田中 洋一郎

 元来,Windowsでのプログラミング環境は,従来のDOS環境でのプログラミングに比べて非常に敷居の高いものでした。マイクロソフトはこの問題に対してVisual Basic(VB)というビジュアル開発ツールを提供しました。VBにより,Windowsプログラミングが容易になり,さらにWindowsを身近なものに引き上げたのです。

 いま,これと同じ状況がLinuxにも訪れています。LinuxはフリーのUNIX互換OSとして普及しましたが,主にサーバー用途がほとんどです。もともとUNIXの世界は,操作するだけでもコンピュータの初心者が敬遠したくなるほど難しく感じるものですし,ましてプログラミングとなればなおさらでした。しかし,マイクロソフトがWindowsにVBを投入したように,ボーランドは2001年5月,Linux用ビジュアル開発ツールとして「Kylix」を投入したのです。

 Kylix は「カイリックス」と読みます。これはボーランドのWindows用ビジュアル開発ツール「Delphi」のLinux版にあたります。言語としては,Delphi同様,Object Pascalを採用しています。Delphiは,VBの対抗馬として登場した背景があり,開発画面の操作性や見た目もほぼ同じものです。Kylixは,Delphiで培われた環境を継承し,Linuxにおいてビジュアルな開発を実現する統合開発環境です。画面上でソフトウエア部品を貼り付けてGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)をデザインし,コードを記述するだけで,簡単にLinux上のクライアント用アプリケーションを作成できるのです。さらに,今回取り上げるOpen Editionは無償で入手できるのです。ただし「Open Edition」の名が示すように,オープンソースのプログラム以外は開発できないという制限があります。今回は,この「Kylix Open Edition」を使って,Linuxプログラミングの第一歩を踏み出してみましょう。

 ここでちょっとOSの話をします。今回は,Linuxディストリビューションとして,「Redhat Linux 7.1J」を使います。ちなみに,Kylixで動作確認されているディストリビューションは表1のようなものがあります。また,今回の連載は,Linuxのオペレーションを一通り知っていることを前提として話を進めますので,ご了承ください。

販売製品名
ターボリナックス ジャパンTurbolinux Workstation 日本語版 6.0
Turbolinux Workstation 日本語版 6.0 Limited Edition
Turbolinux Server 6.1
Turbolinux Server 6.5
Turbolinux 7 Workstation
デジタルファクトリKondara MNU/Linux 2000
Kondara MNU/Linux 2.0
日本SCOCaldera Open Linux 2.3
ホロンHOLON Linux 2.0
HOLON Linux 3.0
ミラクル・リナックスMiracle Linux Standard Edition V1.0
Miracle Linux Standard Editoin V1.0 Update1
Miracle Linux Standard Edition V1.1
メディアラボLinux MLD 5
レッドハットRed Hat Linux 7J
Red Hat Linux 7.1J
Project VineVine Linue 2.1
Vine Linue 2.1.4
Vine Linux 2.1.5
表1●動作確認されているディストリビューション

早速ダウンロードしよう

 「百聞は一見にしかず」ということわざ通り,何はともあれ,現物を入手しなければ始まりません。早速,Kylix Open Editionをダウンロードしてみましょう。まずは自分のアカウントでログインし,X Window Systemを起動します。ウィンドウ・マネージャはGNOMEを想定します。そしてNetscapeなどのWebブラウザを起動して,以下のURLにアクセスします。

http://www.borland.co.jp/kylix/

 このページはボーランドのKylixに関するページです。ここには最新の情報や他の Editionの機能比較などが載っていますので,時々見にくることをお勧めします。また,ここにはKylixが動作するディストリビューションかどうかをチェックしてくれるテスト・プログラムもあるので,ダウンロードする前に実行してチェックしてみるとよいでしょう。

 では,ダウンロード・サイトに移動しましょう。ダウンロード・サイトのURLを以下に示します。

http://www.borland.co.jp/kylix/openedition/

 Kylix Open Editionは,このページからダウンロードできます。「Kylix Open Edition 日本語版 ダウンロードファイル」という場所を探して,そこにある「kylix_oe_jp.tar.gz」FTPリンクをクリックして,ダウンロードを開始してください。保存先は,ユーザーのホーム・ディレクトリ直下です。もしFTPサイトにうまく繋がらない場合は,ブラウザの「戻る」ボタンを押して前のページに戻り,リンクを上で右クリックし「リンクを名前を付けて保存」を選んでください。ファイルは約30Mバイトありますので,気長に待ちましょう。もしネットが繋がらないなどでダウンロードできないときは,シーイーシー,ベクターのWebサイトからもダウンロードできます。

 Kylix Open Editionは無料ですが,使用するためには,ボーランドが主催する「Borland Mail News(BJMN) Members」にユーザー登録しなければなりません。Kylix Open Editinのインストールには,インストールキーが必要だからです。ユーザー登録すると,インストールキーがメールで届きます。

インストールしよう

 では,いよいよインストールしましょう。Kylixでは,rootユーザー(管理者権限)でのインストールだけではなく,一般ユーザーでのインストールも可能になっています。皆さんが rootであるとは限りませんので,今回は一般ユーザーでインストールしてみましょう。

