エンターキナー,韓 芝馨

 最近,韓国のインターネット・ユーザーの間では「サイジル」,あるいは「サイホリック」という言葉がはやっている。「サイ」という言葉は米国でも注目を集めているソーシャル・ネットワーク・サービスとして韓国で一番有名な「サイワールド」を示している。また「ジル」という言葉は「何かをする行為」(普通よくないことをする時に使う)を意味し,「ホリック」は「中毒」を意味する英語の「-holic」からきた言葉である。すなわち,「サイジル」は「サイワールドをすること」,「サイホリック」は「サイワールドに毒された」という意味だ。

 このような言葉がはやっていることからも分かるように,最近韓国のインターネット・ユーザーはサイワールドでたくさんの時間を過ごしている。特に若者の間にはサイワールドに時間を奪われて日常生活に支障を来す人が増えたり,社員のサイワールドへのアクセスを遮断している企業も増えている。

 このサイワールドの人気が,韓国のポータル市場を塗り替えようとしている。1年前はほとんど無名だったサイワールドを擁する「NATE」が,韓国ポータル・サイトのページ・ビュー首位に躍り出ようとしているのだ。

人間関係をキーワードに

 サイワールドは「知り合い」,あるいは「友達」をキーワードにオンライン上で人間関係を形成し,管理する「ソーシャル・ネットワーク・サービス」である。サイワールドでは,ここにblogの概念を含んだ「ミニホームページ」を導入した。これは「ミニホンピ」と呼ばれている。ホンピとはホームページの略称だが,ミニホンピはほとんど固有名詞化していて,サイワールドのサービスをさす場合がほとんどだ。

 ミニホンピでは,blogのようにユーザーが毎日,写真を掲載したりコメントを書くことができるようになっている。情報提供を目的にしている場合が多いblogとは違って,ほとんどのユーザーが自分の日常を記録するために写真やコメントを書くことが多い。日記のようなものである。またサイワールドで提供する機能を使うと,自分のミニホンピを様々な方法で飾ることができる。

  画面1●パドタギ ボタンをクリックすると自分と一村関係を結んだ人の一覧が出てくる。名前をクリックするとその人のミニホンピに移動する。

 ミニホンピで一番人気がある機能は「パドタギ(波のり)」と呼ばれる人間関係形成機能だ。自分の友達の友達のミニホンピを訪問して,画面のボタンをクリックして,そのミニホンピの持ち主が承認することにより「一村関係」が結ばれる。一村関係というのはまるで親戚や家族のように自分と親しい関係を結ぶということ。この機能を使って,人間関係を広げることができる。例えば1人の友達を通じて1000人以上の人と知り合いになることもできる。

 一村関係はプライバシの保護という面でも重要だ。サイワールドの中で一村関係を結んだ人と結ばなかった人を区分して個人情報や写真の公開などを設定することができるのだ。例えばミニホンピには名前,生年月日,メール・アドレス,住所,携帯電話番号などを公開できるが,これを一村だけに公開するか,だれにでも公開するか,公開しないかを設定できる。ミニホンピに掲載する写真やコメントも同様に設定可能。掲載した写真を訪問者がコピーすることも可能だが,これもアクセス制限ができる。ただし,名前はだれにでも公開される。

 また,サイワールド会員が,連絡が途絶えてしまった昔の知り合いや友達を探したいなら,その人の年齢と名前を入力すると,当てはまる会員の一覧が出てくる。一覧のミニホンピを訪問して,写真やプロフィールなどから探している人かどうか確認できる。こうして探した知り合いや友達のミニホンピにコメントを書いておくと,その人がそれをクリックするだけで自分のミニホンピに来てもらうことができる。

 こうした機能があればこそ,サイワールドユーザーは自分のミニホンピをアップデートしたり友達のミニホンピに訪問してコメントを書いたりするために毎日数時間以上サイワールドにアクセスしている。

無名から1年でトップ目前

 サイワールドは1999年ソーシャル・ネットワークを目指すコミュニティ・サイトとして出発した。2001年からミニホンピ・サービスを開始したが,あまり注目を集めることはなかった。2003年6月,当時300万人のユーザーを持っていたサイワールドはSKコミュニケーションズと合併した。同社はSKテレコムの有線インターネット・サービスを提供する子会社である。SKコミュニケーションズはポータル・サービス強化を目指して,それに先立つ2002年11月,ライコスを買収している。サイワールドは,SKテレコムが運営するポータル・サイトNATEの1メニューとして提供されるようになった。

 2003年6月当時,韓国のポータル市場の売上高トップ3は「DAUM」「NAVER」「Yahoo! Korea」だった。SKコミュニケーションズはサイワールドと合併した際に「1位ポータルのDAUMを追い越すことはできないとしても,ポータル市場で2位までには進入したい」と言っていたが,それが実現すると考える人はだれもいなかった。インターネット・サービス初期からメールやコミュニティを中心に集まった3社のユーザーが他のポータルに移行することは考えにくかったのだ。

