エンターキナー,韓 芝馨

 「1カ月に500円程度支払えば,好きな音楽をPCや携帯電話,MP3プレーヤにダウンロードして聴ける」――。そんな有料の音楽配信サービスが始まったら,あなたは利用するだろうか。2004年11月,韓国SKテレコムは実際にそのようなサービスを開始した。

 同社に限らず,いくつかの企業が有料の音楽配信サービスを始めている。また,同サービスに期待している企業は多い。というのも,韓国ではブロードバンドが普及して以来,音楽を無料で聴けることが“当たり前”になっているからだ。無料で音楽を聴いているインターネット・ユーザーを有料サービスへ移行させることができれば,今までにはなかった大きな市場が形成される。その市場を狙って,さまざまな業種の企業が動き始めている。

 そこで本稿では,2回にわたって,韓国の有料音楽配信サービスの現状を解説するとともに,今後の展開を予想してみたい。

インターネットが音楽産業に大打撃

 韓国ほどインターネットが音楽産業に大きな影響を与えた国はないだろう。ブロードバンド・サービスが本格的に普及し始めた2000年当時,音楽CDといったオフラインの音楽市場の売り上げは4104億ウオンだった(表1)。それが,2003年には半分以下の1850億ウオンに落ち込んだ。2004年には1000億ウオン程度になる見通しだ。

 それに比べて,P2Pソフトなどを使って違法にやり取りされる音楽を金額に換算すると,2000年は1558億ウオンだったものが,2003年には5265億ウオンに急増したと推算されている。

 レコード会社やアーティストなどは,毎年小さくなる音楽市場のために苦い思いをしていると伝えられる。音楽CDの販売で収益を上げることが年々難しくなっているのである。

 ただし,売り上げを伸ばしている市場もある。着信メロディなどの携帯電話(モバイル端末)向けの音楽配信サービス市場である。モバイル向け音楽配信サービスの市場規模は,2003年には1767億ウオンに達し,減少著しいオフラインの音楽市場規模と肩を並べるまでに成長した。一方,オンライン音楽サービス市場全体の売り上げは1833億ウオン。モバイル向け以外の有料音楽配信サービスについては,利用者はほとんどいないことが分かる。

表1●韓国の音楽市場規模推移(単位:億ウオン)
 2000年2001年2002年2003年
オフライン4104373328611850
オンライン全体45091113451833
モバイル--12901767
違法音楽配信(推算)1558331539005265
出典:韓国ソフトウエア振興院発表資料


MP3プレーヤの利用が一般的に

 ブロードバンド・ネットワークを通じて好きな音楽をいくらでもダウンロードできる環境は,韓国インターネット・ユーザーの音楽の聴き方を大きく変えた。Webの音楽ストリーミング配信サービスを利用して聴く,あるいはダウンロードしたMP3ファイルをPCやMP3プレーヤで聴くことが,若者の間では一般的になった。

 前出の市場規模からも分かるように,CDを購入して聴くことは少なくなったようだ。筆者も実感している。その一例が,レコード店(CDショップ)の減少である。筆者は,ある大学の近くに住んでいるので,周りには若者が多い。4~5年前には,家から歩いて10分以内の距離にレコード店が4軒あったのに,今では1軒しかない。しかも,最近そのレコード屋にお客がいることを見たことがほとんどない。若者の“CD離れ”は確かに進んでいるようだ。