エンターキナー,韓 芝馨

 「1人メディア」の登場で韓国のインターネット文化が変化している。1人メディアとは,ポータルサイトやコミュニティサイトなどで自分だけで運営している空間を指す。この1人メディアの代表的な例がblogである。前回紹介したミニホンピはホームページの形態に近い一種の変形blogだといえる。

 1人メディアは個人的な関心事項を1カ所にまとめて整理しておけるという点では「自分を表現するメディア」であり,他人とのコミュニケーションが可能であるという点では「自分をネットワーク化するメディア」である。

「メディア」たる由縁

 blogやミニホンピが「メディア」と呼ばれる理由はblogger(ミニホンピ・ユーザーを含む)の間で行われる情報の発信と共有がとても早く広範囲に行われるためである。また,従来のメディアに比べて,1人メディアは同じ意見を持っている人の間の結束力やほかの人への説得力という点で,もっと大きな波及効果をもつ。

 例えば,今年3月に韓国大統領の弾劾が可決された時,弾劾に反対するbloggerは自分のblogやミニホンピに自分の意見を書いてほかの人の同意を求めたり,風刺的な動画やフラッシュ・アニメを作って掲載した。訪問した人はその掲示物をさらに自分のblogやミニホンピに掲示し,全国民的な共感が形成された。

 こうしたことはある程度のユーザー基盤が前提になるが,最近韓国での1人メディアの拡大ぶりは驚くほどである。新聞報道によると,2004年5月末に675万人だったサイワールド・ユーザーは2004年6月末には800万人を超えたそうだ。また,ページビュー調査会社のメトリックスは6月第4週にNATEがページビューでDAUMを追い越したと発表している。NAVERなどが運営しているblogへのアクセス数もますます増加している。

20~30代向けマーケティング・ツールとして注目

 1人メディアの拡大とその波及効果に一番最初に注目したのは広告業界と政界である。サイワールドのミニホンピには,いつからか商品のブランド名や映画のタイトルなどがミニホンピの主人として登場している。このような「ブランド・ミニホンピ」は商品のイメージや映画の主人公が登場するスキンで飾られていて,商品や映画に対する情報や写真を掲載している。ミニホンピ・ユーザーが訪問すると,CMや映画に出演したモデルや俳優の写真が入っているスキンやドトリをプレゼントする。

 ブランド・ミニホンピには毎日数万~数十万名以上のミニホンピ・ユーザーが訪問している。彼らにとってブランド・ミニホンピはスキンやドトリがもらえるところでもあるが,遊ぶところでもある。まるで友達のミニホンピにコメントを書くように商品や映画に対する自分の考えを書いたり,その商品と関連した自分の写真を掲載したりする。

 例えば,コカコーラのミニホンピは,ミニホンピ・ユーザーがコーラを持って写っている写真を掲載している。またあるファッション・ブランドのミニホンピにはユーザーがそのブランドの服でコーディネートした姿を撮った写真を掲載している。ブランド・ミニホンピと一村関係を結ぶと,各種記念日にお祝いのメッセージやプレゼントがもらえるといったしかけもある。

 ブランド・ミニホンピの広告効果は,ミニホンピの主なユーザー層である20~30代をターゲットにした商品で大きく現れている。例えば,20~30代の女性ユーザーをターゲットにしているショッピング・サイト「Wizwid(www.wizwid.com)」の場合,ブランド・ミニホンピを通じたイベント開始後,売り上げが20%以上増加したと発表している。

 ブランド・ミニホンピはサイワールドから許可をもらうと,追加費用なしで会社の担当者が運営できるようになる。ただ,ユーザーにプレゼントするドトリやスキンなどは企業がサイワールドから購入する。サイワールドによると,20~30代をターゲットにしているブランドが相次いでミニホンピ開設について問い合わせてきているそうだ。

 一方,政界ではほとんどの国会議員がblogやミニホンピを作り出している。その背景にはインターネット・ユーザーとの交流が選挙に大きな影響を及ぼすようになったこと, インターネット・ユーザーとの交流のための一番有効な道具がblogやミニホンピになっていることがある。

個人情報流出や「サイホリック」に

 1人メディアの広がりはいろいろな社会問題も引き起こしている。一番大きいのがプライバシ侵害の問題だ。個人情報の流出や他人の私生活を盗み見たり,ストーキングなどが社会問題になっているのだ。

 ミニホンピに公開した電話番号を見て,知らない人から電話がかかってくる程度は想像に難くないだろう。あるミニホンピ・ユーザーは,町を歩いていると知らない人から挨拶された。聞いてみるとミニホンピ上の写真を見たことがあるというのだ。このようなことを防ぐため,サイワールドはプライバシ機能をますます強化していて,ユーザーも以前よりずっとプライバシに気をつけるようになった。

 また,1日でも自分のミニホンピに友達からのコメントがないと,憂うつになる人が増えているのも問題になってきた。こうした人はほかの人の関心を求めて自分のミニホンピを飾るのに余計なお金を使ったり,ほかの人のミニホンピを訪問してコメントを書き込んで,自分のミニホンピに誘導しようと試みるのに時間を使いすぎている。まさに前回,冒頭で述べた「サイホリック」状態である。

1人メディアがインターネットの中心に

 こうした問題がありながらも,韓国での1人メディアの人気は当分続くだろうし,今度は1人メディアを通じて商取引をしてサイバー・キャラクタと友達になるといったことも起こるだろう。サイワールドに挑戦するコミュニティ・ポータルの1つ「Neowiz(www.neowiz.com)」は,同社のミニホンピ・サービスでサイバー・キャラクタがユーザーのミニホンピを訪問して,まるで友達のようにコメントを書いたり話かけてきたりしてくれる。

 サイワールド自体は,ミニホンピの次のステップとして,ユーザーが直接商取引をすることができるシステムを作り,企業も参加できるようにすることを考えているそうだ。サイワールドの中に自律的な経済システムを作るという構想だが,まだ具体的なことは明らかにしていない。

 今後韓国では,インターネット上でのもっとも多くの活動が,この1人メディアを中心に行われるようになっていくだろう。

(韓 芝馨=エンターキナー)


■著者紹介:
ハン・ジヒョン。1998年,韓国インターネット・バブルが最高潮になったとき,大学を卒業してインターネット・ベンチャーで事業企画業務を始める。2000年になって当時日本で活性化されたモバイル・インターネットに興味を持ち,IT専門リサーチ会社で通信会社や端末メーカ,ITベンチャーを対象に当時モバイルインターネット先進国であった日本のモバイルインターネット産業をリサーチして提供する。2003年からエンターキナーでリサーチャーとしてIT関連リサーチ業務を続けている。エンターキナーは韓国・ソウルに本社を置くリサーチ・コンサルティング会社。韓国内外の情報通信市場・技術動向,環境分析,政策,戦略分析,ビジネス・モデルなど専門分野のレポート発行,市場調査などを行っている。