図1●「GNOME 用ターミナルエミュレータ」でファイルを展開する
 まずはダウンロードしたファイルの展開からです。コマンドを使いますので,何らかのターミナルを起動します。ここでは「GNOME 用ターミナルエミュレータ」を使います(図1[拡大表示])。ダウンロード・ファイルはGZIP+tarで固めてあるので,それを以下のようにtarコマンドを使って展開します。

tar -zxvf kylix_oe_jp.tar.gz

 展開後,kylix_oe ディレクトリが作成されます。このディレクトリ内に移動しましょう。

cd kylix_oe

 このディレクトリには,いくつかの大事なテキスト・ファイルが存在します。一度は目を通しておきましょう。では早速インストーラを起動しましょう。以下のように打ち込んでください。

sh setup.sh

図2●インストーラの情報入画面
 インストーラは,まずシステムのチェックを行います。チェック終了後,インストーラに日本語を使うかどうかを聞いてきますので「Enter」キーを押してください(デフォルトが日本語になっています)。その後ライセンス情報が表示されますので,内容を確認の上,「同意します」ボタンを押して下さい(「キャンセル」するとインストーラが終了してしまいます)。すると,インストールに必要な情報を入力する画面が表示されます(図2[拡大表示])。各項目について解説しておきましょう。

インストール・パス
 kylixをどのディレクトリにインストールするかを指定する部分です。プルダウンになっていて,代表的なディレクトリ・パスが選択できますが,一般ユーザーでのインストールなので,“/usr” や“/opt”を指定すると,権限が与えられていない限りは通常書き込むことができないので,ここではデフォルトで表示されている“/ホームディレクトリ/kylix”にします。

リンク・パス
 インストールしたKylixを起動するためのコマンドなどへのシンボリック・リンクを作成する場所を指定する部分です。これも,ログインしているユーザーが書き込むことができるディレクトリでないといけません。ここではデフォルトで表示されている “/ホームディレクトリ”にします。

主要プログラム・ファイル
 Kylixの本体や補助プログラムをインストールするかどうかを選択します。もちろん,デフォルトのまま(チェックをつけた状態)にしておきます。

Helpファイル
 オンライン・ヘルプ・ファイルをインストールするかどうかを選択します。これもデフォルトのまま(チェックをつけた状態)にしておきます。

Desktop(KDE/GNOME)メニューに追加
 KDEやGNOMEの使用時に,メニューからKylixの起動などができるようにするかどうかを選択します。もちろんその方が便利なので,デフォルトのまま(チェックをつけた状態)にしておきます。

 インストールに必要な情報は上記ですべて揃いました。いよいよインストール作業を実行しましょう。「インストール開始」ボタンを押してください。ファイルのコピーが始まり,その進捗状況が表示されます。作業が正常に終了すると,インストール完了画面が表示されます。「終了」ボタンを押してインストーラを終了させます。

 最後にX Window Systemを再起動させます。これは一度ログアウトしてから,再度ログインしてX Window Systemを起動することです。

図3●GNOMEメニューからKylixを起動できる
 以上で Kylix を起動する準備が整いました。GNOMEではメニューからKylixを起動できます(図3[拡大表示])。

 ではいよいよ Kylix を起動してみましょう。メニューからKylixを選択します。すると,まずフォント情報の生成が行われます。これは最初に起動した時だけの処理です。続いて,インストールキーなどの入力を行う画面が表示されます。ここでは,ユーザー登録後,ボーランドから送られてきたメールに記載されているものを入力します。

 正しく入力できたら「次へ」ボタンを押します。その後,登録をオンラインで行うかどうかを聞いてくる画面が表示されます。ここでは,一番上の「オンラインで取得する」を選択しましょう。それにチェックが入っている状態で「次へ」ボタンを押します。

 次に,どのユーザーとして登録するかを聞いてきます。すでに私たちはユーザー登録をしていますので,「Borland Mail News Members に参加していてパスワード登録も終わっている」を選択状態にして「次へ」ボタンを押します。

 ユーザー名,メール・アドレス,パスワードを入力する画面が表示されますので,ライセンスキーの取得の際に入力したときのものを入力して「次へ」ボタンを押しましょう。

 また,プロキシを使用するかどうかを聞いてきます。もし使用する場合は「プロキシサーバー指定する」にチェックを入れ,プロキシ情報を入力してください。使用しない場合は「直接接続する」にチェックを入れて「次へ」ボタンを押します。

図4●Kylixの開発画面
 最後にボーランドに送信する情報が表示されますので,確認後「次へ」ボタンを押してください。正しく転送されれば,成功を表す画面が表示されます。そこで「終了」ボタンを押します。さあ,いよいよKylixが立ち上がります(図4[拡大表示])。ユーザー登録が必要なのは初回だけで,次回からは直接Kylixが起動します。

 Kylixを終了するときは,「ファイル」メニューの「終了」を選択します。これは一般的なWindowsアプリケーションと同じですね。では,終了させてみましょう。

 今回は,Kylixのダウンロードからインストールまでを解説しました。次回からは,実際にKylixを使って簡単なプログラミングなどをやっていきます。Linuxの用途が Kylixを使うことによって間違いなく広がることでしょう。お楽しみに。