エンターキナー,韓 芝馨

 前回書いたように,韓国では有料の音楽配信サービスが注目され,いろいろな業界がその可能性に期待している。だが,ターゲットはPCユーザーではなく携帯電話ユーザーである。

 PCユーザーの多くは,音楽をダウンロードして聴くことに慣れている。だが,彼らがお金を払ってまで聴くかというと,疑問である。韓国最大のオンライン音楽配信サイト「Bugs」が2004年12月から有料化すると発表したのは,前回書いた通りである。だからといって,今まで無料で音楽サービスを利用していたPCユーザーが,そのまま有料サービスに加入すると考えている人はほとんどいない。

 実際,その通りだった。有料化を発表した2004年7月以降,1日に400万人のアクセスを誇っていたBugsのサイトは,日を追うごとにアクセス数が減少。11月には108万人まで落ち込んだ。その影響だろうか。Bugsは有料化の開始日を12月1日から2005年1月に延期した。

 一方,P2Pソフト「Soribada」を提供するサイトへの訪問者数は急増した。それまで1日平均6~7万人程度だったものが,8月には459万人に急増。その後,若干落ち着いて,最近では240~280万人ぐらいの訪問者数を維持している。

 たとえSoribabaのサイトが閉鎖されても,同じことが繰り返されるだけだろう。PCユーザーが有料サービスへ移行する見込みは薄い。Soribaba以外の,違法の無料音楽サービス・サイトへ移行するだけだ。BugsやSoribadaのユーザーは,有料サービスに加入する代わりに,他の無料サービスを探し出して利用する可能性が高い。

 有料の音楽配信サービスが期待を集めているのは,移動体通信事業者が携帯電話ユーザーを対象にした新しいビジネス・モデルを提示したからである。そこで本稿では,「どのようなビジネス・モデルを提示したのか」「どういったサービスを提供し始めたのか」――などを解説し,韓国の移動体通信事業者が提供する音楽配信サービスの現状を紹介したい。

オンデマンド配信よりもMP3対応が人気

 LGテレコムが2004年3月に発売したMP3対応携帯電話「LP3000(LG電子)」は人気を集め,好調に売れた。これをきっかけに,移動体通信事業者は音楽配信サービスに本腰を入れ始めた。音楽配信サービスがビジネスになりそうな予感を抱いたようだ。

 当時,SKテレコムとKTFは,それぞれCDMA2000 1x EV-DO(以下,「EV-DO」)を使ったサービス「June」と「Fimm」において,MODサービスを提供していた。MODとは,「Music On Demand」の略。好きな曲を携帯電話で聴けるサービスである。MODには,そのときだけ聴ける「ストリーミング」と,携帯電話に保存して何度でも聴ける「ダウンロード」がある。

 一方,LGテレコムは,CDMA2000 1xからCDMA2000 1x EV-DV(以下,「EV-DV」とする)への移行を計画しているところだったので,MODサービスは提供していなかった。

 SKテレコムとKTFのMODサービス対応携帯電話と,LGテレコムのMP3対応携帯電話。いずれでも音楽は聴ける。だが,音楽データの入手方法が異なっていた。前述のように,SKテレコムのJuneあるいはKTFのFimmのMODサービスに対応した携帯電話で音楽を聴くには,その携帯電話で音楽データを直接ダウンロードする必要がある。この場合,700~800ウオンの「情報料」以外に,約3000ウオンの通信料がかかる。

 一方,MP3対応携帯電話では,自分のPCに保存してあるMP3ファイルを,USBケーブルを使って携帯電話に取り込むことができる。MP3ファイル(音楽データ)の入手元は問わない。音楽CDから作成したMP3ファイルでも,Soribadaなどで入手したMP3ファイルでも同じように聴ける。MODサービスとは異なり,情報料や通信料を払う必要はない。

 LP3000は,販売開始から1カ月間に7万台が売れた。LGテレコムでは,過去1年間,1カ月に5万台以上販売された機種が1台もなかったことを考えると,人気が高かったことが分かるだろう。

SKテレコムやKTFもMP3対応へ

 SKテレコムやKTFとしては,EV-DOのJuneあるいはFimmの主要サービスの一つとして期待していたMODが,MP3対応携帯電話の後塵を拝する格好になった。さぞかしおもしろくなかったことだろう。だが,JuneやFimmのユーザーはMODサービスにはあまり興味を示さなかった。一方で,MP3対応携帯電話に対するユーザーの関心は高まるばかりであった。

 2004年1月から番号ポータビリティが開始されて電話会社を乗り換えやすくなったこともあり,SKテレコムとKTFは危機感を強めたことだろう。「このまま手をこまねいていると,MP3対応携帯電話欲しさに,ユーザーはLGテレコムに移ってしまう」と。結局,SKテレコムとKTFも,2004年4月末からSamsung電子のMP3対応携帯電話「SCH-V410」および「SPH-V4300」の販売を開始した。