日本オラクルが、2004年1月出荷予定のOracle 10gの発表会を開催しました。「グリッド」対応が売り物のデータベース製品の新版・・・なのですが、筆者の目はちょっと違う部分に注目していました。「J2EEアプリケーション・サーバー」もOracle 10gの構成要素の一つだからです。グリッド、Linux、IAプロセッサ、ブレード・サーバー、といったキーワードと並んでJava/J2EEの部分はどうなるのか、そこが気になっていました。

 発表会では、日本オラクルは「データベースだけではなく、ストレージやアプリケーションの仮想化機能を備える」、「単なるクラスタとは違う」と強調しました。単にデータベース処理をクラスタ対応にしたというだけでなく、J2EEアプリケーション・サーバー機能の分散処理対応機能も含めて一元的に管理できる点が、この製品のポイントだというのです。

 「これは、Oracle Application Serverをもっと売りたい、ということですか?」と聞いてみると、「まあ、その通り」との回答が帰ってきました。

 Oracle 10gは、データベース、ストレージ、アプリケーションのそれぞれの構成要素を仮想化し、リソース・プールを形成し、プロビジョニング(リソースの割り当て)を可能とする、という説明です。構成要素は、データベース(製品名はOracle Real Application Clusters 10g、略称はRAC)、ストレージ(製品名はSutomatic Storage Management、略称はASM)、アプリケーション・サーバー(Oracle Application Server 10g)、それに管理ツール(製品名はEnterprise Manager)ということになります。

 発表会の席上で行ったデモンストレーションでは、NECと富士通のブレード・サーバー上でRad Hat Enterprise Linuxを利用、アプリケーションを実行しながら、コンピューティング・ノードを動的に増やしていく様子を、データベース・サーバーと、アプリケーション・サーバーの両方で見せました。共通の管理環境で、これらの機能を適用できることがこの製品のポイント、という訳です。

 さらに、アプリケーション対応として、イーシー・ワンのcFrameworkを始めとした「J2EEフレームワークと組み合わせた動作検証も進めている」と話しています。

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 今後2年程度の時間で、分散したコンピュータ資源を仮想化する技術が普及していくことが予想されています。影響力が大きいベンダーが、いずれもグリッド技術やその周辺の技術を開発中だからです。IBMは、すでに「トランザクション処理をグリッドに載せる」という発言をしています。Sunは、CPU、ストレージ、ネットワークのそれぞれの資源を仮想化する「N1」を推進しています。より高度な仮想化技術が、やがて普及するでしょう。

 気になることは、Linuxベースのブレード・サーバーのように安価に多数のCPUを搭載できるプラットフォームと組み合わせる場合に、ソフトウエアの価格体系がどうなるのか、ということです。

 残念ながらOracle 10gの価格は未発表で、日本オラクルからは価格体系に関する具体的なコメントは取れませんでした。ただし、CPUライセンス、ユーザー・ライセンスという考え方は継続するということです。

 先日のSunは、OSとミドルウエア群をすべて合わせて「従業員数×100ドル/年」という価格体系を発表しましたが(9/24付けコラム「Sun が「Java System 」で問う新モデル」参照)、これはサーバー・ハードウエアも一緒に売る会社だからできた戦略です(いくらサーバーを増強しても、ソフトウエアの価格は変わらないからです)。今後、グリッド技術が進化していく過程で、ソフトウエア・ベンダーがどのような価格体系を編み出すのかが気になります。

 オープンソース、そしてグリッド(とその周辺の分散処理技術)。これらは、対応を誤るとソフトウエア・ベンダーの存在基盤が揺らいでしまうほどのインパクトがある動きだと筆者は考えています。

星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト