4月24日,米Hewlett-PackardはItanium 2を搭載したハイエンド・サーバーSuperdomeでTPC-Cベンチマークの最高記録を実現したと発表した。その15日後,IBMはUnixサーバーのeServer p690により1位の座を奪還した。そして,さらにその11日後,HPは同じくItanium2搭載のSuperdomeで再度首位の座に返り咲いた。まさにデッドヒートが展開されたわけである(関連記事)。

 ユーザーはベンダーによるベンチマーク数値の発表に振り回されるべきではないだろう。標準パフォーマンス・ベンチマークの値はあくまでも実験室的な値であり,現実世界の性能との乖離(かいり)が激しいからである。特に,TPC-Cは比較的単純なベンチマークであり,各ベンダーが自己のサーバーの性能値を上げるために非現実的なチューニングを行うことが可能であることが知られている。

 しかし,どのベンダーも「同等に非現実的な」チューニングを行えると仮定すれば,TPC-Cの結果は製品間の相対的な性能評価としてある程度の目安にはなるだろう。

 そう考えてみると上記のTPC-Cの結果はそれなりのインパクトがある。今まで行われてきたUnixベンダー間の性能争いではなく,Unix/RISCとWintel(Windows+Intel)の性能争いという構図になっているからだ。重要なのはHPがIBMに勝ったということではなく,Windows+SQL Server+IntelというWintel構成(Itaniumを使用してはいるが)がUnix+Oracle(DB2)+RISCという典型的なUnixサーバー構成と同等レベルの性能を達成できたという点である。

 今までは,ハイエンドはUnixでローエンドはWindowsでという適材適所の考え方が一般的だったわけだが,WindowsのスケーラビリティがUnixに遜色ないということになれば,この考え方の根本がくずれることになる。企業のサーバーの購買戦略やベンダーの競合力学に大きな影響があってもおかしくない。ただし,スケーラビリティだけでなく,WintelがUnixに比べて果たしてコスト面でメリットがあるのか,という視点も重要である。

 今回から数回に分けてこれらのベンチマーク数値の発表が真に意味すること,そして,一般的にユーザーが業界標準の性能ベンチマーク数値をどうとらえていくべきかについて分析していくこととしよう。

問題は多いが目安にはなるTPC-C

 TPC(Transaction Processing Council)は,業界標準の性能ベンチマークの確立と測定値の公表を目的としたベンダー独立の非営利団体である。TPC-Cは,TPCが開発した,受注アプリケーションを模したベンチマークである。OLTP環境におけるプロセッサ,I/O,DBMS,TPモニターの総合性能を適切に評価できるという触れ込みで1992年に公開され,その後,業界標準ベンチマークとして広く利用されてきた。

 前述のようにTPC-Cの数値そのものは目安にしかならない。しかし,TPC-Cに限らずTPCによる性能ベンチマークの良い点は,システムの詳細な構成と,(保守費用を含む)システム価格の外部監査済みの情報が公開されている点である。TPC-Cの詳細情報は数百ページにもなるドキュメントとしてTPCのWebサイトで公開されている。ここではTPC-C上位3システムの基本的な数字だけを転載した。これだけでも,十分興味深い情報を得ることができるだろう。

 システムスループット(tpm)tpmあたり価格(ドル)DBMSOSTPモニター提出日
1HP Superdome707,1029.13SQL Server 2000 EE 64-bitWindows Server 2003 Datacenter EditionCOM+2003年5月20日
2IBM eServer pSeries 690 Turbo680,61311.13DB2 UDB 8.1AIX 5L V5.2BEA Tuxedo 8.02003年5月9日
3HP Superdome658,2779.80SQL Server 2000 EE 64-bitWindows Server 2003 Datacenter EditionCOM+2003年4月24日
tpm:トランザクション/分
出展:Transaction Processing Performance Council

Wintelサーバーは安いのか?

 トップの座を奪回したは言え,1位のSuperdomeと2位のp690のスループットの差はわずか4%程度に過ぎない。あまり1位だ2位だと議論するほどの差ではないのである(もちろん,ベンダーのマーケティング担当者にとっては1位なのかそうでないのかは大きな関心事であろうが)。

 また,価格性能比を見てみると,確かにSuperdomeはp690より安いがそれほど大きな差があるわけではない(20%程度である)。WintelはUnixより大幅に安いという一般的認識はハイエンドにおいては当てはまらない。そもそも,ハイエンドの構成になると,サーバー本体よりも外部ストレージのコストの方が大きくなることも多い。開発や運用のコストを含めて考えれば,単純にUnixサーバーをWintelに置き換えればコストが下がるとは言えないだろう。

 10万円を割るローエンドWintelサーバーを見慣れていると,数億円レベルのハイエンドUnixサーバーやメインフレームはずいぶん高価なものに見えるかもしれない。しかし,大規模な処理を行うためには,Wintelの世界でも結局数億円レベルのハードウエアは必要になってしまうのである。コスト削減だけを目的として,メインフレームやUnixからWintelへのダウンサイジングを行うのはあまり合理的な決断ではないだろう。

見え隠れするベンダーの「苦労」

 上図でもうひとつ注目すべき点はp690の構成である。Unixの世界で性能ベンチマークを行う場合にはOracleが定番であったが,IBMはDB2 UDBを採用している。OracleとIBMはDBMS市場における競合を強めており,IBMとしては何としてもDB2を使わざるを得なかったのだろう。実際,Oracleは,今までIBMがTPC-Cベンチマークで使ってきた構成を基に「IBMがOracleを世界最速のDBMSとして選択!」というような皮肉混じりのマーケティングを米国を中心に行っていた。

 その一方で,TPモニターとしては,今までTPC-Cベンチマークで必ず使用していたWebSphereではなく,BEAのTUXEDOを選択した。少しでもオーバーヘッドの小さい製品を使いたかったのだと思うが,TUXEDOは(Webアプリケーション・サーバーではない)従来型のTPモニターであり,新規アプリケーションの基盤としては主流ではないこと,また,アプリケーション・サーバー市場におけるIBMとBEAの競合が強まっていることを考えると,IBMは1位奪回にかなり苦労したのでは,とうかがえるのである。

 次回は,TPC-Cについてもう少し突っ込んで分析し,その具体的な問題点について考えていくこととしよう。