米Sun Microsystemsと米Microsoftの2社は,米国時間2004年4月2日,歴史的な和解を発表しました。和解内容の詳細については,こちらやこちらをご覧いただくとして,今回は,2社の和解の本音を探ってみたいと思います。
現在報道されている和解の関連記事を総合的に分析してみると,「最終的には,両社の今後の動きを見守る以外にない」,というのが結論のようです。この場合の「今後の動きを見守る」という表現ですが,具体的には,何を見守るのでしょうか。また,なぜ見守る必要があるのでしょうか。このあたりの事情を考えてみましょう。
本音を語る資料はどれか?
何を見守るのか? この疑問への自分なりの回答を探し出すためには,いくつかの公開資料を読まなければなりません。インターネット上には多数の資料が公開され,ほとんどの人は,いったいどの資料や記事を読めばよいのか悩んでしまうと思います。私たちには自由に使える時間が十分にあるわけではありません。さて,皆さんならどの情報を,どのような基準の下で選択しますか。
私たちのIT業界は(表面的であったとしても)技術革新を日々繰り返しています。例えば,あるソフトウエア・ベンダーが新技術を発表すると,そのベンダーは豊富なサンプル・コードを含むSDK(Software Development Kit)をインターネット上で公開します。私たちは(必要性を感じない場合でも,時には)多量のドキュメントとサンプル・コードに一通り目を通します。
筆者は,ドキュメントではなく,サンプル・コードに先に目を通す習慣を持っているのですが,目を通すサンプル・コードは時間をかけて練り上げられたものより,荒削りのほうがよい,と考えています。荒削りなコードには,そのコードを作成した担当開発者の意図がストレートに反映されているような安心感があります。
今回の歴史的な和解の目的をストレートに反映している資料はどのようなものでしょうか。それは,話し言葉(つまり,生の声)を載せた資料です。私たちは友人と会話する場合,「美しい言葉」を話そうなどとはそれほど考えないはずです。特に切羽詰って相談に乗ってもらうような場面では,「お金がない」「恋人に振られた」「失業した」などの素朴な単語を使用するのが普通です。こちらの資料は,Microsoft社CEOのSteve Ballmer氏と,Sun社会長兼CEOのScott McNealy氏の生の声を文書化したものです。文書内では,次のようなことが述べられています。
- 2人は既知の間柄である
- 和解を持ちかけたのはScott McNealy氏である
- 和解を持ちかけた動機は,顧客の要望であった
- 和解は午前4時15分頃合意に達した
- Microsoft社のBill Gates氏とSun社のGreg Papadopoulos氏は別の協議を行っている
- この和解は,Bill Gates氏とGreg Papadopoulos氏間の協議を成功させるフレームワークである
- C#とJava,および.NETとJava Webサービス間の問題は,Bill Gates氏とGreg Papadopoulos氏間で話し合われている
すべてのリスト項目は臨場感あふれるものですから,いろいろな想像が脳裏を駆け巡ります。例えば,Scott McNealy氏が和解話を持ち出し,翌朝の4時まで粘りに粘って,Steve Ballmer氏を説き伏せた,などといった想像もできます。さて皆さん,このリストを見て,どのような印象を持ちましたか。
皆さんの中には,Greg Papadopoulosという名前をここで初めて知った方もおられることでしょう。同氏に興味のある方は,こちらをご覧ください。基本的には,Bill Gates氏がMicrosoft社のChief Software Architect(CSA)なら,Greg Papadopoulos氏は,Sun社のCSAといったところでしょうか。ここでまた想像力が働きます。これら2人のCSAの関心事は,Webサービス(.NET)やグリッド・コンピューティングなどの分散コンピューティング技術の普及です。普及させるには,セキュリティの向上とともに,プラットフォーム間のInteroperabilityの改善が必須になります。
冒頭で述べた何を見守るのか?,また,なぜ見守る必要があるのか,その答えは次のようになると思います。
C#とJava,および.NETとJava Webサービスの将来は,Bill Gates氏とGreg Papadopoulos氏の二人が握っているため,Bill Gates氏とGreg Papadopoulos氏間で行われている協議を見守る必要がある。
Bill Gates氏とGreg Papadopoulos氏の間で行われている協議がうまくいけば,Javaアプリケーションを開発するための優れた,Windows用のビジュアル・ツール製品が出荷されると期待されます。
なお,Steve Ballmer氏とScott McNealy氏の会話の中には,IPという略語が何の説明もなしに使われています。このIPは,Internet Protocolではなく,Intellectual Property(知的財産)の意味で使われています。和解協議に参加した人たちの間の最大の関心事が,IP,だったことがはっきり分かります。
本日のまとめ
- 生の話言葉は,多くを語る
- Bill Gates氏とGreg Papadopoulos氏の協議の結果はIT業界にとって重要な意味を持つ
本日は以上で終了です。次回またお会いいたしましょう。ごきげんよう!