企業情報システムの中でネットワークが果たす役割は,日を追うごとに大きくなっている。アプリケーション開発とネットワーク技術の両方の知識を備えたSEでなければ,本当に価値のある企業情報システムは構築できない,といっても過言ではないだろう。とはいえ,ネットワーク技術は日進月歩で進化しており,キャッチ・アップしていくのは大変だ。また,ネットワーク技術の入門書を手にしても,難しい用語や概念が並んでおり,いったいどこから手をつければよいのか分からない,と悩んでいる方も多いと思う。

 そこでこの連載では,企業システムを構築・運用するために,最低限知っておかなければならないネットワークの基礎知識を厳選して話を進めていこう。具体的には,現在,ネットワーク技術の標準となっているTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)の基本的な仕組みがテーマである。ネットワークの基礎をすべて解説するつもりはないが,まずは,今まで難解だと思っていたTCP/IPネットワークが,実は比較的分かりやすい仕組みで実現されているんだな,と実感していただければ幸いである。なお,このセミナーでは,特に断らない限りは,Windows NTネットワークでプロトコルはTCP/IPを利用し,LANとしてEthernetを使用することが前提であるとお考えいただきたい。

3つの“識別子”と名前解決,そしてネットワーク機器の役割を理解しよう

 さて,TCP/IPネットワーク上では,複数のコンピュータはどうやって互いに通信をしているのだろうか。通信相手を特定するため,まずはネットワーク上の各マシンを,他のマシンと区別する“識別子”が必要になる。これには,「コンピュータ名」,「IPアドレス」,「MACアドレス」という3つがある。また,実際に通信をするときには,相手の名前からIPアドレスを知るために「名前解決(Name Resolution)」という手続きを踏む必要がある。

 なぜ,3種類もの識別子が必要なのだろうか? また,実際に通信をする際には,これらはどのような役割を果たすのだろうか? 次回以降は,こうした疑問に答えながら,ルーター,ブリッジ,スイッチ,といった主要なネットワーク機器の役割についても紹介していこう。

まずは「ping」の使い方から

図1
 解説に入る前に,まずはpingというツールを使って,TCP/IPネットワークを実感してもらいたい。pingは,TCP/IPを利用するコンピュータ間で,データ(パケット)の送受信テストをするためのコマンドである。Windows 95/98やWindows NT/2000では標準で備えており,TCP/IPネットワークにつながっていれば利用することができる。次回以降でも,このpingを利用して説明をする場面がたびたび出てくるので,ここで利用法を覚えておいていただきたい。

 最初に,ネットワークにつながった手元のマシンで,コマンド・プロンプト(MS-DOSプロンプト)から

ping

と入力してみよう。pingの使い方が表示されるはずだ。

ping (送信相手の)コンピュータ名

または

ping (送信相手の)IPアドレス

と打ち,指定したIPアドレス,コンピュータ名を持つマシンまで接続できていれば,図1[拡大表示]のような画面が表示される。接続できていなければ「Request Time Out」といったメッセージが表示される。

図2
 IPアドレスやコンピュータ名の意味は次回以降で説明するが,試しに隣の人のIPアドレスやコンピュータ名を教えてもらい,pingを実行してみてほしい。それができなければ,自分自身のIPアドレスやコンピュータ名を入力してもよい。

 IPアドレスやコンピュータ名を知るには,Windows95/98であれば,[コントロールパネル]の[ネットワーク]を選び,[ユーザー情報]タブを選べばよい(図2[拡大表示])。また,同じ[ネットワーク]の[ネットワークの設定]タブで[TCP/IP]のプロパティを見ると,[IP アドレス]タブのところで,そのマシンのIPアドレスを発見できる。

 ただし,ここで「IPアドレスを自動的に取得」の項目がチェックされているときは,IPアドレスは明示的に示されていない。この場合は,マシン立ち上げ時にDHCPサーバーと呼ぶサーバーから,毎回異なるIPアドレスを動的に振ってもらっている。この場合は,コマンド・プロンプトで「winipcfg」と入力すると,DHCPサーバーに振ってもらったアドレスを確認できる(図3[拡大表示])。

図3
 pingによって,隣の人とIPレベルで正しく通信ができていることを確認できただろうか。

 pingは,自分が関与するシステムで障害が起きたとき,どこに問題があるかを発見する(これを「障害の切り分け」という)ために,非常に有用なツールである。例えば,いつも自分が使っているネットワーク上のファイル・サーバーが急に見えなくなってしまったとする。ここでネットワーク担当者に対して,ばく然と「ネットワークがおかしい」と文句を言っても,相手は困ってしまうだろう。原因はいろいろと考えられるからだ。

 そこで,とりあえずはpingを打ち,問題のサーバーとIPレベルで接続できているか否かを調べる。その結果を「pingは通ります」とか「pingも通りません」などと知らせるだけでも,ネットワーク担当者の対応は違ってくるだろう。

 この連載は,日経オープンシステムに連載した「新人SEのためのネットワーク入門」の内容をもとに,Webコンテンツとして再編集したものです。なお,日経オープンシステム別冊「新人SEのためのネットワーク入門」では,本記事の内容を詳しく説明するほか,実践編としてトラフィックの把握やネットワーク設計の実際などの内容もご紹介しております。内容のご確認とご購入は,http://coin.nikkeibp.co.jp/coin/nos/se/でお願いいたします。