前回のコラムでは、「オープンソースとグリッド技術は、対応を誤るとソフトウエア・ベンダーの存在基盤が揺らいでしまうほどのインパクトがある」と書きました。
グリッドにインパクトがある理由は、ソフトウエアの利用モデルを変える可能性があると考えているからです。グリッド技術は、CPUを所有するのではなく、グリッド上の必要なリソースを利用料金を払って活用するような利用モデルに適した技術です。この9月にSunが打ち出してきた新たな料金体系は「企業ユーザー向けミドルウエアを、ユーザー企業の従業員1名あたり年間100ドルで利用できるようにする」というものですが、これは利用モデルの変更を前提とした価格体系といえます。
グリッドに力を入れている企業は、IBM、Oracle、Sunなどです。各社とも主張はそれぞれ違うものの、グリッド技術によって利用モデルが変わる、と認識している点では共通しています。
一方、なぜオープンソースにインパクトがあるのか。
ソフトウエア・ベンダーの生命線は、自社のソフトウエア製品の影響力です。その分野で主導権を握るような地位を占めること。それができなければ、ソフトウエア製品で食べていくことは困難です。MicrosoftもOracleも、自分の得意分野で圧倒的な影響力を持っているために成り立っている会社です。各社とも、市場の勢力分布が定まらないような早い時期に製品をリリースして、それを改良し続けること、顧客サポート、開発者サポートを続けることで、現在の地位を築いてきました。
そこに登場してきたオープンソース。これは、「破壊的(Disruptive )」な存在です。
オープンソースは、今までの企業活動の枠組みを超えた開発体制を提供します。
企業がオープンソース・プロジェクトと関わることで影響力を高める典型的なシナリオは次のようになります。
1. A社が開発したソフトウエアFooを、オープンソース・プロジェクトとして公開する。
2. プロジェクトが成功し、多数のコントリビュータが参加する。
3. A社は、結果的に、A社以上に開発リソースを手に入れ、ソフトウエアFooも浸透する
このような枠組みが成立することは、従来の常識からは信じがたいのですが、しかし実際に起きていることです。IBMが開発基盤をオープンソースにしたEclipseプロジェクトや、SunのServlet実装を元にしたApache Tomcatがその例です。
Eclipseは、ご存知のように非常に普及した開発環境です。もし、このツールが「IBMの開発ツールの無償版」といった位置づけで公開されたとしたら、ここまでの影響力は持たなかったでしょう。
また、Apach Tomcatは広く利用されているServlet実装です。そのツールは、Sunの
Servlet実装で、実際にTomcatはJava技術の一部であるServlet APIのRI(リファレンス実装)である、との位置づけになっています。
SunとApache Jakartaプロジェクトとの間にはゴタゴタがあったものの、大筋としては優れたServlet実装が公開されているという観点から、Sunは自社以上の開発パワーを得たといえます。
オープンソースに関しては、いろいろな言説が飛び交っており、ノイズも非常に多いのが実情です。しかし、「オープンソースにすることによってソフトウエア分野の主導権を得る」という戦略が徐々に登場しつつある、ということはぜひ指摘したいと思っています。
こういう書き方をすると、「公共的なものと思っていたオープンソース・ソフトウエアが、実は特定の会社の都合に合わせて作られていたのか?」という疑問をお持ちの方もいるかもしれません。そうではありません。オープンソースの特徴は、開発プロセスもオープンになっていることです。もし、上のA社が、自社の都合だけを考えて大勢の開発者や利用者の利益に合わないことを企んだとすれば、そのプロジェクトは支持を集められずに失敗するでしょう。
ただし、大きな資本が有利ということはあります。オープンソースより大きな余裕資金を持っている企業が、より多くの影響力を行使できることは事実です。では小さい会社に出る幕はないかというと、そうではありません。図抜けたアイデアと開発力があるチームを抱えていれば、オープンソース・プロジェクトと関わることで、余計なお金を使うことなくソフトウエア製品を広めることも可能なはずです。
オープンソースという概念には、公共性、資本の原理、商業活動とボランティア活動と、さまざまな要素が入り交じっています。うまくこの概念を扱えるなら、従来型とは違うビジネスが可能になるでしょう。もし、現状のソフトウエア・ビジネスに閉塞感を感じている方がいるなら、オープンソースの概念と真剣に向かい合ってみてはどうでしょうか。
(星 暁雄、日経BP Javaプロジェクト)
●参考文献
「オープンソースがビジネスになる理由――勝ち組企業は何をしたか」
(米持幸寿 著,日経BP社刊)