高山 政夫

 私はソフトウエア・パッケージ・ビジネスをしている企業のマーケティング戦略(商品計画+マーケティング)のコンサルティングをしています。ASP(Application Service Provider)という言葉がまだないころから,インターネットの普及がアプリケーションの提供形態を変えると考え,インターネットでのアプリケーション提供サービスの企画を推奨してきました。その過程で,米国での「ビジネスモデル特許」の出願内容がインターネットでの新しいビジネスであることを知り,深く関心をいただくようになりました。そしてクライアントがASPを始める場合にも,将来の権利保護を考え,「ビジネスモデル特許」の出願を薦めています。実際,身近にお付き合いのあるソフトハウスやメーカーでも,インターネットの新しいサービスを「ビジネスモデル特許」として出願しています。まさにちょっとしたブームです。では「ビジネスモデル特許」とはどのようなものなのでしょうか。全4回で解説していきたいと思います。

 かなり前ですが,米国のXEROXが独自の営業方法をマニュアル化し,それを「ビジネスモデル特許」として出願したことが,新聞に載っていました。それを読んだとき「なるほど,アイディアやノウハウを,良く言えば大事にする,悪く言えばお金にするのが上手な米国らしい出来事だ」と思ったものでした。そして,米国で活躍する日本の企業も,ビジネス上の独自のノウハウをマニュアル化し,「ビジネスモデル特許」として出願をして対抗しているようでした。

 特許で保護する内容は「発明」と言われています。「発明」とは,自然の法則を利用した,新たな物や機械,装置を生み出すことです。その発明は大きく産業や社会に貢献します。それを生み出すまでに大変な努力を要するわけですから,簡単に模倣されてはその努力が報われません。すると真剣に発明に取り組む人がいなくなり,技術進歩は遅くなります。そのために特許制度を作り,その発明を保護することになりました。その趣旨からいくと,ビジネスの新しい方法も,発明と同じような扱いになるのでしょう。ビジネスの新しい方法では価値が低いとは言えませんが,少々特許の権利を広く認め過ぎるような気がしたものです。ただこれからは,新しいビジネスモデルは特許が取れる時代になったのだと理解をしていました。

 ところが,実際に「ビジネスモデル特許」の出願で弁理士の方に相談に行ったところ,上記のような私の理解は,ビジネスモデル特許の現状と少々,違っていたことを指摘されました。また,「ビジネスモデル特許」の範囲,審査の基準など,いろいろな点で未確定なところも多いようです。そこで,現状での「ビジネスモデル特許」を整理してお伝えしたいと思います。まず,特許の権利を挙げておきましょう。

A)特許の権利

 発明をした人はその内容を公表しますが,その際,特許権を取得します。それは独占的に使用し,同じことを他の人が行う事を阻止できる権利です。権利を行使できる期間は20年です。また,特許の内容を使用したいと申し込んできた人には,「実施権」と言いますが,ライセンス料を取って使用することを許諾することができます。知的財産権とも言います。

■「ビジネスモデル特許」とはどんなものか

B) そもそも「特許」とは

 特許法第2条で,発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう」とあります。発明は(1)自然法則の利用,(2)技術的思想である,(3)高度であるの3つの条件を満たすことが書いてあります。したがって,発明は「物の発明」(例:薬品,半導体など)や「物を作る方法」になります。ここで大事なのは,(1)の点です,人為的な取り決めは自然の法則ではありませんから,発明とはなりませんでした。したがって,ビジネスの方法そのものでは,これまでは特許の対象になりませんでした。

C) 特許の範囲の拡大

 当初,ソフトウエアは単なるコンピュータを動かすための取り決めであるとして,「著作権(絵画,文学,音楽のような創作)」としては認められていましたが,特許の対象とは考えられませんでした。しかし米国では,ソフトウエアも新規のアイディアは特許として認められており,今では,日本でも「アルゴリズム(算式,数学的論理)の発明」としてコンピュータ・プログラム特許として認められるようになっています。また,電子回路も特別な権利として保護していくことが認められるようになりました。プロパテント(特許びいきの意味です)政策といいますが,米国は先進国として,知的財産権の保護を国策としています。日本もその方向に在り,欧州も続いています。このような背景で,特許の範囲は拡大して来ています。

D) 「ビジネスモデル特許」の始まりは

 ビジネスモデル特許は,1998年7月に米国巡回控訴裁判所が下した「ステートストリート事件」の判決がきっかけで登場しました。米シグネチャ・ファイナンシャル・グループが有する「ハブ・アンド・スポーク」という投資管理方法の特許について,ステートストリート銀行が特許無効の訴訟を起こしたのです。一度はシグネチャ社に特許無効の判決が下りたものの,シグネチャ社が控訴し,「ビジネス方法だからといって特許にならない訳ではない」との判決が下りました。この事件以前にも,今日の「ビジネスモデル特許」にあてはまるさまざまな特許申請はなされていましたが,この事件の判決により,ビジネスの方法が特許になるという認識が強く広まったのです。

E) 「ビジネスモデル特許」の定義

 いろいろな考え方があります。広い考え方では,新規性があればビジネスの方法でも特許になる,とするものです。でも実際はそこまでは認められていないようです。「自然法則を利用した技術的発想」がない場合は認められません。最近の新しいビジネスのモデルは,インターネットやコンピュータの利用を前提にしていますから,そこで根幹であるコンピュータは自然法則である電子の特性を利用する技術ですから,そこに新規性があれば,特許として認められるようになったのです。

F) 特許との違い

 通常,特許はかなり厳密に審査をされます。「ビジネスモデル特許」が厳密な審査をされない訳ではないですが,従来の発明から比べるとその範囲は拡大しています。特許の権利期間は,特許庁の法律的な位置では,通常の特許と同様出願から20年です。

 また,特許ではその独占権の結果として,ビジネスの独占が起きることは在りますが,「ビジネスモデル特許」はその中心がビジネスの方法に有りますので,当然にビジネスの独占が出来ます。

 特許は米国で出願したものは米国内でその権利が認められます(属地主義といいます)。したがって,日本にはその権利が及ばないのですが,インターネットの「ビジネスモデル特許」はインターネットの性格上,世界中に繋がっていますので,日本で,米国の「ビジネスモデル特許」と同様の仕組みを構築した場合,米国での利用者が出て来る事が有ります。その場合は米国の特許権者から訴えられる可能性が有ります。その結果,「ビジネスモデル特許」の場合は国際的な独占権になりえます。