●はじめに

 この講座は,Javaでプログラミングした経験がない人に,Javaの概要を理解していただくためのものです。Javaを取り巻く技術が進化発展を続けているうちに,何となく乗り遅れてしまったと感じている人もいることでしょう。この講座をきっかけとして,あらためてJavaに再入門してみませんか。

 第1回目は,Javaの登場から現在までの歴史を振り返ってみます。また,2回目以降では,以下のような順で,Javaプログラムの動作原理や,Javaの基本的なプログラミング手法を紹介したいと思います。

第2回 Java=プログラミング言語+動作環境
第3回 Javaの前にC言語やC++を見ておこう
第4回 Javaはオブジェクト指向型言語である
第5回 Javaのクラス・ライブラリは魅力的だ

●Javaが開発された経緯

図1●Javaプログラムは,あらゆる環境で動作する
 それではまず,Javaの登場から現在までの歴史をご紹介していきましょう。Javaは,1990年に米Sun Microsystemsで開発が始まりました。このプロジェクトは,グリーン・プロジェクトと呼ばれ,Javaは当初Oak(オーク)と呼ばれていたそうです。今でこそ,Javaというとインターネットを前提として登場した言語のように思われがちですが,グリーン・プロジェクトの目的は,家電製品に組み込むマイコン用のプログラムを記述するための統一的なプログラミング言語を開発することでした。様々な機種の家電製品で同じプログラムを動作できれば,プログラムの開発コストを大幅に削減できます。このコンセプトは,Write Once Run Anywhereと呼ばれます。プログラムを一度記述すれば(Write Once),それがあらゆる環境で動作する(Run Anywhere)という意味です(図1[拡大表示])。

●インターネットブームの幕開け

 1993年にWebブラウザの元祖であるMosaicが発表され,1994年にNetscape Navigatorが登場し,インターネット・ブームの幕開けとなりました。Webブラウザを使って,世界中の情報を収集できることは,コンピュータの利用形態に大きな変化をもたらしました。このころのWebページは,文字や画像を表示するだけのものでしたが,その後Webページの中でプログラムを実行するまでに進歩していきます。グリーン・プロジェクトでも,インターネットへの対応を考えるようになります。そして・・・。

●インターネットとともに普及したJava

 Javaが公式に発表されたのは1995年です。この年は,Windows 95の登場がパソコンの普及に拍車をかけ,インターネット・ブームが加速してきた時期でもあります。Javaで作成されたプログラムとしてHotJava(ホット・ジャバ)が公開され,大きな話題を呼びました。HotJavaは,Javaが稼働するあらゆる機種のコンピュータで動作するWebブラウザです。Netscape Navidatorの成功の例からも分かるように,Webブラウザの市場を牛耳れば,インターネットの世界をリードできます。だからこそ,最初にHotJavaというWebブラウザを公開したのでしょう。

 HotJavaでは,Webブラウザの中でJavaプログラムを実行できました。これは,かなり衝撃的な出来事でした。いままで文字と画像しか表示できなかったWebページ上で,プログラムが動作するからです。当時の展示会では,Webブラウザの中で動画を実行するデモがしきりに行われていたため,Javaが動画再生のためのものだと誤解していた人も多かったようです。

●Netscape NavigatorがJavaをサポートする

図2●Webブラウザで動作させたJavaプログラム(JDKのサンプルより)
 1996年に,Netscape Navigator 2.0がJavaをサポートすることを発表しました。WebブラウザがJavaをサポートするというのは,Webブラウザの中でJavaアプレットというJavaプログラムを動作できるということです。HotJavaはあまり普及しませんでしたが,当時シェアNo.1のNetscape NavigatorがJavaをサポートしたことで,Javaは一気に日の目を見たのです。「Webブラウザで動作させるプログラムはJavaで作る」というイメージができあがりました。Javaに似た構文のスクリプト言語であるJavaScript(ジャバ・スクリプト)も登場しました。

 一方,インターネット対応に遅れをとったマイクロソフトは,Internet ExplorerというWebブラウザを発表し,その中でActiveX(アクティブ・エックス)と呼ぶプログラムを実行することで,巻き返しを計りました。Javaという言葉のインパクトが強かったため,「ActiveXとはマイクロソフトのインターネット技術の総称である」として,勢力を争っていました。その後Java陣営とActiveX陣営の切磋琢磨によって,技術は急速に進歩していきます。なお,Internet Explorerでも,Javaをサポートしています(図2[拡大表示])。

●JDKの無償提供でJavaプログラマが増加する

表1●主なJava開発ツール
 Netscape Navigator 2.0のリリースと同じ時期に,Javaプログラムの開発ツールであるJDK(Java Development Kit)1.0が発表されました。JDKは,Sun MicrosystemsのWebサイトから無償でダウンロードできたので,誰でもJavaプログラムを作成できるようになり,Javaプログラマが増加していきました。その後,JDKは1.1にバージョンアップし,JavaプログラムからデータベースにアクセスするためのJDBC(Java DataBase Connectivity)や,Javaのプログラムを部品化するJavaBeans(ジャバ・ビーンズ)といった技術が発表されました。JDKは,バージョンアップを重ね,JDK 1.2からは,Java2 SDK(Software Development Kit)と呼ばれるようになりました。Javaプログラムの開発ツールとして,市販の製品も数多く登場しました(表1[拡大表示])。

●現在のJava

表2●Javaを取り巻く歴史
 発表から数年間のJavaの利用形態は,クライアント側の小さなアプリケーションを作成するか,もしくはJava自体の研究目的がほとんどでした。しかし,1999年に開催されたJavaの展示会「Java One '99」で,Javaの利用環境を3種類に分けることが発表されたことをきっかけに,Javaを採用する動きが高まりました。Javaの3種類の利用形態とは,家電製品への組み込みプログラムを開発するためのJava2 Platform Micro Edition,アプリケーションを開発するためのJava 2 Platform Standard Edition,及びサーバー側のプログラム(サーブレットやJSPなど)を開発するためのJava2 PlatformEnterprise Editionです。この中で企業が最も歓迎したのは,Java2 Platform Enterprise Editionです。平成13年度からは,通産省が主管する情報処理技術者試験の選択科目として,Javaが採用される見込みだそうです。Javaの歴史を表2[拡大表示]にまとめておきます。

●おわりに

 家電製品に組み込むプログラムのための統一的なプログラミング言語として開発されたJavaは,OSやコンピュータの機種を問わずに動作するプログラムを求めていたインターネット環境にも合致し,それゆえ広く普及したのです。今後もJavaのニーズはますます高まり,Javaのプログラミング能力が不可欠の時代となるでしょう。次回は,Javaプログラムの動作原理についてご紹介したいと思います。