今回は,エンタープライズLinuxにおいて今後,重要なプレーヤーとなる可能性が高い米Sun MicrosystemsのLinux戦略について分析しよう。

◆急速な方向転換をしたSun社

 2000年以前のSun社の戦略は単純明快なものであった。「我々はSPARC/Solarisプラットフォーム・ベンダーである」というものだ。つまり,シングル・アーキテクチャ,シングルOSにフォーカスし,上位ソフトウエアやサービス・ビジネスは基本的にパートナー企業に任せるというものである。Sun社は,米IBMや米Hewlett-Packard(HP)などの多様なプラットフォーム製品を有する企業は顧客を混乱させている,と折りに触れては批判してきた。

 この究極の「選択と集中」戦略は,ユーザー企業,特に,その経営層にアピールし,Sun社に記録的な成功をもたらした。しかし,2001年後半以降,Sun社の業績は急速に悪化し,同社は戦略の大転換に迫られた。すなわち,サービス・ビジネスへの一層のフォーカス,ソフトウエア・ビジネスの高収益化,そして,2002年8月におけるLinux/Intel(“Lintel”)サーバーの発表によるシングル・アーキテクチャ/シングルOSモデルからの離脱である。この最後の事件は,Sun社の牙城であったWebインフラの領域においてLinuxがきわめて大きな脅威になったきたことの表れである。

 Sun社がLintelプラットフォームを採用せざるを得なくなった理由は,もう1つあると筆者は考える。Webサービングの領域では,さほど強力ではないサーバーを多数クラスタ接続した,いわゆるWebサーバー・ファーム構成で処理能力を上げる方式(水平スケーラビリティ)が一般化している。ここで,重要となる要素はサーバーの設置面積である。省スペースのラックマウント・サーバーの使用は既に常識となっており,さらに実装密度を高めたブレード・サーバーの採用も始まっている。Sun社も間もなくLintelおよびSPARC/Solarisのブレード・サーバー製品を発表することになるだろう。

 ブレード・サーバーにおいて重要な設計ポイントは可能な限り発熱を抑えることである。そうでなければ,高密度のパッケージングは不可能であるからだ。SPARCはRISCプロセサとして決して発熱が小さい方ではない。それゆえ,サーバーの実装密度が高まるにつれ,SPARCはテクノロジ的にも不利となっていくだろう。その一方で,Intelはモバイル向けの低消費電力化テクノロジを応用することで,高密度サーバー向けプロセサとしても将来的に有利な位置にある。

 いずれにせよ,LintelとSPARC/Solarisのデュアル・プラットフォーム戦略への方向転換は正しい戦略転換といえるだろう。Webサーバーの領域におけるLintelの優位性は,市場の勢いの点でも,テクノロジの点でも明らかであるからだ。一方,バックエンドのデータベース・サーバーでは,少なくとも現時点では,SPARC/Solarisは垂直スケーラビリティとエンタープライズ・アプリケーション・ソフトウエアの品揃えの点でLinuxに対する優位性を維持している。

 今,「デュアル・プラットフォーム戦略」と言ったが,では,Intel上のSolaris,および,SPARC上のLinuxという組み合わせはどうなのだろうか? これらのパターンは,公式にはサポートされていくであろうが,Sun社の戦略の中心となることはないだろう。Sun社の製品アーキテクチャを可能な限り単純化するという戦略は変わらないからである。

◆Sun社のLinuxの成功のキーは?

 Sun社のLinux戦略の成功は,Webサービスを提供するためのソフトウエア製品群「SunONE」(関連記事)がLinux市場でも成功できるか,そして,Sun社がサービス・ビジネスを成長させていけるかにかかっている。つまり,IBMと同様に,プラットフォーム・ビジネスの収益は縮小させても,上位ソフトウエアとサービスで元を取るという戦略である。Linux向けのハードウエア・ビジネスで差別化することは本質的に難しいからである。ガートナーは,2006年までに,Sun社がLinux向けミドルウエア市場のトップ3ベンダーに入る可能性もあると見ている。

 Sun社の課題はあまりにもスタートが遅すぎたことだ。結果論になるが,Lintelサーバーは,2001年に発表していてもおかしくなかっただろう。Sun社の問題の根は,Solaris/SPARCが成功しすぎたために,次の一手が遅れてしまったことだ。(ちなみに,DECのVAX/VMS,IBMのメインフレームなど,「自らの成功の犠牲」となったケースはITの歴史にあふれている)。

 Sun社の戦略の急速な転換を,節操がないと批判する意見もあるようだ。しかし,今日のIT市場環境では「君子豹変す」の姿勢も重要だろう(もちろん,あまり頻繁に戦略を変更して,顧客を混乱させることだけはしてはいけないが)。