前回の予告では,「エンタープライズLinuxについては今回で終了し,次回以降はまた別のテーマで」と述べたが,つい最近,米ガートナーよりLinuxに関する興味深いレポートが発行されたので,予定を変更して,その内容の一部をご紹介したい。

◆用途別に見るLinuxのハイプ曲線

 そのレポートとは,Linuxのハイプ曲線の詳細版である。2002年11月28日付けの記事で,ガートナーが創案したハイプ曲線について紹介した。あるテクノロジ要素が,世の中に出現してから,一般的に普及するまでの注目度の移り変わりをモデル化した曲線である。そこでは,Linuxが,バブルの後の反動を越えて,企業が安心して使用できるテクノロジとしての地位を確保しつつある段階にあると述べた。今回のレポートは,Linux全体ではなく,その用途別にハイプ曲線へのプロットを行ったものである。その抜粋を図に示した。

用途別に見たLinuxのハイプ曲線 2003年1月時点


 一般的にいって,すべてのテクノロジが必ずしも最終的に安定期に至るとは限らない。ハイプをあおられるだけあおられて,結局忘れ去れれてしまうテクノロジも数多いのである。また,すべてのテクノロジが同じ速度で安定期に至るともいえない(今,ビデオテックスを覚えている人はどれだけいるだろうか)。そこで,今回のように,ガートナーが発表するハイプ曲線では安定期に至るまでのおおよその期間の予測をマーカーの色などで表すことも多い。

◆安定期に入っているインターネット・インフラ・サーバー系と科学技術計算

 何回も繰り返し述べているように,Webサーバーそしてインターネット・インフラ・サーバー(ファイヤウォール,DNS,ftp,プリント・サーバーなど)としてのLinuxは,ほぼ安定期に至ったといってよいだろう。いくつかの考慮点はあるが,一般的企業でも安心して使用できるようになったという段階である。

 多数のコンピュータを組み合わせた並列処理により大規模な計算処理を行う技術計算クラスタとしての展開も,Linuxは比較的安心して使用展開できるケースの1つである。そもそも,このような展開形態では,重要なのはアプリケーションの性能であって,OSはプログラムのローディングやI/Oなどの最低限の機能を提供できていればよい。また,必然的に数多くのコンピュータを使うことになるため,Linuxのメリットは大きい。

 Itaniumファミリ(IA-64)上のLinuxは,最近特に注目を浴びている。ガートナーは,Itaniumファミリが,広範に普及するまでには時間を要すると考えている。Itaniumファミリの普及の課題は,いうまでもなく,アプリケーション・ソフトウエアの品揃えである。オープン・ソースの開発プロセスは新しいハードウエアが出現した場合の迅速なサポートという意味では有利である。科学技術計算系を中心に,LinuxはItaniumファミリの能力を真に生かすことができる最初のOSの1つとなるだろう。

◆オフィス製品や基幹系はこれから

 今,Linuxの世界でハイプのピークにあるテクノロジ要素は,StarSuite(StarOffice)やOpenOfficeなどのオープン・ソース系のオフィス・スイート製品のLinuxデスクトップ上での活用であろう。多くの企業がオフィス・スイートにおいて,米Microsoftにロックインされている現状を考えれば,これは当然のことだ。

 個人的にデスクトップ環境をLinuxにスイッチし,オープン・ソース系のオフィス・スイートに移行したユーザーもいるだろう。しかし,中規模以上の企業で,企業全体としてLinuxデスクトップにコミットしたものは少ない。これは,オフィスというユーザーの対象範囲が大きい製品では,教育やサポート上の課題が大きいことを考えれば当然のことである。特に,Microsoft社のオフィス製品とオープン・ソース系のオフィス製品との混在環境のサポート負荷は大きい。

 ガートナーは2004年までにデスクトップにおけるLinuxのシェアは5%を超えないと見ている。しかし,Microsoft社が価格面やライセンス条件面で柔軟な対応を取らなかったり,価格に値するだけのサポートや品質を提供できなければ,リスクを負ってでもLinuxへ移行するユーザーは増えていくだろう。

 これも今まで述べてきたとおりだが,複雑なミッション・クリティカル・システムがLinux上で安心して稼働できるようになるまでには,少なくとも5年程度の期間を必要とするだろう。もちろん,これは,それまでにはLinux上での基幹系システムの展開が不可能と言うわけではない(たとえば,現時点でもSAP R/3の稼働事例が存在する)。WindowsやUnixと比較すると,採用のリスクがまだ大きいということである。

 次回からは,今注目が集まっているテクノロジのひとつであるグリッド・コンピューティングについて数回に分けて分析していきたい。