくなった。市内電話に番号ポータビリティが導入されたためだ。ユーザーは事業者を容易に変更できるようになった。

 番号ポータビリティは,2003年7月に,まずは市外電話にだけ導入された。その後,2004年6月に,市内電話にも適用されるようになった。これにより,KT(Korean Telecom)の“市内電話占有率”が低下した。具体的には,2003年末は95.6%だった占有率が,2004年末には93.9%に低下した。番号ポータビリティにより,別会社へ乗り換えるユーザーが増えたのだ。

 ブロードバンド・サービス市場も低迷している。2004年の1年間で70万人が新規加入したものの,それ以上のユーザーがサービスを止めているため,全体では減少している。2004年末時点のブロードバンド・ユーザーは1188万人。これに対して,2003年末時点のブロードバンド・ユーザーは1195万人だったので,7万人減っている。

 また,70万人の新規加入者のほとんどは,KTあるいはCATV事業者のユーザーになった。KTのブロードバンド・サービス加入者は48万人増えて,600万人を超えた。CATVの加入者は22万人増加して83万人になった。固定電話ではシェアを減らしているKTだが,ブロードバンド・サービスでは健闘しているようだ。

 とはいえ,市場全体でみれば,固定電話およびブロードバンド・サービス市場の成長が鈍化していることは確かだ。いずれの市場も,もう飽和状態なのだ。今後,有線通信事業者が成長するには,競合他社のユーザーを引き抜くほかなくなってきている。

 そのために不可欠なのが,魅力的な独自サービスである。各社が考えたのは,複数のサービスを組み合わせて“お得な”料金で提供するバンドル・サービスだった。2004年,表1にあるように,各社は次々とバンドル・サービスを開始した。

表1●2004年開始された有線通信事業者のバンドル・サービス
事業者サービス名(内容)開始日
KTブロードバンド・サービス+衛星放送2004年4月
One Phone(固定電話+携帯電話)2004年6月
All Up Prime(ブロードバンド・サービス+IP電話)2004年11月
Home and Sky(衛星放送+ホーム・ネットワーク*12004年12月
Hanaroテレコムブロードバンド・サービス+衛星放送2004年6月
Hanafos All in One (ブロードバンド・サービス+IP電話+CATV)2004年8月(2005年には全国サービスを開始)
DacomTPS*2試験サービス2004年12月
*1 ホーム・ネットワークとは,KTが2004年3月開始したサービス。各家庭に設置した「ホーム・ゲートウエイ」とブロードバンド網を接続して,VoD(ビデオ・オン・デマンド)などを提供する
*2 TPSとは「トリプル・プレイ・サービス」の略で,(1)ブロードバンド・サービス,(2)IP電話,(3)CATV――以上3種類をバンドルしたサービスのこと


ユーザーは興味を示さず,“2004年の代表的な失敗作”に

 他社との差異化のために,有線通信事業者が始めたバンドル・サービス。ところが,各社の思惑とは異なり,ユーザーの関心を集めることはできなかった。

 例えば,KTが2004年4月に開始した,ブロードバンド・サービスと衛星放送のバンドル・サービスの加入者は,12月末時点で1万2000人に過ぎない。有線電話と携帯電話のバンドル・サービスである「One Phone」の加入者は,11月末時点で1万人程度だった。

 また,ブロードバンド・サービスとIP電話のバンドル・サービス「All Up Prime」,衛星放送とホーム・ネットワークのバンドル・サービス「Home and Sky」の加入者は,いずれもサービス開始から間もないこともあり,現時点ではゼロである。Hanaroテレコムが8月から開始した「ブロードバンド・サービス+IP電話+CATV」の“トリプル・プレイ・サービス(TPS)”である「Hanafos All in One」の加入者は12月時点で6000人だった(ただし,現在ではサービス対象地域は限定されている。全国的にサービスを開始するのは2005年初頭を予定している)。

 いずれも予想を大きく下回っている。なかでもKTのOne Phoneは,最も期待されていたこともあって,“2004年の代表的な失敗作”と酷評されることが多い。One Phoneは,Bluetooth機能を組み込んだ端末を使って,屋内ではPSTN網を通じて有線電話やデータ通信を利用でき,屋外では移動体通信網を通じて携帯電話やデータ通信を利用できるサービスである。One Phoneは,有線と無線を統合した初めての本格的なサービスだった。このため,大きな期待が寄せられた。

 ところが,バンドル・サービスの特徴である“割引サービス”を提供することがほとんどできなかった。というのも,韓国の情報通信部(日本の総務省にあたる)が,One Phoneの料金割引に認可を与えなかったためだ。この理由としては,SKテレコムなどの移動体通信事業者が強く反発したためだと伝えられている。