最初にお断りしておきたいのは,ガートナーの調査の対象は,主に中規模以上の一般企業の情報システム部門であるということだ。したがって,大学などのアカデミア,企業の研究開発部門,ソフトウエア・ハウスなどの方々から見ると,ずいぶん保守的な調査結果が出ていると思われるかもしれない。しかし,一般企業で広く採用されない限り,Linuxが真に普及したとは言えないだろう。

◆エンタープライズにおいてLinuxはどれほど普及しているのか?

 米ガートナーのクライアントに対する最近の調査では,およそ80%の企業が何らかの形でLinuxを本番業務で使用していることが判明した。その用途のほとんどは,Webサーバーであり,ファイル・サーバー,メール・サーバー,DNSサーバー,ファイアウオールなどのインターネット向け特定用途サーバーがそれに続く。ERPやCRMなどのいわゆるビジネス・アプリケーションとしての利用はさほど多くない。

 Linuxは,エンタープライズ(大企業)には普及しているが,エンタープライズ・コンピューティング(全社的基幹系システム)には,まだ広く普及はしていないというのが現状だ。

 今後とも,LinuxはインターネットのインフラOSの用途を中心として成長していくと,ガートナーは見ている。今後5年間のレンジで見ても,全社的基幹系コンピューティングにおけるLinuxのシェアは20%を超えないとガートナーは予測している。Linuxは,「インターネットのための,インターネットによる,インターネットのOS」(OS of Internet, by Internet, for Internet)だというのがガートナーの見解である。

◆さびしい状況の日本

 一方,日本の状況はどうだろうか? 日本企業のLinux活用に関するガートナージャパンの調査(詳細データは「ITデマンド調査プログラム」として入手可能である)では,かなり悲観的な数字が出ている。

 Linuxを導入済みの企業はわずかに25%程度であり,3年以内に導入予定という企業も5%程度に過ぎない。一般的に言って,ITのトレンドが米国主導で進んでいるのは(残念ながら)事実であるし,日本語化の問題もあるので,日本の普及状況が米国と比較してある程度遅れるのはいたしかたないともいえるが,新規導入予定の企業の割合が少ないのは,正直言ってさびしい限りである。。

 日本企業におけるLinux採用の最大の不安材料は,社内にLinux関連スキルを持った要員がいないという点である。これは,Linuxを導入済みのユーザーであっても,そうでなくても共通の不安のようだ。

 これにはいくつかの理由があるだろう。Linuxのスキルを持つインテグレータやソフトウエア・ハウス自体が少ない,特に,エンタープライズ系のスキルとOSS系のスキルを兼ね備えた企業が少ないということはあるだろう。しかし,IBMや国内大手ベンダーもLinuxサポートに力を入れ始めている。それだけが理由ではないはずだ。

 考えられるもう一つの理由は,ほぼ無料のソフトウエアに対して,サービスに対価を支払うことに躊躇(ちゅうちょ)するというマネジメント層の姿勢であろう。1999年に行われたガートナージャパンのコンファレンスにおいてLinuxに関するパネルが行われたのだが,そこで日本におけるLinux普及の最大の課題は「ほぼ無料のOSに対するサポートにコストをかけるという考え方を,マネジメント層に理解してもらうということ」ということでパネリストたちの意見は一致した。残念ながら,その時の予測は,少なくとも今までのところは,当たってしまったと言えそうだ。

 さらに,人材の流動性の問題があるだろう。米国においては需要が高いスキルを持つエンジニアは引く手あまたとなり,好条件で他社に引き抜かれる可能性が高くなる。米ガートナーも定期的にITプロフェッショナルの給与調査を行っているが,スキルの需給関係による給与の変動幅は大きい。結果として,優秀なエンジニアはすぐに新しいテクノロジのスキルを獲得しようという気になるわけだ。Linuxのスキルに対する需要が高ければ、あまり間をおかずに多くのエンジニアがLinuxスキルを習得するということになる。

 日本の状況も変わってきてはいるが,米国ほどの人材流動性が存在するわけではない。結果として,エンジニアには新しいスキルを獲得できるだけの動機も余裕も足りなくなってしまうのだ。

 一般に,日本のIT活用を分析してみると,人によるサービスにあまりコストをかけたがらないハードウエア中心の考え方,人材の流動性の不足の2点が阻害要因として表れることが多い。日本におけるLinuxの未来についても,この構造的問題は重大と言えそうだ。

 次回は,主要ベンダーのLinux戦略について分析する予定である。