 ところが,2003年下半期からミニホンピの人気が高まり,NATEは2004年の初めからページビューでYahoo! KoreaやNAVERを追い越し,5月第5週には33億4700万ページビューを記録,33億9600万ページビューを記録したDAUMに迫っている。ページビュー調査会社のメトリックスはこのままだと6月中にはNATEがページビューでDAUMを追い越すだろうと予想している。

ドトリで高い収益

 2001年に始まったが注目を集められなかったサイワールドのミニホンピがブームになったのはSKコミュニケーションズに合併されてからである。合併当時300万であったサイワールド・ユーザーは1年後の2004年5月末に675万人に達している。

 このようなミニホンピのブームを起こした立役者はSKコミュニケーションズのサイワールド事業部長シン・ビョンヒさんである。新聞のインタビューなどで彼はサイワールドの成功に対してこのように言っている。「サイワールドが成功した理由はインターネット・ユーザーを詳細に観察したからである。それを通じて彼らの欲求を探し出し,解消できる機能をサイワールドに入たのだ」。このため,サイワールドではインターネット・ユーザーの行動パターンをデータベース化する作業に心血を注いでいるそうだ。

 SKコミュニケーションズはサイワールドのミニホンピだけで月30億ウオン以上の収益をあげていて,同社はサイワールドの今年の売り上げを500億ウオンと予想している。DAUMやNAVERが検索サービスやゲーム,コミュニティ,ショッピングなどを含めた全サービスでの受け上げが年間約2000億ウオンということを考えると,ミニホンピの500億ウオンはとても大きな金額であることが分かる。

  画面2●ドトリを使わないミニホンピ お金を使わないとこのようなミニホンピになる。
  画面3●ドトリを使って飾ったミニホンピ ドトリを使って,アバターやミニルーム,スキンを購入すると,こうした楽しいミニホンピになる。

 ミニホンピは無料で利用できるが,サイワールドは売上げの大部分を「ドトリ」から得ている。韓国語でドトリはどんぐりのこと。だが最近の韓国のインターネット・ユーザーはドトリと聞くとサイワールドを思い出す場合が多い。サイワールド・ユーザーがミニホンピを飾るアイテムなどを購入するときに使うサイバーマネーをドトリと呼ぶからだ。

 ドトリ1個の価格は100ウオンで,1つのアイテムを購入するには10~40個のドトリが必要だ。サイワールド・ユーザーは自分のミニホンピをもっと魅力的に飾るためにスキン,背景音楽,家,家具,アバタなどのアイテムをドトリで購入する。これによってサイワールドは大きな収益を上げているのだ。

多様で敏感になるネット・ユーザーのニーズに対応

 インターネット・ユーザーがサイワールドに夢中になって以来,人気コミュニティ・サービスを運営してきたDAUMやNAVERなどのポータル・サイトは自社サイトへのユーザー訪問数が少なくなったことを肌で感じている。これに危機感をもったポータル各社は慌ててミニホンピと同様のサービスを開始しているが,サイワールドと差別化したサービスはまだ見えない。今後,他社から機能的にもっと魅力的なサービスが登場するとしても,すでにサイワールドの中で堅く形成されている人間関係を考えるとサイワールドに再逆転するのは,当分難しいだろう。

 サイワールドの人気とそれによるポータル市場構図の変化で,韓国のインターネット業界は現在人気サービスやユーザー数が多いサイトであっても,時々刻々と変化するユーザー・ニーズに対応しなかった場合,いつでもその地位が危うくなるということを肌で感じた。これはインターネット・ユーザーのニーズが多様で敏感になったことを意味する。今年のトレンドは確かにソーシャル・ネットワークをキーワードにしたblogやミニホンピなどの「1人メディア」である。

 次回は1人メディアに対して考察する。韓国のネット・ユーザーがミニホンピなどの1人メディアに夢中になったことで,インターネット文化やプライバシ問題が変化しているのだ。

(韓芝馨=エンターキナー)


■著者紹介:
ハン・ジヒョン。1998年,韓国インターネット・バブルが最高潮になったとき,大学を卒業してインターネット・ベンチャーで事業企画業務を始める。2000年になって当時日本で活性化されたモバイル・インターネットに興味を持ち,IT専門リサーチ会社で通信会社や端末メーカ,ITベンチャーを対象に当時モバイルインターネット先進国であった日本のモバイルインターネット産業をリサーチして提供する。2003年からエンターキナーでリサーチャーとしてIT関連リサーチ業務を続けている。エンターキナーは韓国・ソウルに本社を置くリサーチ・コンサルティング会社。韓国内外の情報通信市場・技術動向,環境分析,政策,戦略分析,ビジネス・モデルなど専門分野のレポート発行,市場調査などを行っている。